高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

「不思議の国」キューバの新型コロナワクチン事情

高城未来研究所【Future Report】Vol.569(2022年5月13日発行)より

今週も、ハバナにいます。

先週土曜日、いま宿泊している5軒隣のホテル(以前の定宿)で大爆発がありまして、世界中のニュースを賑わしました(https://www.bbc.com/news/world-latin-america-61358186)。
原因はガス漏れとのことですが、22人の死亡者が出るほどの大惨事になっています。
僕も毎日のように通る場所なので、危なかったと言えば危なかったのですが、同時刻、別件で同行者数名が警察に勾留されていまして、それどころではありませんでした。
実はこの爆発のおかげで警察官が総動員したため、なし崩し的に釈放されました(半脱走しました)。
まあ、一般的とは言い難い旅行していますと、色々な場面に出くわすもので、爆発も勾留も格段珍しいわけではありません(一体、どんな旅行しているのかと思われるかもしれませんが、、、)。

さて、今週はお問い合わせも多いキューバのワクチン事情につきまして。

キューバの新型コロナのワクチン政策は、世界に類を見ません。
すべてのワクチンを自国で独自に開発しており、保険医療機関、学術界、製薬界が連携して、いままでに5種類の国産ワクチンを開発しました。

そのうち「アブダラ」と「ソベラナ2」、「ソベラナ・プラス」の3種類の使用がすでに承認され、いずれも90パーセント以上の有効性を示しており、各人の状況にあわせて複合的に打ち分けているのが特徴です。
また、キューバは人口1000人当たりの医師の数が8.4人と世界最高水準にあり、日本の2.4人と比べても多いため、接種も次々と進みました。

ワクチンを自国開発した理由は、60年代から米国の経済制裁下にあったため、製薬が手に入らず、自分達で作ってきた経緯があります。
先日もハバナ市内にある大きな総合病院に行ってお話しを伺うと、いまも昔も海外からの製薬輸入が厳しく、注射針がなかったことも多かったとのこと。「生き残るため」に、国家をあげて医療に取り組んでいる経緯と実情を垣間見ました。

なかでも、長年開発と安全性に取り組んできたB型肝炎ワクチンの応用技術があり、これをベースに再設計したのが、今回の新型コロナワクチンです。

リスクがあるとわかりながらも保存と輸送をすることを念頭に置いて設計されたモデルナやファイザー・ビオンテックなどのmRNAワクチンに対し、キューバ産はリスクが少ないタンパク質ワクチンを開発。
アデノウイルスを利用してRBDの一部の遺伝子を細胞内に導入するアストラゼネカやJ&J社のワクチンに比べて遥かに副作用が少ないと、キューバの医師たちは話します。
一般的にタンパク質ワクチンは開発に時間がかかり、複数回の接種が必要になりますが、キューバのワクチンで使われている遺伝子組み換えタンパクワクチン(サブユニット)技術は、子どもの予防接種にも何十年も前から採用されており、安全性の高さがなによりのメリットです。

このため、キューバでは世界ではじめて2歳からの幼児接種を開始。
すでに4回目を打つ人たちも少なくありませんが、重篤な副反応は見られません。
特に面白いのが、注射ではなく経鼻投与されるワクチンです。
新型コロナウィルスを引き起こすSARS-CoV-2ウイルスは呼吸器疾患であり、鼻咽頭の粘膜を介して感染するため、確かに理にかなっています。
こちらも、B型肝炎ウイルスのタンパク質に基づいており、細菌や酵母の組換え遺伝子工学によって粒子の形で生成され、その特性は免疫システムを強化します。
長年研究されてきたキューバ独自のバイオテクノロジー手法から得られた、特定のタンパク質に基づいたサブユニットのプラットフォームを使用しているとのことです。

このような低リスクワクチンを求め、海外からの「ワクチンツアー」が急増中。
国家も「ビーチとカリブ海、モヒート、そしてワクチン」という宣伝文句で外国人を呼び込もうとしています。

しかし、西側諸国ではキューバ製のワクチンを認めていません。
この背景には、西側諸国で作ったワクチンが、もし、キューバ製ワクチンに劣っていることや重篤な副反応が出る確率が高いことがわかってしまったら世界中パニックになり、また、米国が経済制裁する意味合いがなくなってしまいます。

国別罹患率を見ると、特定株に関してキューバ製ワクチンの優位性は確かに認められるのと、人種限らず、重篤な副反応がほとんど見られないのが特徴です。
また、ファイザー・ビオンティック製やモデルナ製ワクチンが高額で購入できない国々は、キューバ製のワクチンを求め、最大の輸出製品に躍り出ました。

このようなワクチンに加え、新型コロナの治療薬についても開発に力を入れています。
現在、キューバ国内で使われている標準治療薬17種類のうち、14種類がキューバ産で、中にはアメリカで使用を認められた治療薬もあるほど高い製薬技術が認められます。

今後感染拡大する新型コロナウィルス新株への一早い対応だけでなく、次にパンデミックを引き起こすだろうと予測されるいくつかのウィルスに対しても、すでに準備をはじめているとのことでした。

ちなみに現在、キューバでは新型コロナウィルスの新規感染者は、ほとんど出ていません。

「不思議の国」キューバ。
ここは、リアルな並行世界です。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.569 2022年5月13日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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