高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

日本のテレビ業界は変われるか

高城未来研究所【Future Report】Vol.711(1月31日)より

今週も東京にいます。

本来ならシリコンバレーにいる予定でしたが、某テレビ局の衛星部門の番組審議会に出席するため、渡航を伸ばして滞在しています。

年末から「大手芸能事務所とテレビ局の共犯関係」に問題の本質がある「事件」で日本は持ちきりですが、1980年代の米国では、CNN(ニュース専門)、ESPN(スポーツ専門)、MTV(音楽映像専門)など、特定ジャンルに特化したケーブルチャンネルが急速に拡大し、それまでテレビを独占していた地上波の再編が行われました。

ケーブルテレビや衛星放送の台頭により、視聴者は好みのジャンルを選んで視聴できるようになり、ABC、CBS、NBCなど地上波放送の一極集中が徐々に崩れ始めます。
結果として、地上波ネットワークの視聴率や広告収入の伸びが鈍化し、またいくつかのスキャンダルから、かつての独占的な立場から相対的地位を下げる方向に向かいました。
地上波ネットワークは、長らくアメリカ国内の広告収入の大半を占めていましたが、ケーブル各局がスポンサーを獲得していく中で広告市場が分散化。
当時、ケーブルテレビの台頭は「ニューメディア」と呼ばれていました。
この状況は、近年の日本の地上波とYouTubeを取り巻く環境に酷似しています。

日本の民放各局は、80年代に起きた米国のケーブルテレビや衛星放送と同じような社会的影響力低下を危惧し、政治家と総務省(当時の郵政省)に働きかけ、ケーブルテレビの台頭や続く衛星放送の普及を阻止します。
そこで衛星放送導入時に、テレビやレコーダーに挿入するICカード「B-CAS」システムを策定。
こうすることで、外資が日本国内であたらしいチャンネルを立ち上げるのを防ぎ、テレビメーカーも韓国や中国メーカーが日本に入ってくるハードルを上げました。

この結果、まるで「バーター取引き」のように各テレビ局は天下り官僚や政治家の子息を受け入れ、こうして政治家、官僚、テレビ局、広告代理店、家電メーカー(テレビ局のスポンサー)による強固な「情報統制する日本式システム」が完成するのです。

一方、1980年代の米国では、テレビビジネスが斜陽になるのと同時に、それまで俳優やタレントを牛耳っていた古いスタジオシステム(裏にはマフィア)が、主要人物の死去と共に瓦解しましたが、ケーブルテレビ局急増のため多様なコンテンツニーズが求められたことになりました。
そこで、この機にそれまでの「悪しき慣習」を一層するため、フェアで透明性を担保する州の法律「California Talent Agency Act」が定められました。
これにより、それまで独占的かつ中抜きばかりだったタレント契約が透明化され、代理人が不当に高い手数料を取ることを防ぎました。
こうして、CAA(Creative Artists Agency)やWMA(William Morris Agency)、ICM(International Creative Management)などのハリウッドエージェンシーが台頭し、優秀な人材がエンターテイメント業界に集まって、斜陽だったハリウッド産業全体が大きく躍進します。

米国に遅れること40年。
日本の「空気」を都合よく醸造してきたテレビ局と蜜月だった大手芸能プロによる「業界」と「悪しき慣習」は、これから本当に透明化されるのでしょうか?

今週、僕自身が番組審議会に出席しながら思うのは、少しづつ変わっても、もう十年は不透明な状況が続くだろうと感じています。
正直、バブル世代が引退しなければ抜本的には変わらないでしょうね。
なぜなら、大半のテレビ局員は、事実上の共犯者だからです。
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.711 1月31日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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