やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

煉獄の自民党総裁選、からの党人事、結果と感想について申し上げる回


 いやー、自民党総裁選面白かったですね。4者4様特徴がありましたし、野党にもささやかながら見せ場もあり、概ね大団円な感じで良かったのではないかと思います。

 総理大臣の菅義偉さんレームダックからの幹事長・二階俊博さん斬りで求心力が一気に失われ、党三役人事の刷新を謳おうにも応じる有力者はおらず、それどころか総理専権のはずの解散カードを身内から封じられてのダッチロール滅亡というのは残念なことです。

 個人的には菅義偉さんはよく頑張っておられたと思っており、ちょっと安倍晋三さんの頃に比べれば意外と話を聴いてくれないなという面はあれども短期間に多くの仕事はした政権でした。

不人気だったけど、日本人の命を救った菅義偉政権を惜しむ ワクチン対策で日本人の命を救ったのは彼、それを忘れちゃダメ
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/66849

 ワクチン接種であれだけ命を守ったのに、アピールがうまくないだけでまるで失敗であるかのように言われてしまって支持率を失っていった菅義偉政権には残念な想いがいっぱいです。

 そんな中で、菅義偉さんが出馬断念をしたからこそ出馬のチャンスが回ってきたのが閣僚でもある河野太郎さん、小泉進次郎さん、茂木敏充さんでした。小泉さん、茂木さんも当初はいずれも出馬の可能性を探ろうとされ、結果的になかなか微妙なところになったわけですが、茂木敏充さんは政治家としてとても有能な人で、実績もあり当選回数から見てもチャンスがあってしかるべき人物だったのです。が、身内のはずの竹下派から推す声がほとんど出ることなく、自派閥のプリンスとしてみんなで担げば一角は占めたであろう今回も独自の総裁選候補を戴くことができませんでした。

 同じく小泉進次郎さんは逆に推す声があったのですがそもそも菅総理出馬断念の戦犯と言われ、本来なら菅さんからの要請に基づいて例えば幹事長職(ただし補助輪付き)にでもスライドしていれば総裁選延期・解散総選挙からの菅続投、そしてガースー長期政権へ、という世界線もあったはずです。残念ながらそこで小泉さんは踏み込むことができず、また無派閥ですので、推薦人が集まり選対責任者は置けても横のつながりから議員票を積むのはむつかしいということで、あれだけ出馬に色目を使っていたのに周囲から諭されて河野太郎さん支持に鞍替えした経緯はもったいないというべきなのかどうか。

 さらには、今回総務会長となった福田家御曹司の福田達夫さんについては、ご自身が派閥に属していながら若手から中堅まで横断の脱派閥政治を掲げて党風一新の会を立ち上げ。蓋を開けてみたら菅派(ガネーシャの会)や二階派、無派閥など中堅以下の選挙に弱そうな面々の寄り合い所帯となって、単なる「私たちはここにいます」アピールの場にしかならずに、最後は結局派閥の長のグリップ力が効いて密室で派閥ごとドーンという話になりましたので、それは仕方のないことなのかなと思います。

 その仕掛けの根幹にいたのはやはりというべきか安倍晋三さんと二階俊博さんで、一部報道でもあった通り密談が二人の間であり、これら党風一新の会も含めて「自主投票」のテイを取りながらも最後の最後はジジイが話し合って決めるというオールド自民党スタイルは健在です。でも、本来の派閥政治というのは必ずしも密室ということではなく、数は力なりでポストを取りに行く権力闘争の一態様にすぎないと思えば、今回の岸田文雄さん勝利の原動力も分かろうというものです。

 というのも、私も早くから岸田さん有利と思っていた最たる理由はやはり「結束した1割が残りの9割を支配する」のであって、宏池会が積年の問題を乗り越え岸田さんを支えようと本当に一枚岩になっていたところがあり、閣僚の平井卓也さんも小林史明さんも早いタイミングで岸田さん支持を表明しておられました。

 さらには、河井杏里夫妻の問題もあり広島県連と自民党本部との関係がグズグズになっていたところ、最終処理とまではいかずとも自分が出てナシをつけるということで岸田文雄さんが一定の収拾をしたのを見て、これは岸田さんの致命傷にはならずに済みそうだ、という雰囲気がありました。

