※高城未来研究所【Future Report】Vol.326(2017年9月15日発行)より
今週はロンドンにいます。
久しぶりに、2012年に開催されたロンドン・オリンピックで再開発された跡地を巡ってみると、それなりに活況を呈していて驚きました。
アテネやリオのオリンピック跡地の惨状はひどいものですが、いったいロンドンオリンピックの際に開発された地域だけが、なぜ活性化しているのか、
この数日、ロンドナーに話を聞きながら、街を歩き考えました。
その理由は、たったひとつ。
時代に即したビジョンがあったことです。
ロンドンは、2010年当時英国キャメロン政権が、オリンピックにあわせて開発されるイーストロンドン地区に、米国シリコンバレーを街型に変えた「TechCity構想」を打ち出しました。
この「TechCity構想」とは、税制優遇やビザの緩和も含むIT産業に特化した英国政府による積極誘致政策で、その名前から元々ロンドンにある「金融」Cityに続く、第二のCity、すなわち「テクノロジー」Cityを目指したことが伺えます。
このイーストロンドンの「TechCity構想」は、英国が得意とするいくつかのジャンルに絞っている点に特徴があります。
金融や決済、スマートシティ、リテールなどに特化しており、シリコンバレーのような、なんでもかんでも情報サービス化するのとは、少し異なります。
「金融」Cityは、ウォール街の7倍の為替市場を持つ世界一の金融市場で、レガシーな金融システムでは手が及ばなかったマイクロペイメントやサイバーセキュリティなどのあたらしい才能を必要としていました。
この特化したテクノロジースタートアップを、官民あげてバックアップすることで、「ヒト、モノ、カネ」を、世界からこのクラスターに集めることに成功しました。
すでに現在、ロンドンはシリコンバレー、ニューヨークに次ぐ世界第3位のITクラスター (集積地区) となり、不動産価格は高騰しています。
オリンピックが終わったら無用の長物となる施設や周辺物件を、ITスタートアップとクリエイター達に見事に引き継いだ成長戦略が成功したのです。
また、レガシーなメディア、例えば国営放送のBBCをマンチェスターのMediaCityUKに移転させることによって、風通しの良さを政府がはかっているのも見逃せません。
古いシステムを温存するのではなく、もともとあった場所から移転させ、あたらしいものと古いもの双方に活力を与えているのも面白い動きです。
開発により東に大きく伸びるロンドンを行き来するには、公共交通も必要となります。
それが、エリザベス線です。
「クロスレール」と呼ばれるこのプロジェクトは、東西ロンドンを横断する大規模交通システムで、ヨーロッパ最大の建設プロジェクトでもあります。
このエリザベス線が開通すると、いままで交通網が発達しなかったために人が集まりづらかったイーストロンドンが、さらに活気付くのは間違いありません。
開通は、2019年を予定しています。
ロンドンの都市計画成功の秘訣は、あくまで政府は環境作りに徹していることと、動きが大胆でスピード感があることの二点です。
懸念点は、英国のEU離脱がいつになるかわからない点にあり、このままこう着状態が続くのか、なんらかの決着を見るのか、まだまだ見えません。
ロンドンの人たちと話すと「吹っ切れた」感を得ますが、確かに、短期的には損することもあるかもしれませんが、EUの足かせが外れ、より自由度が高まっているのも事実です。
政府が掲げる大きな祭り後のビジョンとダイナミックな変化、そしてスピード。
さらには、大国とも言えるEUからの離脱。
ロンドンは、オリンピックを機に大きく変わりました。
高城未来研究所「Future Report」
Vol.326 2017年9月15日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 未来放談
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 著書のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
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