組織運営も人間関係も恋愛も、すべての本質は同じだ

エッセンシャル・マネジメント(本質行動学)とは何か

本質×マネジメント

先日、ドラッカー学会に「構造構成主義による経営学の科学論的基盤の構築」と「ドラッカーマネジメントに関する信念対立の解明:世界の経営学の「最先端」が抱える本質的問題とは何か?」と題する2つの論文を投稿したところ、2本とも高く評価をいただき、学会誌の巻頭に掲載していただけることになりました。

そのこと自体、光栄なことだったのですが、それ以上に大きな収穫となったのは、この2本の論文を執筆する中で、今後の活動の指針となる言葉に出会うことができたということです。

それが「エッセンシャル・マネジメント・サイエンス」(Essential Management Science;本質行動学)という言葉です。世の中にはたくさんの大学や学部がありますが、「本質学部」や「本質学科」というものは見かけません。それもそのはずで、「本質を求める学(essential Science)」は、まだどこにも、きちんと体系化されたものが存在しないからです。

一方、マネジメント(manegement)というのは、狭義では「管理」と訳されますが、経営学では評価、分析、選択、改善、統合、計画、調整、指揮、統制、組織化といった様々なテーマを統合した概念です。これは言い換えれば「人間や組織にまつわるすべてをうまくまわすこと」と言ってもいい、「本質」に負けないぐらい、広範かつ原理的な言葉です。

ところが現実には、マネジメント論も他の学問分野と同じく、細分化により本質が失われつつあります。ドラッカー学会に出した論文も、経営学が細分化の道を辿り、本質が見失われていく傾向にあることに警鐘を鳴らし、学問の本質に向かう道筋を整備するものであったため、高い評価をいただけたのだと考えています。

もし、「本質×マネジメント」を掛け合わせた学問分野を作ることができたら何が起きるでしょう? これほど原理性と汎用性の高い言葉が組み合わされば、あらゆる領域やテーマにおいて理論と実践をつなぐ領野が拓けるのではないでしょうか。これこそが、自分がライフワークとすべきテーマではないか。私はそう考えるに至りました。

本質に基づいたマネジメント論は、ビジネスはもちろんのこと、人間関係やセルフマネジメントなど、様々な分野に応用可能な汎用性の高いものになる可能性があります()。しかし残念ながら、前述のように、世の中にはそれを学ぶ「場」がありません。

存在しないのであれば、自分で作ってしまうしかない。そういう思いで、来年1月から「エッセンシャル・マネジメント・スクール」を立ち上げることになりました。

当初はオンラインサロンの形式をとりますが、リアルゼミ(研究論文指導、読書会)や研究会などと紐付けることで、「本質(essential)」に基づいた「マネジメント(management)」の学を打ち立てたいと考えています。

西條剛央のオンラインサロン「エッセンシャル・マネジメント・スクール」(2017年1月スタート)

https://yakan-hiko.com/meeting/ems.html

 

お金を稼ぐことより、時間をどう使うかが大事

なぜ、本質が大切なのか。少し、日常的な話題から考えてみましょう。

最近、お金をどう稼ぐかということよりも、時間をどう使うかということを、より重要な課題として捉える人が増えているような気がします。個人的な感覚もありますが、様々な分野の第一線で活躍する方々にお会いすると口を揃えてそうおっしゃることを見ると、時代の空気は確実に、その方向に移ってきています

人生を農業に例えるなら、お金をたくさん稼ぐことは、より多くの土地を広げることに似ています。確かに、土地を広くすれば、その分たくさんの作物を得る可能性は広がります。でも、土地をいくら広げても、最終的に問われるのは、その土地で何をするのかということです。たとえば、人を育てたり、畑を作って作物を育てるためには、「時間」が必要です。お金を稼ぐ(畑を広げる)ためだけに時間を使い、肝心のやりたいことをする時間がなくなってしまっては本末転倒です。

そして重要なことは「時間を増やすことはできない」ということです。お金は働いたり、投資したりすることで増やすことができるけれど、時間は増やすことができない。というのも、私たちには寿命があるからです。もちろん、健康に気を遣うことで、健康で過ごせる時間を増やしていくことはできますが、基本的には病気や事故を避けていかに短くならないようにするか、という消極的な対処しか対応できません。どんなに優れていようとも健康であろうとも医学が進歩しようとも、記録に残る限り130歳まで生きた人は一人もいないように、時間というのは、少なくとも寿命を持つ私たちにとっては、絶対的に有限なものです。

そうすると、問われるのは「僕らは何に時間を使えばいいのか」ということです。

本質的に問うべきは、「資本の最大化の方法」ではなく、「何にどのように時間を使うことが自分の時間、すなわち人生の価値を最大化できるのか」ということです。

 

