やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

「まだ統一教会で消耗しているの?」とは揶揄できない現実的な各種事情


 引き続き統一教会問題がグズグズと燃えていて、マスコミもさすがに飽きたのか報道量こそ減ってきているものの余波はまだ様々であります。

 先般、WiLLというそれ系の方がよく目を通される媒体で事件後早々に「自民党は統一教会との関係を断て」という記事を掲載したところ、その記事に目を通されて気分を害された方々から脅迫状めいたものを何通かメールや封書で頂戴しました。何とも物騒なことですなあ。

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 ただ、何と申しますか私もこの仕事を長く続けておりますので、怪文書のネタにされたり、脅迫されたり、拉致られそうになったり、日常茶飯事とまでは言いませんが一通りの経験はしています。念のために警察に相談を入れたところ、山本さんまたですか。今度は何が起きたんですかとクソ笑いながら所轄署のデカさんに応対されたのはどういうことなのか。

 文春やストイカでも寄稿したところ、パタッと抗議や脅迫の連絡は途絶えたので諦めたのか実力行使で来る腹を固めたのかはわかりませんが、世の中そんなもんだろうと思っております。

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 さて、記事でも何度も触れていますが、最近になって、ようやく自民党幹事長の茂木敏充さんが「統一教会と関係を断つことのできない議員には離党勧告を出す」という踏み込んだ話をしてくださるようになりました。

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 前後関係があまり詳しくは報じられていないため補足をしておくと、おそらくこの後で実はあれは統一教会信者でしたという秘書やボランティアが統一教会側からのリークとして出てくる可能性があり、また、自民党公認・推薦で地方議員や首長選挙に出馬し、当選した人たちの中にガチもんの信者の方々がおられますので、これへの処分をあらかじめ行える政治的な道筋を茂木さんがつけた形になりました。

 先に統一教会批判の最先鋒であった日本テレビ系『ミヤネ屋』への報復として、統一教会側が日本テレビ系の看板番組である『24時間テレビ』のスタッフに統一教会信者がいたというリークをしております。おそらく自民党にも似たようなことをしてくる可能性は高いため、先に手を打って、そういう関わりを断てない人は自民党から出て行けというところまでハードルを上げて、統一教会側からのリークがあっても大丈夫なようにしておこうという話であることは言うまでもありません。

 他方で、このやり方が通用しないとなると、統一教会としてはやはりいままで以上に信者の身許や信仰を隠蔽していろんな組織に食い込ませようとする行動に出るでしょうし、すでに法務省や総務省、外郭の独立行政法人などにも、分かっているだけで40人以上の統一教会への信仰の疑いのある幹部職員がいるとも見られています。

 困ったことに、これらの信仰があるからと言って、その露顕をもってただちに処分を行うことは、憲法が認めた信教の自由に著しく反し、違憲に他なりません。憲法20条で認められている信教の自由は、政府がこれらの信仰について組織内を調査することそのものもまた違憲であるという指摘を受けることも孕むため、純粋な信仰をもって駄目だというにはワンクッション必要になります。

 そのための統一教会問題の刑事事件化、解散命令を経て、宗教団体を隠れ蓑にして反社会的活動を行ってきた戦後最大のスパイ事案なのだと断ずる必要があるのですが、消費者担当大臣になった河野太郎さんの個人的なパフォーマンスもあり、民事事件としての統一教会問題を問う動きが先に立ち上がってしまったので、さてどうしたものかと思っているところです。

 本来であれば、安倍晋三さんの暗殺の場となってしまった奈良県警、また奈良県警本部長であった鬼塚友章さん、さらに警察庁長官であった中村格さんらが本件のような重大事件の責任を取って辞任をするという騒ぎとなっていますので、再発の防止も含めて警察庁もまた重責を負う当事者として事件解決への筋道を付けなければならない立場のはずです。

 それでもなかなか問題となるのは、公安調査庁が国内外の治安情勢をまとめた報告書「内外情勢の回顧と展望」の中で指摘する「特異集団」について、05年06年2回の発行分で「特異集団」と記載したのは統一教会であると明らかにしています。しかしながら、その後の推移においては慎重にこのあたりの論及から統一教会が外れ、何らかの理由で「特異集団」ではなくなった経緯があります。おそらく取り下げた理由が政治的に明らかになることはないのでしょうが、やはりこのあたりは注視していく必要はあるのでしょう。

 今後の流れとしては、文春に書いた記事の通りですが、概ね以下のような進め方を提案しています。

 これを解決するには、まずは何よりも(1)統一教会および関連組織を宗教法人法に基づいて裁判所からの解散命令の対象とすること、(2)宗教事業の中に含まれている経済行為(寄付や献金と、それによる韓国への送金や日本国内での不動産売買・賃貸収入など)を経済・営利事業と認め、これへの監査と徴税を行うこと、(3)統一教会の霊感商法や寄付・結婚強要など反社会的行為については消費者問題など民事で終わらせず、適切に捜査を行って刑事罰を与え、宗教行為と反社会的行為とを切り分けて対処を行うこと、(4)一連の事項を岸田文雄政権の主導のもと不退転の決意で断行し、今後は統一教会との一切のかかわりを断ち、類似の事案に対する再発防止を宣言し実行することに尽きると思います。

 で、おそらくは、統一教会やその関連団体の話だけでなく、広く霊感商法や悪徳商法、詐欺事件など、いままで立件するのが面倒くさくてしょうがなかったタイプの事件にまで認定できる範囲を広げて営業停止や解散命令を出せるような枠組みを作れるといいなとも思います。

 加えて、これらの監視と通報制度を充実させることで立ち入りが一掃できるようになればよいのですが、立ち入り検査権を持つ三条委員会の機能不全だけでなく、どうも河野太郎さんが民営化病を発症し、これらの業務を民間に委託するとか言い出し、個人的には「どうやって?」と思うわけなんですよ。どうせ何年も消費者庁にいない河野太郎さんのパフォーマンスを信じて突破力に乗っかって参入してみたら、はしごを外されて真っ逆さまに落ちる民間企業や組織が出ないことを祈るのみです。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.379 統一教会問題にまつわるあれこれを語りつつ、日本における情報法の扱いや有害図書指定の課題を考える回
2022年8月31日発行号 目次
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【0. 序文】「まだ統一教会で消耗しているの?」とは揶揄できない現実的な各種事情
【1. インシデント1】厚生労働省の仮名加工医療データの審議がいろいろアレな件で
【2. インシデント2】有害図書指定あるいは不健全図書指定という緩やかな検閲の輪
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. インシデント3】香川照之事件、銀座問題の点と線

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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