岩崎夏海
@huckleberry2008

岩崎夏海のメールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」より

「貸し借り」がうまい人は心が折れない

a0d5ae603a4529fadd905813b54df0bd_s

心が健康でいられる方法は、なんといっても「言いたいことを言える環境」を作ることである。心を病む人というのは、言いたいことを言えない環境にある。言いたいことを言えないことが、心を病ませる。そして心を病むことが、体も病ませる。するとやがて、肉体を「要介護」の状態にしてしまうのだ。

要介護の状態になるというのは、一種の復讐だ。これまで言いたいことを言わないという形で無理強いしてきた自分の体に、自分自身が復讐されているのである。
だから、そうならないためには日頃から自分に恨まれないような生き方をしなければならない。自分をだいじにしなければならない。

では、自分をだいじにするにはどうすればいいか?
それは、言いたいことを言うということである。

では、言いたいことを言うためにはどうすればいいか?
それは、親しい人を作るということだ。言いたいことを言える家族や友人を作るのである。そうして、その人に言いたいことを言う。

ただし、ここで重要になってくるのは、その言うという行為が一方通行にならないことだ。ギブアンドテイクの、バランスの取れた「貸し借り」になっているということである。貸借関係がチャラになっているということだ。

なぜなら、ここでチャラになっていないと、早晩その関係は破綻してしまうからだ。

例えば、こちらが一方的にしゃべっていると、やがて相手の中にストレスが溜まってくる。そうして、いつしか相手が壊れてしまう。相手が壊れてしまうと、こちらとしても言う相手がいなくなるので困る。だから、相手の言うことも聞きながら、お互いに言いたいことを言い合えるような環境を作ることがだいじなのである。

そのため、「貸借関係」の勘所が分かっていないと、そういう関係を作るのが難しくなる。貸し借りの上手な人でないと、なかなか継続的な関係を築けない。

心や体を壊す人は、だいたい貸し借りが下手である。貸し借りが「下手」というのは、例えばカラオケに行ったら自分の歌いたい歌を歌う——ということだ。けっして周囲が聞きたい歌を歌わない。

以前、仕事仲間でカラオケに行ったことがあった。そのときは、下は二十代から上は五十代まで、さまざまな男女が参加していた。

そこで、「ぼくはこれしか歌えないから」と言って「はじめてのチュウ」を歌った三十代の男性がいた。すると、その場にはなんとも白けた空気が広がった。ぼくは、仕事柄そうした空気は生理的に耐えられないのだが、しかしその男性は、全然平気な様子だった。

それでぼくは、「こういう人が、やがて言いたいことを言えるような関係をなくし、心や体を壊していくのだな」と分かったのである。

「貸し借りの下手な人」というと、そういう「借りっぱなしの人」というイメージが強いが、実は「貸すのが下手な人」というのもこれに該当する。

「貸すのが下手な人」というのは、要はプライドが高い人である。人に弱みを見せられない人だ。いうなれば「裸の王様」である。

周囲からツッコミをされるのがすごく嫌いな人というのがいる。隙を見せるのが嫌いな人というのがいる。こういう人が「貸すのが下手な人」だ。

その逆に「貸すのが上手な人」というのは、ボケることが得意だ。例えば、とんちんかんだったり、おっちょこちょいだったりする。それで、周りからツッコまれたり、注意されたりする。

そういう人は、周囲にツッコまれることで、その場に一服の笑いを提供している。つまり、「貸し」ているのだ。だから、多少言いたいことを言っても、周囲が大目に見てくれる。

イメージでいうと、「男はつらいよ」の寅さんや「こち亀」の両さんのようなものだ。ああいう隙だらけで周囲からいつもツッコまれている人こそが、本人も言いたいことを言えるので、心が健康でいられるのである。

まとめると、心が健康でいるためには、自分が言いたいことを言うことがだいじだが、相手に言いたいことを言わせるというのも、同様にだいじなのである。

※この記事はメルマガ「ハックルベリーに会いに行く」に掲載されたものです。

 

岩崎夏海メールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」

35『毎朝6時、スマホに2000字の「未来予測」が届きます。』 このメルマガは、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(通称『もしドラ』)作者の岩崎夏海が、長年コンテンツ業界で仕事をする中で培った「価値の読み解き方」を駆使し、混沌とした現代をどうとらえればいいのか?――また未来はどうなるのか?――を書き綴っていく社会評論コラムです。

【 料金(税込) 】 864円 / 月
【 発行周期 】 基本的に平日毎日

ご購読・詳細はこちら
http://yakan-hiko.com/huckleberry.html

 

413ISPOvcgL._SL500_AA300_部屋を活かせば人生が変わる

夜間飛行、2014年11月

部屋を考える会 著

あなたのやる気の99%は、部屋の「流れ」が決めている!!

あなたではなく、部屋が変われば、あなたの意思は自然に強くなり、眠っていた能力が引き出されます。

岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

その他の記事

「罪に問えない」インサイダー取引が横行する仮想通貨界隈で問われる投資家保護の在り方(やまもといちろう)
「認知症」自動車事故とマスコミ報道(やまもといちろう)
トヨタが掲げるEV車と「それは本当に環境にやさしいのか」問題(やまもといちろう)
ヒトの進化と食事の関係(高城剛)
あるといいよね「リモートプレゼンター」(小寺信良)
石田衣良がおすすめする一冊 『繁栄―明日を切り拓くための人類10万年史』(石田衣良)
組織変革とは、まず自分が変わろうとすること(やまもといちろう)
津田大介メールマガジン『メディアの現場』紹介動画(津田大介)
古市憲寿さんの「牛丼福祉論」は意外に深いテーマではないか(やまもといちろう)
人も社会も「失敗」を活かしてこそサバイブできる(岩崎夏海)
川端裕人×オランウータン研究者・久世濃子さん<ヒトに近くて遠い生き物、「オランウータン」を追いかけて >第1回(川端裕人)
19人殺人の「確信犯」と「思想の構造」(やまもといちろう)
この時代に求められるのは免疫力を高め、頼らない「覚悟」を持つ事(高城剛)
川端裕人×松本朱実さん 「動物園教育」をめぐる対談 第1回(川端裕人)
遊んだり住むには最高だけど働くのは割りに合わない日本(高城剛)
岩崎夏海のメールマガジン
「ハックルベリーに会いに行く」

[料金(税込)] 880円(税込)/ 月
[発行周期] 基本的に平日毎日

ページのトップへ