小寺信良のメールマガジン「金曜ランチボックス」コラム:現象試行

「ネットが悪い」論に反論するときの心得

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宣材写真01sm小寺信良さんのメールマガジン「金曜ランチボックス」が2014年9月からリニューアル! ジャーナリスト西田宗千佳さんが加わり、業界俯瞰型メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」として生まれ変わります。

家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。

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ニュースソースの特徴

もう先々週の話になってしまうが、新潟県青少年健全育成県民大会というのに呼ばれて、青少年のつながり依存について講演してきた。この講演を最初にやったのは、今年1月の内閣府主催「青少年のインターネット利用環境づくりフォーラム」だったのだが、これがなかなか評判がよく、いろんなところからあの講演をやってくれと依頼が来るようになった。もう今回で4回目ぐらいである。

さてこの青少年健全育成県民大会というのは、現役の保護者やPTAではなく、いわゆる「なんとか育成会」クラスの方々が集まる会のようで、全体的に年齢層が高かった。育成会にはいろんなパターンがあるのだが、一般的には元PTA役員などが、すでに子供は大きくなって学校から離れてしまったけど、地域の有識者として学校や子供達に貢献したいという主旨で集まったものであることが多い。さらにスポーツの振興会とかと一緒になったりするケースもあって、本当に色々である。

ネット依存の中でも、ゲームや動画などのコンテンツへの依存と、SNSやLINEのようなコミュニケーション依存とは、ハマる原因が違うため、厳密に区別しなければ対策ができない。特にコミュニケーション依存は、人と繋がるということがメインなので、「家庭」よりも「社会」が関係する。大人社会のあり方と子供社会のあり方の双方が影響しているために、背景を探っていくとなかなか複雑だ。

この講演では、米国で進んでいるSNSの依存研究と、日本で行なわれている依存研究のいいとこ取りをしながら、今子供の社会はどうなっているのかを考えるというものである。

1時間半のうち、だいたい1時間15分ぐらいで講演し、残りは質疑応答となった。時間が短かったので質問者は2人となってしまったが、そのうちの1人、60~70代に見える年配者男性の質問が興味深かった。

曰く、「倉敷市の女児誘拐事件では、子供の携帯にGPSが付いているからと安心したから、未だ発見できていない。それなら携帯を持たせない方がよかったのではないか。」(大会当時はまだ女児は発見されていない)

これは、我々の世代ではなかなか出てこない発想である。問題を整理すると、次のような点が見つかる。

1. そもそもニュースへの理解が不十分
2. ひとつの事例だけで全体を判断しようとしている

まず1だが、少女の保護者は、GPSで位置確認ができたから安心したのではない。そもそも時系列の理解がまったく間違っている。当時の時系列については、J-CASTニュースの記事がよくまとまっているので、これを参考にしてみよう。

倉敷小5女児不明、ケータイも見つからず GPS機能があるのになぜなのか

まず最初に女児の母親が、不審な車を目撃して警察に相談したのち、GPSと防犯ブザー付きのキッズ携帯を持たせている。おそらく警察の勧めもあったのだろう。この判断は間違っていない。

さらに当日は、居なくなったのに気づいたのが先で、その後GPSを使って位置確認をしたというのが、正確な時系列だ。位置情報は、学校の北側と南側にわかれ、およそ20箇所を転々としていたことがわかっている。この20箇所というのは、20箇所に立ち寄ったという意味ではない。母親がおよそ20回、位置情報を検索したからである。安心などしていないことがわかる。

用水路から携帯見つかる 岡山の小5女児監禁事件

GPSが示した位置をくまなく捜索したが、女児は見つからなかった。

午前0時半頃、捜査員が電話をかけたが、応答はなかった。10分後には呼び出し音も鳴らなくなったと言うから、最初の電話は呼び出し音は鳴ったのだろう。

GPSや携帯の電波が届かなくなったのは、おそらくバッテリー切れのせいではない。キッズケータイは、だいたい待ち受け時間が400時間以上あるので、買ったばかりでバッテリーの劣化がなければ、10日以上は保つ。

これは用水路の中から発見されたということがポイントだ。キッズケータイは防滴・防水仕様なので、水没しても故障はしない。電波が届かなくなったのは、ケータイが水中に入ったからである。

GPSやWi-Fi、それからケータイキャリアが使う高周波は、水中では急激に減衰する。たとえば2.4GHzのWi-Fiでは、水中に1cm沈めただけで半減する。2cmで25%、10cm沈むと1%以下にまで減衰する。防水のスマホなどをお持ちの方は、お風呂に沈めてどれぐらいで圏外になるか、試してみると面白いだろう。

余談だが、潜水艦などの通信には、極超長波を使用している。周波数にするとだいたい300Hzから3kHzという、可聴範囲の電波である。またカシオから水中で使用できるトランシーバーが市販されているが、これの伝送には32kHzの超音波が使われている。

・カシオ「Logosease

こういうのはあまり知られていない話なので、犯人も知らなかっただろう。たまたまそこに用水路があって、そこに投げ込んだだけなのかもしれないが、これが不運だった。

さてそれはそれとして、この事件でGPS端末が子供の位置確認にまったく役に立たなかったとは言い切れない。少なくとも、方向はわかった。GPSが示した位置と犯人の家とは、学校、自宅を起点にすると延長線上にある。

1の問題点は、ニュースを中途半端な記憶だけで再構成し、携帯をもたせたくないという理屈に無理やりなすりつけた点なのだが、ではなぜこのようなことが起こるのか。

それは、年配者ゆえのニュースソースの少なさと、ニュースへのアクセシビリティの低さに原因がある。60~70代のメインのニュースソースは、おそらく新聞である。それにテレビのニュースが追加される程度であろう。もちろん、マスメディアとしてはそれで十分ではあるのだが、双方ともソースとしては一過性のもので、あとで見返すということはほとんどないメディアである。

いやいや新聞は何度でも読めるだろうと思われるかもしれないが、実際に新聞を数日後にもう一度じっくり読み返す人は少ない。これは読書のあり方として、そうならざるを得ないからだ。毎日毎日必ず送られてくること、そして紙面には自分の興味とは無関係に大量の情報が載っていることから、常に新しいところを読みたがる。以前読んだことがある部分など、読んでいる場合ではないほどの量なのだ。

一方でネットのニュースは、内容自体は紙の新聞と同じであるかもしれないが、複数のソースが読めるために、1つのニュースをより多面的に知ることができる。また、知りたい情報がより詳しいニュースも探すことができるため、疑問点を解消しやすい。

逆に一過性のニュースソースでは、検索性の低さから疑問部分は想像で埋めるしかなくなり、自分なりのつじつまが合うようにシナリオを再構成してしまうことで、事実から離れていってしまう。

昔の大人は、たいていみんなそうであったわけだ。だから昔の飲み屋は、ニュースを巡ってよく喧嘩になっていた。すべてのニュースに個人の解釈がついて回るからだ。

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