 その点では、高市早苗さんの上半身と細田派からの脱退で無派閥になるプロセスではやはりいくら安倍晋三さんが細田派に高市推しを打診しても議員の側が身を切ってまで「高市さんをお願いします」とはならないというのもあるわけですよ。ネット世論だけでなく、自民党員の間でも高市早苗さんを推す声は高まっていましたが、肝心の議員の間で絶対に高市さんがいいという人はあまりおられなかったのが印象的です。

 その結果、河野太郎さんも高市早苗さんも党務で汗をかく人事になりました。さすがに重要閣僚を打診して取り込むよりは、目先に迫った衆議院選挙、さらに来夏の参議院選挙を見据えて勝てる自民党にしようという岸田文雄さんと周辺の考えもよく理解ができます。無難で良いのではないかと私は思いました。ただ、高木毅さん、小渕優子さんという、まあ、何と言いますか風評的にも実力的にも、ええ、まあアレな二人が在庫一掃気味に要職に充てられ、その後事情もあって国対は森山さんが臨時国会までは続投という不思議な体制になったのは画竜点睛を欠く感じでしょうか。

 岸田派としては、とにかく岸田文雄さんを総理にすることが第一目標であったので、岸田派が重要閣僚を独占する必要もなく、選挙にまずは勝ち、何かあったときの小幅な内閣改造で小出しにするぐらいが一番ちょうどよかったのかもしれません。

 他方、そういう高市早苗さんや野田聖子さんの「活躍」を見てひとり怒りと嫉妬に燃え上っていた(ように見える)のが都知事・小池百合子さんで、夏前からの自民党電撃復党プランが二階俊博さんの失脚で画餅になり、自力でやはり地域政党都民ファーストを全国政党ファーストの会に鞍替えして乾坤一擲、日本憲政史初の女性総理大臣を目指そうという流れになってきました。おそらく10月4日に結党集会でもやって11月14日投開票本命と見られる衆議院選挙を目指して策動するのだろうと思います。

 露骨にカネを集めているので「都知事選も都議選も終わってるのに、なぜ?」と言われておったわけですけれども、そんなの自分が国政に出たいから都知事電撃辞任でもして頑張りたいからに決まってるじゃん。馬鹿じゃないの。

 ということで、おそらく9区10区12区あたりは確定として、他何人か候補者を立て、小池さん本人が出馬するのならば6議席から7議席を東京都小選挙区と比例東京で稼ぐ算段なのかと思います。また、まだ都知事を辞めずに都ファからの鞍替えだけで今回の衆議院選挙に参入するという案もあるようで、その場合は取れて3議席とかでしょうか。ただ、小池百合子さんが名乗りを上げて女帝自ら9区10区あたりにご出馬あそばされるとなると、11月14日はもれなく都知事選ダブル選挙&都議補選となります。大変なことやと思うよ。

 この流れに向けて、自民党都連、他立憲や共産の野党連合もどうにかしないとならんわけですが、いままで都議会与党だった公明党が派手に小池さんに蹴とばされることになり、仁義の切りようがないぐらいグダグダになるのは目に見えています。小池ファースト党が自民党とのガチ対抗なのは仕方ないとして、ここで公明党とも関係を(一時的に)悪化させてでも候補者を立てる作戦に出られると、野党も一気に苦しくなります。

 いずれにせよ、小池ファーストの会も足回りは国民民主党の玉木雄一郎さん方面ときちんと結託し、連合に担がれればそこそこ票はとれるのではないでしょうか。そもそも国民民主党は長崎に自民党から対抗馬を立てられ、党勢は回復方向なもののどこかに落としどころを必要としていたので、野党共闘の枠組みに入れない以上はラストチャンスをモノにしにいくかもしれません。

 ほんと小池百合子さんはご自身の野望のために周りをぶんぶん振り回すのはよろしくないなあと思いつつも、上記の通りオールド自民党の派閥政治の閉塞感をこういう個人の思惑一本で正面から突き崩しに行く小池百合子さんの面白チャレンジには支持はまったくしないけど惜しみない拍手をしたいと思います。

 ほんと、ろくでもねえな。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.346 自民党総裁選の結果を振り返りつつ、広域通信制高校をめぐる規制内容見直しやここ最近のAmazonの動向などを語る回
2021年10月1日発行号 目次
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【0. 序文】煉獄の自民党総裁選、からの党人事、結果と感想について申し上げる回
【1. インシデント1】広域通信制高校、N高問題続発でついに規制内容見直し着手のお知らせ
【2. インシデント2】Amazonの変容が知らせるネットビジネスの潮目が変わる時
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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