小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

Alexaが変えた生活(悪い方に)

※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2018年4月20日 Vol.169 <善意と悪意号>より


先日、ついに一般発売が始まったAmazon Echo。Amazon様のご招待を受けて筆者が購入したのは昨年11月末のことで、それ以降ダイニングの音楽再生装置として、出窓の真ん中におかれている。

ただ我が家では、ストリーミング音楽の再生装置として、最初から評価は低かった。なぜかMusic Unlimited Echoプランに登録できなかったからである。

だが2ヶ月ほどしたある日、この理由が判明する。実はAmazon Echoが出る前から、Music Unlimitedの個人プランに加入していた。これが原因で、Echoプランに加入できなかったのだ。個人プランからEchoプランに乗り換えるには、いったん個人プランを無料プランにダウングレードしたのち、改めてEchoプランに加入し直す必要があった。それは盲点だった。

個人プランでいる間、Echoが個人プラン内の1台として登録できていたのか、確認する方法がなかったのも、混乱の原因だ。

晴れてEchoプランになり、さあこれから聴きまくるぞ、と思っていたのだが、どうも上手くいかない。それどころか最近では、あまりダイニングで音楽を聴かなくなってしまった。

 

Alexa v.s. 音楽オタ

筆者の妻は海外生活が長かったので、洋楽の知識が幅広い。筆者と8つも年が違うが、60年代から2000年代まで、かなりの洋楽好きを自認する筆者と知識量は互角である。妻の母も洋楽好きのため、物心ついた頃からキャロル・キングとか聴いて育った、そういう生活環境であった。

そういう2人が聴きたい楽曲は、かなりニッチである。Alexaに対するボイスコマンドでは、そういうリクエストに対して応えられないというのが、まず抜本的な問題だ。有料のUnlimitedサービスでは4000万曲以上があるので、おそらくサービスの中には楽曲はあるのだ。それをボイスコマンドで引き出せないのだと思う。

先日、それを象徴するギリギリのやつを見つけた。「Mike & The Mechanics」というバンドがある。Genesisのベーシスト、マイク・ラザフォードがソロとして率いるグループで、80年代末にはかなりのヒットを飛ばしたので、ご存じの方もあるだろう。

それを聴こうとして、「マイク アンド メカニックスの曲をかけて」と言っても、「みつかりませんでした」と返される。ヒット曲もあるわけだから、ベスト盤ぐらい登録されていてもおかしくないのだが、何度やってもダメだった。ある日ふと気づいて、「マイク アンド "ザ" メカニックスの曲をかけて」とリクエストしたら、見事再生された。確かに正式には"ザ" の一言が入るわけだが、前後がこれだけ合ってるんだからそこら辺はなんとなく汲み取ってくれよと思う。

ただAlexaの返事が、「ミケ アンド ザ メッチャニックスの楽曲をシャッフル再生します」というものだったので、ズッコケた。たぶんこんな調子で、楽曲はあるのにたどり着けないケースが山のようにあるに違いない。

そもそもこうしたピンポイントのリクエストは、ボイスコマンドには向いていない可能性もある。むしろもっとざっくりしたリクエスト、ジャズをかけてとか、ボサノバをかけてとか、そうしたライトな用途でしか使わないのであれば、そこそこ満足度は高いのかもしれない。

だがそれでも問題は残る。こうしたジャンルごとのリクエストは、単に決まったプレイリストが再生されるだけで、毎回同じ楽曲が同じ順番でかかるので、意外性が全然ないのだ。特にボサノバのプレイリストは、途中で研ナオコが出てくるのはどうにかして欲しい。「ボサノバ風」の曲ではあるかもしれないが、ポルトガル語で歌われるボサノバとは違う。こうしたプレイリストの誤り訂正もできないのには、音楽好きとしては辟易とする。

 

「手の内がバレる」が問題

筆者らがよくやる音楽の楽しみ方は、頭の中で鳴っている曲を探すというものだ。口ずさんだりはできるのだが、誰の何という曲かがわからない。J-WAVE「GROOVE LINE」でやっている「MUSIC RESCUE」は、電話で知りたい曲をハミングすると、リスナーが曲を教えてくれるという人気コーナーだが、それを2人でやるような感じである。

