やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

ノーヘル『電動キックボード』をどう扱うべきか


 セキュリティクリアランス法が成立し、また、ACD(能動的サイバー防御)に関して関連法がドミノ式に改正される運びとなっている昨今、国家公務員の情報管理よりも関係する政治家やその秘書、親族などの情報保全と資金の動き観測が急務になりつつあります。

 平たい話が政治家の資金関係のスクープは赤旗や上脇博之先生みたいに地道に政治資金収支報告書を調べて積み上げていくか、アメリカ政府のご担当がぽつりとつぶやくネタをヒントに調べていくか、内部の裏切り者を見つけてリークネタからこじ開けるかぐらいしか方法がありません。したがって、特定のガバメントクラウド事業者が政産学一体となって利権構造を作っている場合は問題を解明する端緒もなかなかつかめないというのが実情です。

 調査報道は素晴らしいという声を上げる人たちこそ、ほとんどがリークネタでしか記事が書けないのはどういうことなのか…。

 で、これらの政治家の資金関係で特に問題となるのが最近増えてきた官僚OBやコンサル会社が仕込む政策ロビイング会社の顛末であります。あらかじめ断っておきますが、一連の話は何も政治家に見返りを渡さなければ、特定の政策を実現するために政治家に直接働きかけること自体は適法です。

 問題があるとすると、民泊もQRコード決済もライドシェアも偽装請負的出前もリーガルテックも電動キックボードも規制緩和・構造改革やイノベーション推進のお題目から政策方針に合致しているように見せかけて、消費者や労働者の権利が守られないような事業構築が当たり前のように行われており三方良しにはなかなかならないよねという点です。もちろん、古くはガソリン自動車が馬車を蹂躙することを防ぐために英赤旗法のような悪法の権化みたいなものができてイノベーションが阻害されたぞとか、規制緩和をきちんと進めないと海外の事業者に対して国内事業者ばかりが不利を蒙る業界構造になるだろうとか、批判が渦巻く世界であることもよく理解しておく必要はあります。

 ただ、電動キックボードについては当たり前のことですが利用者のモラルや交通安全意識についてうまく啓蒙が進まなければ、ノーヘルで安価な移動手段として普及しすぎて事故多発となり全面的に差し止めになる事案が出てもおかしくありません。これはイノベーションに対する阻害なのではなく、安全管理について詰め切れていない事業に対して公共側が如何に適切にNOというかという別の文脈の問題になりますから、注意が必要です。

 同様に、特定小型原動機付自転車のヘルメット着用は努力義務となっていることを悪用して、事実上、原付バイクと類似の仕様の二輪を市場に投入してしまい、まあ普通に危険じゃないかと思うわけですよ。

電動キックボード、豪メルボルン市がレンタル禁止を決定 事故多発と苦情殺到で

LUUP、「電動シートボード」を今冬投入 座って乗車・カゴ付き新型車両

 昨年、東京都がこのマイクロモビリティ推進協議会との協定を結んで安全運用への啓蒙を行ったり状況調査したりするよという話が発表になっていましたが、これらの運動が示唆するものは単純に電動キックボードの運転者が死亡する事故を起こすというよりは、電動キックボード側が第一当事者、すなわち「事故を起こす側」になっているということです。

電動キックボード等「特定原付」1年で死亡事故ゼロでした。でもほとんどが“加害者”です 警視庁管内

マイクロモビリティ推進協議会との協定締結

 また、損害保険界隈の話で言えば、暫定的に取り決めた電動キックボードのシェアリングサービス事業者向けの保険料については料率引き上げを進めるとしており、死亡事故が現段階で少ないのは単に「まだそこまで普及しておらず、利用者の総走行距離が原付ほど増えていないこと」が背景にあると見られます。また、一部データでは電動キックボードが車道モードで走っている速度が原付より遅いことで重篤事故が防げていると考えられる反面、電動キックボード人身事故においては第一当事者となって保険支払いの対象となった事故では約3割強が飲酒運転が引き金となったことが強く示唆されます。自転車のように手軽な移動手段と誤解した利用者が、酒を飲んで運転し、誰かとぶつかって事故る、というのは単純に前述メルボルン市のように「利用者の利便性よりも、街路を歩いている人たちの安全を考えて電動キックボードの利用を制限する(事業を中止させる)」方向に行く可能性はあるでしょう。

 んで、気にしている警察庁の面々も政治案件だからというニュアンスも言外に持たせながらも、過渡的な措置であって、事故件数が増えていくことが予見される中で対策をどのように取るのかは吟味中という話はしていました。まあ、制度変更すると事業者圧迫だなんだと怒られるので面倒くさいのかもしれませんが、元はと言えば超党派で自由民主党の山際大志郎さんを座長とし、法案審議などでは立憲民主党の山岸一生さんなども関わっておられる大所帯になっています。

自民党MaaS議連PTが「電動キックボードの普及に向けた規制緩和等に関する提言」を発表ヘルメット着用任意の電動キックボード実証実験の近況報告も
(当該URLが特殊で長文のため夜間飛行編集部で短縮URLに差し替えました)

もはや無法地帯……国が電動キックボードを許可した理由が衝撃

 最低でも、ヘルメット着用の義務化ぐらいまではやらないと、人身事故がある程度発生しているとされて原付と同様に問題になってから規制が敷かれて業界急ブレーキという話になりかねませんから、ちゃんと考えないといけないんじゃないかとは思いますけどね。

ヘルメットの着用義務はいつから?

電動キックボード=ヘルメット不要!ではない。 ノーヘルだと違反になるモデルもある

 なお、業界に対して某雑誌で取材を入れたところ、警察庁や警視庁はまあまあ事情を聞かせてくれるものの業者方面は軒並み取材拒否だったり、塩対応されたりするケースが多くて気になります。何か問題になっても政治家で突っ込んでくれれば解決するという気持ちでもあるのかもしれませんが、政治側が関心を持たなくなった際は出会い系サイト同様あまり業者に気兼ねせず国民のために対策を打ってくるのが基本ですので、やはり業界が自主的に安全対策と迷惑行為対応が可能なように先回りして頑張っておくのが筋じゃないかと思います。

 あとになってビックリするぐらい厳しい規制を敷かれて泣きついても、その当時の大物がいまでも大物とは限りませんからね。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.452 電動キックボード対応は今のままで大丈夫なのかとツッコミを入れつつ、難題ばかりの日中外交や普及するAI面接の話題などに触れる回
2024年9月1日発行号 目次
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【0. 序文】ノーヘル『電動キックボード』をどう扱うべきか
【1. インシデント1】総裁選を前にして、日本は相変わらず中国にはなめられているよなあという話
【2. インシデント2】AIに面接されるのが当たり前の時代はやって来るか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. インシデント3】『俺たちの大総裁選』出られる人の周辺がざわついてきてるよねって話

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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