6月20日発売! 『「10年後失業に備えるためにいま読んでおきたい話』(城繁幸 著)
<これまでのお話>
キャンプからオープン戦へと、周囲の予測を覆す快進撃を見せるユニオンズ。しかしチームには、不穏な気配が徐々に見え始める。
第6話 闘志なき者は去れ
オープン戦が始まると、ユニオンズは大方の予想を覆し、12球団中勝率1位をマークするほどの快進撃を見せはじめた。メディアも手のひらをかえしたようにユニオン ズを持ち上げ、「日本型雇用の再評価」だの「山上再生機構」だのといったフレーズ が、連日スポーツ新聞各紙を飾った。
とりわけ注目の大一番だった巨人戦での勝利が大きかった。メディアのユニオンズ フィーバーはさらに過熱したが、それ以降、天下の読売グループも、しぶしぶユニオンズを取り上げはじめたのには、山田は留飲が下がる思いだった。
だが、監督の山上には、ある心配事があった。
「リストラ軍団とか粗大ゴミとか、えらい言われようでしたからね。まあ現時点でオープン戦勝率1位のユニオンズを、彼らも認めざるを得なかったということでしょう
ね」
「そうだといいんだが......」
監督の山上はどこか浮かない顔をしている。
「どうかされたんですか? あんまり顔色がよろしくないようですが」
「まあ、いろいろね」
山上の心配事は、レギュラー以外に、これといった控えが育っていないことだった(※1)。4番中森を軸に、クリーンナップも中継ぎ、ストッパーも、全部他球団から 連れてきたベテランばかり。安定感は抜群だが、その反面、若手にどうも覇気がない。色々考えたが、どうやらレギュラーの固定が原因のような気がする。
というわけで、先日も若手の抜擢を連合・古賀会長に提言してみたのだが、どうしても許可が出ないのだ。
「山上さん、年功のあるベテランを大事にするというのが、うちの理念だよ。実際、それで数字を叩き出しているのだから、このままで問題ないじゃないか」
「しかし、チームに緊張感を持たせるためには、一定の競争は必要かと。そのためには、スタメン落ちを含めたベテランの序列見直しが不可欠だと思いますが」
「そのために、ベンチや2軍に若手がいるわけだ。1番がダメなら2番、それがダメなら3番といった具合に、チャンスは誰にでもあるんだよ。ただ、その順番が、うちと他球団では違うというだけの話さ。まあ、君は大船に乗ったような気持ちでドーンと構えておればいいんだよ。アッハッハ」
と、山上はその時の様子を(案外芸達者だなあ、この人)と山田が感心するほど古 賀そっくりの口調で山田に教えてくれた。
「と、まあこんな具合でね、どうしてもベテラン優先で使えという話なんだよ」
「でも、そもそもベテランをスタメン落ちさせる必要なんてあるんでしょうか? 実際、うちが一番強いんだから、やっぱり長期雇用は間違ってないと思うんですけど。ほら、他チームも最近は、スタメンを固定し始めてますよね?」 「そりゃそうさ。もうすぐ開幕だもの。連中の試運転が一通り済んだってことだろう」
本来、オープン戦とは、様々な戦術や若手選手の実力を試すための場だ。聞いたことない若手やルーキーに先発させてボロ負けするのは、そのための投資みたいなものである。ユニオンズが他球団に勝てているのは、その試行錯誤のコストを負担していない(※2)というだけの話だ。
※1 これといった控えが育っていない/〝控え〞というのは勝手に育つものではなく育てるものである。一般企業において も、ノウハウを共有したりマニュアル化したりせず個人に任せっきりにしていた場合、突然の人事異動や退職で同様の問 題が勃発する。しかも中途で採用しようにも、終身雇用前提なので企業ごとに業務スタイルはまったくパラレルであり、 まず即戦力は採用できない。
※2 試行錯誤のコスト/あーでもないこーでもないといろいろやってみる手間。手慣れた先輩が新人にあえて任せるケース。 そういうことをやらないと前に進めないのは、個人も組織も一緒である。
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