※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2016年8月26日 Vol.094 <忙しき秋の足音号>より
8月24日、「文化審議会著作権分科会 著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会」の本年度2回目の議論が行なわれた。筆者はインターネットユーザー協会(MIAU)代表理事として、昨年から委員を務めている。
録音録画補償金制度のうち、録画補償金に関しては、2012年のいわゆる「東芝補償金裁判」によって、事実上機能しなくなっている。これを受けて、新しいクリエイターへの補償の形、というか、そもそも補償する必要性があるのかも含め、その範囲についてもう一回議論するというのが小委員会の趣旨である。
昨年は事実関係の把握で終わってしまった恰好だが、本年度からはいよいよ中身に入っていく。今回の会議は、その最初としてはなかなか活発な意見交換ができたと思っている。
今回からの議論は、3段階で1ステップずつ積み上げていくことになっている。筆者の理解では、
1 「補償の必要性を議論する範囲はどの部分か」
2 「それぞれの部分について補償の必要性はあるのかどうか」
3 「補償が必要な場合、どのような制度設計にするか」
という段取りになるはずだ。このうち今回は上記の1、「補償の必要性を議論する範囲はどの部分か」についてである。
音楽コンテンツに対する議論の範囲
補償としては、音楽と映像では産業構造が違うので、別々に話し合うことになっている。これまでの事実確認の結果、議論が必要であろうという範囲が事務局(文化庁)から示された。
音楽に関しては以下の図を見ていただきたい。
資料は文化庁のサイトにアップされると思うが、この議論は公開で行なわれ、傍聴者にも資料が配付されているので、特段秘密にするものでもないと考える。
この図のうちグレーで囲まれた範囲が、補償すべきかどうかを議論するエリアである。一番上は音楽CDを購入したケースだ。音楽CDにはDRMがかかっていないので、購入者はPCを使い、私的複製の範囲内で自由に音楽をデジタルデータとして取り出し、様々な機器にコピーし、利用できる。
2段目はダウンロード販売だ。ここは現状マルチデバイス対応サービスとなっており、一度の購入で複数の機器へダウンロードすることが可能である。ここは契約によって売買されている部分なので、私的複製ではない。したがって補償の議論とは関係ない。
それ以降、たとえばPCにダウンロードした音楽を、カーステレオで聴くために音楽CDに焼き直した場合はどうなのか、というあたりがこれから議論する部分である。
3段目は音楽ストリーミングサービスだ。ここはデータを聴き流していくというサービスなので、複製する余地がないため、今回の議論の対称にはならない。
最後はレンタルCDだ。レンタルで貸し出される音楽CDは市販のものと変わりないため、セルCDのケースと同じになっている。
またこの図にはクラウドへのコピーやバックアップが含まれていないが、HDD的な使い方と考えられることから、議論の対象になる予定だ。
HDDへのコピーは、ほとんどの場合PCの買い換えやHDDのクラッシュに備えたバックアップとしての利用となるはずだ。MIAUとしては、バックアップデータはそれをそのまま日常的に運用するわけではないので、ここは補償する必要はないと考えている。
映像コンテンツに対する議論の範囲
続いて映像に関する議論の範囲だ。
同じくグレーで囲った範囲が議論対象となる部分であるが、映像の場合はDRMがあることから、対象範囲は狭い。放送されたものを録画する部分、録画した番組をダビング10ルールに則ってメディアに書き出す部分が議論の対象になる。
MIAUとしては、放送から最初に録画する部分については、補償は必要ないと考えている。というのも、テレビを録画するという文化は1970年代にベータマックスとVHSができた時から、もう40年以上の歴史がある部分だ。消費者からすれば、「テレビを見る」とは、「放送をライブで視聴する」ことと「録画番組を見る」ことをほぼ同一であると見なしている。
さらに録画したもの全部を見ているわけではないということを考えれば、最初に録画する部分を「コピーした」という認識は持てないのが実情だろう。ここは筆者もいろんな人に何度も説明しているが、テレビ録画する行為を「コピーである」というのは、普通の人にはなかなか理解しがたい部分である。つまり、消費者感覚から大きくズレている部分だ。新しい制度設計をするのであれば、消費者感覚に即したものにしなければ、なかなかコンセンサスは得られないだろう。
最後に誤解のないようにもう一度念押ししておくが、上記のグレーの範囲すべてが新しい補償制度の範囲になるわけではない。今回の議論は白い部分、すなわち「もう話し合わなくていいところはどこか」を確定したということである。今後はグレーの範囲内ひとつひとつに対して、補償する必要あるの? ないの?ということを検討していくわけである。
さらにその先には、もし仮に補償が必要だとしたら、誰がどうやってお金を徴収するのか、徴収したお金は何にどう使うのか、といったところも議論のターゲットとなる。けっこう長い議論になりそうだが、著作権制度のリフォームが求められている現在、すでに破綻している補償制度は、もっとも早く議論が進む部分であろう。
今後も進展があり次第、最速で情報を共有していきたい。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
2016年8月26日 Vol.094 <忙しき秋の足音号> 目次
01 論壇【西田】
「社会に出る前にパソコンを覚えておくべき理由」はなにか
02 余談【小寺】
私的録音録画の新しい議論
03 対談【小寺・西田】
VRおじさん・広田稔さんに聞く「バーチャルリアリティ」の今とこれから(5)
04 過去記事【西田】
クラウドは仕事をどう変えるのか?
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと
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