知を闘争に向けるのではなく、和合に向けるということ

『仏像 心とかたち』望月信成著

はざまに立たされた存在として

人間というのは、文字通り様々の「間(あいだ、はざま)」に立たされた存在である。生と死の間、無と有の間、有限と無限の間、部分と全体の間、夢とウツツの間……。

こうした様々に対立する二極を打ち立てて、その間で葛藤しながらも、なんとかその対立を概念的に乗り越えていこうとする意志が、ギリシアにはじまる西洋学問を駆動してきた「積極」というものだったのではないかと思う。実際、ピタゴラスの時代からすでに意識されていた「離散と連続の葛藤」、「一と多の葛藤」、「有限と無限の葛藤」は、現代にまで脈々と受け継がれて、数学を駆動する大きな原動力になっている。

先日私は、京都大学での講演に向かう途中、奈良の聖林寺に立ち寄って、十一面観音像にはじめてお会いしてきた。いまでもあの日の光景は鮮明に覚えているが、一度観音様を見上げたきり、いつまでもその場に立ち続けていたいと思うほど、なんとも居心地のよい場所であった。観音様は女性的でありながら、男性的で、笑っているようでありながら、泣いているようでもあって、止まっているようでありながら、時折花瓶に挿した花が風に揺れるのが見えるようでもあった。

それは、私が数学という方法で向き合おうとしている問いに対する、まったく違った解法のように思えた。

1 2 3

その他の記事

物流にロボットアームを持ち込む不可解、オーバーテクノロジーへの警鐘(やまもといちろう)
「日本の労働生産性がG7中で最下位」から日本の労働行政で起きる不思議なこと(やまもといちろう)
この時代に求められるのは免疫力を高め、頼らない「覚悟」を持つ事(高城剛)
これから10年で大きく変わる「街」という概念(高城剛)
週刊金融日記 第297号【世界最大のビットコイン市場であるビットフライヤーのBTC-FXを完全に理解する、法人税率大幅カットのトランプ大統領公約実現へ他】(藤沢数希)
なぜ今? 音楽ストリーミングサービスの戦々恐々(小寺信良)
ワタミ的企業との付き合い方(城繁幸)
世界中の未来都市を訪れて気付いた良い街づくりの必要条件(高城剛)
平昌オリンピック後に急速に進展する北朝鮮情勢の読み解き方(やまもといちろう)
外資系企業の「やり得」を止められるルール作りこそがAI規制の本丸(やまもといちろう)
経営情報グループ『漆黒と灯火』というサロンらしきものを始めることにしました。(やまもといちろう)
煉獄の自民党総裁選、からの党人事、結果と感想について申し上げる回(やまもといちろう)
どうも自民党は総体として統一教会と手を切らなさそうである(やまもといちろう)
川端裕人×松本朱実さん 「動物園教育」をめぐる対談 第1回(川端裕人)
見捨てられる子供の安全(小寺信良)
【DVD】軸・リズム・姿勢で必ず上達する究極の卓球理論ARP
「今のままで上達できますか?」元世界選手権者が教える、新しい卓球理論!

ページのトップへ