こういう遊びは、アプリ版のGoogle Play Musicが凄かった。アーティストまでたどり着ければ、あとは人気曲を上から順に再生するだけで、曲名を知らなくても大抵は聴くことができた。

そういうことが、ボイスコマンドではできない。Echoのアプリには音楽再生コントロール機能もあるが、楽曲を検索できるような作りにはなっておらず、4000万曲を超えるライブラリが無駄になっている。

もう一つ、これも僕らがよくやる楽しみ方は、その日の気分やムードに合わせて、アーティストや曲を選んでかけるというものだ。ジュークボックス的な楽しみ方である。

例えば朝であれば、「あっ今日はそういう気分か」というのが、音楽でわかる。夕食を作る時に、イタリアンであれば地中海風の曲をかけたりする。こういう仕掛けは、相手に手の内がバレたら面白くない。音楽だけで気分を語ったり、雰囲気を出したりしたいのだ。

だがボイスコマンドでは、Alexaに喋った時点で、曲が流れる前に手の内がバレてしまう。相手を驚かせたり喜ばせたりする、サプライズに欠けるのだ。

それでもこうした問題を乗り越えて、なんとかEchoを使おうとしたのだが、最後はもう「Alexa、音楽をかけて」ぐらいで済ませてしまうようになった。その時々に応じて適当にプレイリストを見繕ってくれるのだが、まあそれでもいいか、という妥協もしてみた。

だがそれではやはり物足りない。こちらにはせっかく知識があるのに、毎回「音楽をかけて」では、こちらの知識が無駄になる。

そんなわけで、結局Echoは子供達が天気予報を聴いたり、PPAPをかけてゲラゲラ笑ってるだけのものに成り下がった。ほかにもできること色々あるだろというツッコミもあろうかと思うが、スピーカーというからには音楽再生はメインフィーチャーとして使っていきたいわけだ。

もういっそのこと、以前のようにレシーバとしてのChromecast Audioと簡単なオーディオセットに戻そうかなと思っている。多少ゴチャゴチャするが、音楽のある生活に戻すには、Echoには残念ながらくつろぎの最前線からは退場していただくしかない。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2018年4月20日 Vol.169 <善意と悪意号> 目次

01 論壇【西田】
 iPadから考えた「個人向けコンピュータ」の変遷
02 余談【小寺】
 俯瞰するには悪くない?「4K8K機材展」
03 対談【西田】
 Cerevo・岩佐さんと語る「出展する人のためのCES講座」(6)
04 過去記事【西田】
 タブレット、なんでこんなに安くなる!?
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

12コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。   ご購読・詳細はこちらから!

その他の記事

細野豪志さんとJC証券が不思議なことになっている件で(やまもといちろう)
怪しい南の島が目指す「金融立国」から「観光立国」への道(高城剛)
「魔術」をアカデミックにひもとく ! ? 中世アラビア禁断の魔術書『ピカトリクス』の魅力(鏡リュウジ)
ワクチン接種の遅速が招く国際的な経済格差(高城剛)
これからの日本のビジネスを変える!? 「類人猿分類」は<立ち位置>の心理学(名越康文)
アングラ住人たちが運営する「裏の名簿業者」の実態(スプラウト)
広告が溢れるピカデリー・サーカスで広告が一切ない未来都市の光景を想像する(高城剛)
「けものフレンズ」を見てみたら/アマゾン・イキトスで出会った動物たち(川端裕人)
人生に「目的」なんてない–自分の「物語」を見つめるということ(家入一真)
人生を変えるゲームの話 第2回<一流の戦い方>(山中教子)
先進国の証は経済から娯楽大麻解禁の有無で示す時代へ(高城剛)
重心側だから動きやすい? 武術研究者・甲野善紀の技と術理の世界!(甲野善紀)
猥雑なエネルギーに満ちあふれていた1964年という時代〜『運命のダイスを転がせ!』創刊によせて(ロバート・ハリス)
「意識高い系」が「ホンモノ」に脱皮するために必要なこと(名越康文)
ポスト・パンデミックの未来を示すように思えるバルセロナ(高城剛)

ページのトップへ