平川克美×小田嶋隆「復路の哲学」対談 第2回

競争社会が生み出した「ガキとジジイしかいない国」

「だいぶ前、僕が企画したシンポジウムに、当時まだオン・ザ・エッジをやっていた頃の堀江貴文さんに出てもらったことがあったんです。そのとき彼が言っていたのは、とにかく「年寄りは使えない」という話だったんだけど、僕が非常に印象に残ったのは、彼の言う「年寄り」というのがおそらくは「30歳以上」を指していたことなんです」

新刊『復路の哲学 されど、語るに足る人生』が話題の経営者・文筆家の平川克美さんが、コラムニスト、小田嶋隆さんと語り合う話題の対談、第2回!

※第1回はこちら

 

187A1589smsm
※写真:安部俊太郎

 

 

20代で大学を作った福沢諭吉

平川:今、大人がいなくなっているということについては、少し昔の人の写真を見るとよくわかります。20代、30代でも、昔の人って非常に大人っぽい風貌をしているんです。例えば、夏目漱石の30代ぐらいの頃の写真を見ると、非常に落ち着いた、深みのある佇まいをしている。30代にして、ああいう顔をして、あれほどの作品を書いていたのだということに改めて驚きます。

小田嶋:福沢諭吉が慶応義塾大学の前身である蘭学塾を作ったのなんて20代ですからね。「嵐」のニノとかマツジュンが大学を作っちゃうようなものですよ。

今の20代、30代には、そもそもそんなことは求められていませんからね。本人はもちろん、周囲も30歳を「大人」として見ていない。「何歳になれば大人」という社会の共通認識というものが、相当大きく変化していることは間違いないでしょう。

それはおそらく、明治まで遡らなくても、私たちが子供の頃と今とでも、ずいぶん変わっているのだと思います。例えば私が子供のころ、『少年マガジン』や『少年サンデー』といった雑誌の表紙は王選手や長嶋選手でした。彼らが小学校2、3年生の男の子の頭をなでながら、にっこり微笑んでいる。そういうふうに、王さんや長嶋さんを「お父さん」としてフレームに収めた図柄が、雑誌の表紙のひとつの定型だったわけです。

でも、考えてみると当時の王さんや長嶋さんって25、6歳ですからね。いまの感覚だと“若造”です。それこそ「嵐」より年下なんですから。でも、当時の彼らは周囲から「お父さん」として見られていたし、そういうふうに振る舞っていました。中身が本当に大人だったかどうかはともかくとして、少なくとも25、6歳の野球選手が、役柄として“大人”を演じていたんです。

平川:小説家や野球選手だけじゃなくて、一般の人も、昔と今とでは、まったく顔が違うんですよ。大阪の堂島の地下にバーがあって、残念ながらもう閉まっちゃったんだけど、そこのママが、何十年もお客さんの写真を撮って、アルバムにする、ということをやっていたんです。たぶん40年分ぐらいあったと思うんだけど、アルバム何十冊にわたって、各時代のサラリーマンの「顔」が収められているわけですね。

それを見せてもらったときに、40年前のサラリーマンたちの顔が、今よりもずっと大人だったことに驚いたんです。

小田嶋:ああ、なるほど。

平川:ひとつは服装がきちっとしてる、ということもあるでしょう。ソフト帽をかぶったりして、身なりがきちっとしているし、姿勢もいいんですよね。同じ30歳ぐらいでも、今の30代よりもずっと大人びているわけです。

それを見たとき、子供の頃見た、自分や友人の親たちの顔が、今の同世代と比べてずっと大人びていたということに気づいたんです。

 

平川克美さん新刊『復路の哲学 されど、語るに足る人生

復路の哲学帯2平川克美 著、夜間飛行、2014年11月刊

日本人よ、品性についての話をしようじゃないか。

成熟するとは、若者とはまったく異なる価値観を獲得するということである。政治家、論客、タレント……「大人になれない大人」があふれる日本において、成熟した「人生の復路」を歩むために。日本人必読の一冊! !

<内田樹氏、絶賛! >

ある年齢を過ぎると、男は「自慢話」を語るものと、「遺言」を語るものに分かれる。今の平川君の言葉はどれも後続世代への「遺言」である。噓も衒いもない。

amazonで購入する

 

1 2 3 4 5

その他の記事

ポスト・パンデミックの未来を示すように思えるバルセロナ(高城剛)
岐路に立つデジカメ、勝ち組キヤノンの戦略(小寺信良)
「編集者悪者論」への違和感の正体(西田宗千佳)
中進国の罠に陥って変わりゆくタイ(高城剛)
人生初めての感動の瞬間(光嶋裕介)
安倍昭恵女史と例の「愛国小学校」学校法人の件(やまもといちろう)
手習いとしてのオンライン・エデュケーションのすすめ(高城剛)
ネット教育今昔物語(小寺信良)
一寸先は、光。自分しかない未来を恐れなければ道は開けるものです(高城剛)
テレビと政治の関係はいつから変質したのか(津田大介)
「オリンピック選手に体罰」が行われる謎を解く――甲野善紀×小田嶋隆(甲野善紀)
いま必要なのは「ちゃんと知ろうとする」こと(家入一真)
暗い気分で下す決断は百パーセント間違っている(名越康文)
Macを外でどーすんだ問題を解決する「cheero Power Deluxe」(小寺信良)
映像製作とカンナビス・ビジネスが熱いロサンゼルス(高城剛)

ページのトップへ