やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

中国人のビザ免除方面も含めた日中間交渉のジレンマについて


 お陰様で当メルマガ『人間迷路』の読者数が増えていて、またいままでとは違った読者さんからのご反響やタレコミなども頂戴する中で、書きづらくなってきたネタが日中関係でございます。別に口止めをされているとか、利害関係で中国からパンダハガー的な工作を受けているとかいう話ではないのですが… 案件を追いかけていったら発端が中華人民解放軍系企業だったとか、海外から提供された情報の根幹のところで中国の問題がクローズアップされたとか、抜き差しならない系の話が増えているなあという印象です。

 でもこれはたぶん、昔から中国は日本に限らずいろんな国にそういう工作を繰り広げている中で、私がポジション的にそういう話に接しやすいところにやってきたというだけなんだろうなと考えています。

バルト海ケーブル断線、関与疑い船の捜査要請に中国応じず スウェーデン外相

 例えば、先般のバルト海の海底ケーブルを中国船が破断した件に関して目下大騒ぎになってきていますが、その動機はともかく、現在日中間でもこのような話が出てきています。常識的に考えれば、中国の海洋政策において、第二列島線を超えた膨張を企図する場合や、偶発的でも何らか台湾海峡や南シナ海、北朝鮮情勢で何事か起きた場合には、中国はフリーハンドで通信や電力を遮断するような工作をやりますよという示威行為に直結するようにも思います。

中国 日本のEEZ内にブイ設置 日本側求める即時撤去に応じず

 ところが、中国系の消息筋はだいたい3種類あって、中南海外交部の外交ルートと、なんとなく軍務系、そして中華戦略・情報部門系とに分かれているわけですけど、一連の流れにおいて、何が起きても平謝りをしてくる外交ルートは基本的に信用ならず、国家主席の習近平さんもあまり外交ルートに重きを置いているようにも思えません。

 勢い、軍事や情報の現場で彼らが何を言っていて、何をしているのかから推論を立てていくしかないのですが、目下、対EUでも対英語圏、対日本でも、猛烈な報道工作をやっています。半笑いで見ている私に対してすら、関係先や旧友の類から面談依頼や情報提供のお話があるぐらいですから、相当手広くやっているんじゃないかなあという印象はどうしても持ちます。

 何より、ブイはもちろん中国海警が設置したものだし、バルト海のケーブル切断を工作した中国船の乗組員もガチ中国人であることを考えれば、海洋での情報や物流のアクセスを遮断することに中国は非常に大きな関心を持っている前提なのは分かります。ただ、常識的に考えて、こんなあからさまにやるもんだろうかという疑念は常に巡ります。もはや「どうせアメリカにバレるんだから、コストかけずに最大の成果が出るようオープンにやり切ったれ」と開き直っているかのようなやり口です。

 また、一連の工作においては、スカンジナビアの海底ケーブルが遮断されても中国には特にメリットがないよなというのもあり、最大の受益者というとやはりロシアになってきます。情報部門が本件でザワついているのもこの話であって、わざわざ露顕リスクを負い、自前の船舶設備や人員を剥き出しで使ってまでバレる工作をど真ん中でやってきたのかってのは解釈において意見が分かれるのです。

 これはもうアナリストたちによる「予測」はあまり役に立たず、実際にどのような指令が行われ、いかなる指揮系統によるものであったのかという実態が分からなければ中華の意図はうかがい知れません。もちろん、消息筋はしきりに「中国の戦略当局による(いつものような)暴走」という観測を流しています。それって、特定の当局幹部が、ロシアによるウクライナ侵攻の局面で後方攪乱を目的にロシア側から便益を得て中国リソースを使い雑な作戦をやりました、というナラティブにしたいということなのでしょうか。

 もちろん、そんな簡単な話であれば逆に粛々と中国方面をデカップリングしたり調査分量を増やしたりと対応して不測の事態を軽減する施策を取るのでしょうが、日台間・日韓間も含めた友邦国との海底ケーブルの安全について、突然小林鷹之さんが外で喋っています。

海底ケーブル、日本政府はどう守る? 小林鷹之・元経済安保相に聞く

 むしろ、小林鷹之さんが喋った内容というよりは、どうも基礎取材をしっかりやっている黒田健朗さんという記者が最後に強烈な質問をぶっ込んできていることに好感を持ちます。

海底ケーブルを通じた盗聴リスクにはどう対応しますか。

 答え合わせなんじゃないですかね。知らんけど。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.462 日中間交渉のあり方に頭を悩ませつつ、認知問題と金融資産残高推計にまつわる難題や深刻化が進むサイバーセキュリティ問題などに触れる回
2024年12月28日発行号 目次
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【0. 序文】中国人のビザ免除方面も含めた日中間交渉のジレンマについて
【1. インシデント1】認知問題と金融資産残高推計を制度設計で守ることは可能か(雑感)
【2. インシデント2】サイバーセキュリティ問題がIT業界だけの特殊な事案ではなくなったということ
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. インシデント3】厚生労働省も、施策についての決定の経緯や事実関係をもうちょっとちゃんと説明すべきだよな

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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