やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

「美容手術後の合併症」と医師法改正、そして医療DXと医療提供体制改革


 荒れ気味を予想していた医療部会でしたが、重要な案件が多数にもかかわらず粛々と、淡々と議論が進んで一定の着地になったのは見事でした。お疲れさまでした。

 さっそく問題提起の記事が複数出ていて気にしておりました。

 振り出しとなった薬師寺泰匡さんのご意見と、舞台となった美容医療検討会でのリンクを置いておきます。

美容医療の適切な実施に関する検討会

悩ましい「美容手術後の合併症」対応

 ご多聞に漏れず、本件は「いま、起きているので対処が必要なこと(短期)」と「起きている原因を改善して発生を減らすこと(長期)」とで政策目標が全然違う話になるわけでありまして:

短期 美容外科で手術失敗するなどして起きた合併症は第三者行為のため保険医療で手当てできない
→ やらかした美容外科クリニックを加害者として被害者本人が弁済を受ける仕組みを用意し、正式に保険医療から外す告知宣伝と実施を行い、問題のあったクリニックと特定医師に対して報告を求めること

長期 そもそも第三者行為の保険不適用は交通事故被害者など善意の被害者にも起きてしまうなど制度上の問題点が指摘されるところの善処
→ 保険医療提供の不適用に関する除外規定を設けるかどうかの検討

同じく、そもそも美容手術に関する規制が存在せず、自由診療の中身も野放しになっており、医学的見地から考課が不明なものや有害なものまで含まれる中、手術の品質管理や手法上の規制をしないと美容医療による被害発生は減らない
→ 消費者行政にだけ美容医療を組み込むのではなく、包括的な医療行為については医師が国家資格であることも鑑み適正な監督体制を敷き、美容外科等に従事する医師に対しても応召義務を課すべき

 ということで、いい加減美容医療の界隈の無法地帯ぶりについてはどうにかせえよというのが本旨であります。

 それもあって、医療提供体制に対する改革や、本件を含めた医療行為における被害については、不適切な施術を行った医療機関や担当医師については本来は医療DX推進の観点からリファレンスをちゃんと取っておいて、問題のない医師に悪い影響が及ばないよう適切な再訓練・再研修を課す仕組みを何らか用意しないと駄目なじゃないかと思うわけです。

 これは、イギリスなどでは実施されている国民の治療に貢献した医療機関のスコアリングにまで踏み込めることを前提としているのですが、例えば、保険収載ではもう効かないことが分かっている薬剤がまだリストに載っており、保険でカバーされてしまっています。これは、単純に「普通に専門医として適切な情報をアップデートしていれば、そのような薬が効かないことは分かっているはずなのに、医師としての技量不足で患者に効かない薬を処方し続けている医師」を炙り出すことになります。医療行為を何人、何件対応したかを外形的に判断するだけでなく、何人の患者さんを診察して処方した結果、どのくらい治療できたのかを明示できる仕組みを用意することで、良い医師にしっかりとした仕事をしている褒章を出したり、キャッチアップが必要な医師に再研修を促したりすることができるようになります。

 美容診療においても、いまのところ診療結果に対するサーベランスが無きに等しいだけでなく、いまの医療行政においてこれらの業界の現状に対してリーチして引く手綱を握っていないからどうもならんことになって初めて部会ができて検討会を立ち上げ、出た話が数年、十数年のラグを経てようやく政策課題だぞと認知されるようになった、というのが現状ではないかと思うんですよ。

 その結果、エムスリーでも記事になってましたが「厳しい診療科」から高報酬がもらえる美容医療に若い医師が流れ、研修医としての経験もないまま診療や手術に当たるケースが続発しているのはさすがに問題だろうと思うわけです。

厳しい診療科からの「回避行動」で美容医療へ - 武田啓・日本美容外科学会理事長に聞く

 同じようなことは、獣医師界隈で産業医(産業獣医師)のなり手が少なく、都心でペット医が増えている現状や、自衛隊に入り各種車両やヘリコプターパイロットの免許も国費で取りながら職業選択の自由を行使して任官せず民間航空会社や輸送会社に就職するフリーライダーも同様に発生します。国家資格であり、社会的な要請があるからと国の費用で学んだはずの人が、社会的な貢献を行うことなく個人の利得に走ることについては、やはり何らかの制限をかけていかなければならないんではないのかと強く思うのであります。

 さらに、やはり役所OBで国のおカネで海外留学をし、なんらかMBAや博士・修士を取得して帰国した官僚が国の政策にきちんと従事して成果を反映させることなく民間企業に転出してロビー活動でカネを儲けているのを見たとき起きるブチ切れも想起させます。もちろん、骨まで埋めろというわけではないので、最近は一定の年数お勤めをしなければ留学にかかった費用を返還しろというのもあるわけですが、それだって辞めるのであれば他の職員を送るべきところかってに辞めちゃうのは役所に魅力がないから、待遇が悪いからという理由で袖にしていいとは言えないわけですね。

 なので、地域医療で特に医師偏在が問題になり、診療科で人が足りないところはどうするんだと議論しているのは、あくまで保険医として医療行政の袖の下で頑張っている人たちの中だけでやっている罰ゲームになっているのはきちんとメスを入れないといけないと思います。みんな苦労しているのだから、華やかな業界で好き放題やって高い給料もらってゴミみたいな技術しか持っていない医師の根性と技量を叩き直せという精神論ではなく、明らかに制度的不備であることも理解したうえでどうにかせえよということに尽きます。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.461 美容医療界隈の不始末から医療提供体制の課題までを語りつつ、窮地に陥りそうなガバメントクラウドやGoogleの話題に触れる回
2024年12月2日発行号 目次
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【0. 序文】「美容手術後の合併症」と医師法改正、そして医療DXと医療提供体制改革
【1. インシデント1】自治体データ標準どうすんだ、ガバメントクラウドって本当に必要かって話
【2. インシデント2】Googleを筆頭としたビッグテックのこれからをぼんやり考える
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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