高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

「あたらしいサマー・オブ・ラブ」の予感

高城未来研究所【Future Report】Vol.706(12月27日)より

今週は、オレゴン州アシュランドにいます。

米国北西部に位置するオレゴン州の冬は、曇りや雨が多く、日照時間がとても短い日が続きます。
同じ米国西沿岸部の南カリフォルニアに比べて年間日照時間がおよそ1000時間ほど短く、うつ気分や季節性情動障害(SAD)などの精神疾患の発症率が全米で最も高い州の一つとされ、従来の治療法では十分な効果が得られないケースも多いため、新たな治療法の必要性が高まっていました。

そこで2020年11月、住民投票(Measure 109)で「マジックマッシュルーム」として知られるシロシビンの治療目的での使用が合法化されました。
これにより、オレゴン州は米国で初めてシロシビンの医療利用を認めた州となります。
具体的には、州公認の施設でトレーニングを受けたガイドのもと、シロシビンを使用する「サービス・センター」方式を整備しており、2023年以降、登録済みの施設で成人がシロシビン・セッションを受けられる制度が段階的に運用が始まりました。

シロシビンは、「マジックマッシュルーム」に含まれる主要な精神活性成分で、摂取後に体内でシロシン(psilocin)という化合物に変換され、脳に作用します。
この化合物は、セロトニン受容体(特に5-HT2A受容体)を活性化し、意識や感情、知覚に影響を与えます。

一方、2022年の一般投票(Proposition 122)で可決された施策により、コロラド州もシロシビン(および特定の幻覚性キノコ類)の個人的な所持・使用を非犯罪化し、州としての規制枠組みを整備する方向に進みました。
これにより、成人による少量の所持や個人的栽培、セラピューティックな利用の道が開かれましたが、オレゴンのような「州公認のサービスセンター」がすぐに整備されるわけではなく、法律や規制の詳細は施行に向けて調整が続いている状況です。

また、シロシビンと同じく「サイケデリック療法」と言われる施術のひとつにケタミンがあります。
ケタミンはもともと麻酔薬として開発されましたが、近年ではその低用量投与が精神疾患、特に治療抵抗性うつ病や不安障害、PTSD、慢性疼痛などの治療に有効であることが注目されています。
ケタミンは主にNMDA受容体を阻害することで作用し、これにより、脳内のグルタミン酸の放出が増加して、脳の可塑性(神経ネットワークの再編成)が促進されるため、日々なかなか集中できない原因である脳のノイズを一掃する「デフォルトモードネットワークのリセット」にかなり効果的です。

シロシビンも低容量ケタミン(KAP=Ketamine-Assisted Therapy)も効果は幸福感や感謝の気持ちを強く感じ、感情の解放や自分自身や人生についての新たな視点を得ることができる自己洞察が特徴です。
思考が柔軟になり、アイデアが浮かびやすくなる創造性の向上、自然や宇宙との一体感を感じ、精神的な気づきをもたらしますが、現在は共に数千ドルのコストがかかるため、けっして安価な治療ではありません。

今後、オレゴン、コロラドに続き、サイケデリック療法はカリフォルニア、マサチューセッツと次々と合法に向かい、全米であらたな取り組みがはじまろうとしているのは間違いありません。
やめられない怠惰な生活や安易な食事を抜本的に改善するため、現在、栄養療法を手掛ける米国の医師たちは、サイケデリック療法に可能性を感じ、取り組む人たちも急増しています。

もしかしたら2030年代は、「あたらしいサマー・オブ・ラブ」が起きるのかもしれませんし、変性意識による「内宇宙への旅」が本格的にはじまるのかもしれません。

さて皆様、本年も大変お世話になりました。
来年も意欲的なプロジェクトを多くの方々とご一緒したいと思っておりますので、懲りずにお付き合いくださいませ。

どうか「善い」お年を!
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.706 12月27日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

その他の記事

Qualcommブースで聴いたちょこっといい話(小寺信良)
「銀座」と呼ばれる北陸の地で考えること(高城剛)
人間関係は人生の目的ではない <つながり至上社会>の逆説的生き残り戦略「ひとりぼっちの時間(ソロタイム)」(名越康文)
「相場下落」の冬支度、なのか(やまもといちろう)
人工知能の時代、働く人が考えるべきこと(やまもといちろう)
「VRでサッカー」を堪能する(西田宗千佳)
児島ジーンズ・ストリートを歩いて考えたこと(高城剛)
(1)上達し続ける人だけがもつ「謙虚さ」(山中教子)
なぜ東大って女子に人気ないの? と思った時に読む話(城繁幸)
素晴らしい東京の五月を楽しみつつ気候変動を考える(高城剛)
史上最高値をつける21世紀の農産物(高城剛)
「狭霧の彼方に」特別編 その2(甲野善紀)
録音がそのままテキストに?!「Recoco」はライターの福音となるか(西田宗千佳)
2つの日本式システムが内戦を繰り広げる成田空港の不毛(高城剛)
突然蓮舫が出てきたよ都知事選スペシャル(やまもといちろう)
高城剛のメールマガジン
「高城未来研究所「Future Report」」

[料金(税込)] 880円(税込)/ 月
[発行周期] 月4回配信(第1~4金曜日配信予定。12月,1月は3回になる可能性あり)

ページのトップへ