本質を知れば、何に時間を使えばいいのかが見えてくる

限られた人生の時間を何に使えばいいのか。この問いの答えは、当然、人によって違いますよね。私はとにかく仕事を頑張りたい、という人もいれば、子育てにできる限り時間を使いたい、という人もいるでしょう。同じ人でも、ライフステージによって答えは変わって当然です。

ただ、「時間は絶対的に有限で増やすことはできない」ということを深く自覚していないと、どうでもいいことに貴重な時間を費やしてしまうことになりかねません。ゲームにはまっている時は楽しいですし、リフレッシュになったり、趣味としてやっているならいいと思うのですが、後から振り返ったときに「何であんなことに何十時間、何百時間も費やしてしまったんだろう?」と後悔しないようにはしていきたいところです(笑)。

では本質とは何か。本質とは物事の最も重要なポイントのことです。実は物事の“本質”を捉えることが、仕事で成果をあげるにしても、充実した善い人生を送る上で最も重要なことです。朝日を見るために西に向かったらいかなる努力も実を結ばないように、本質を捉え損ねると、どんなに知識があって、頭が良くて、抜群の行動力と精確な技術があっても、その分正確に間違えることになるためです。恋愛だって自分が本質的にどういう人が好きであり、どういう人生を送りたいのか、そして相手の本質をうまく見極めなければ、パートナーとしてうまくやっていくことは難しいでしょう。

ただ、ここで重要なことは「本質」は「真理」ではない、ということです。真理というのは、「絶対的な正しさ」ですから、自分が何かを「真理」だと決めた瞬間に、他の選択は間違いだということになりますよね。

本質というのは、あくまで、自分で掴み取り、あるいは探求していくものです。ただ、頭から信じるとか、誰かが言っているから従うのではなく、自分で「本当かな」と確かめるプロセスなくして、それは「本質」とは言えません。そうやって批判的に検証しながら、だんだんと「これは確かにそうだよな」「これがこの本質だな」と自己了解していくこと大切です。

 

本質は意外に見失われやすい

本質というのは、誰もが「なるほどそうだ」と広く了解できるようなものです。でも、だとすれば、それを探求する意味なんかないじゃないか、と思われる人もいらっしゃるかもしれません。そんな当たり前のことなら、わざわざ学問にする必要があるのか、と。

でも、話はそう簡単ではありません。なぜなら私たちはしばしば、本質的ではないものを本質だと思い込んでしまう生き物だからです。

たとえば、医療の世界では、同じように患者さんが「痛み」を訴えていても、お医者さんが拠って立つ世界観によって、まったく対処が違うという現実があります。「痛みには原因があるはずだ」という世界観に立つお医者さんは、原因のわからない痛みは、あくまで患者さんの主観に過ぎないものとして、軽視しがちです。一方で、「痛みを軽減することは医療の大切な役割だ」という世界観に立つお医者さんは、原因のわからない痛みであっても、それを軽減するための対処を怠らないのです。

依って立つ世界観の違いによって、同じ現象に対する態度や行動の違いが生じること。これは医療の世界だけではなく、他の学問領域やビジネスの領域でも、ほとんど例外なく起きていることです。ドラッカー学会で私の論文が評価されたのも、ドラッカーという稀代の経営学の論者に対する評価が、(狭義の)科学性を重視する「経営学者」と有用性を重視する「経営者」で大きく割れている現実を踏まえ、その対立を乗り越える方向性を示したからです(詳細は、ドラッカー学会誌掲載の論文をごらんください)。

物事の本質を捉えるというと、哲学的で抽象的な議論だと思われがちです。しかしながら、医療にしても、ビジネスにしても、どういう世界観によって立つかによって全く問題の捉え方や、対処の仕方が変わってくる。だから、気をつけないと非常に不毛なことに、貴重な人生の時間を遣ってしまうことにもなりかねません。

だからこそ、本質を掴み取るための方法論を学ぶことが大事だと私は考えています。エッセンシャル・マネジメント・サイエンスという「本質を求める人のための学問」は始まったばかりです。多くの人とこの学問を深め、発展させていきたいと考えています。

西條剛央のオンラインサロン「エッセンシャル・マネジメント・スクール」(2017年1月スタート)

https://yakan-hiko.com/meeting/ems.html


西條剛央プロフィール

1974年、宮城県仙台市生まれ。早稲田大学大学院(MBA)客員准教授。日本学術振興会特別研究員(DC/PD)を経て、2009年より早稲田大学大学院商学研究科ビジネス専攻専任講師、2014年より現職。専門は組織心理学、哲学、質的研究法。2002年(平成14年)から2007年まで『次世代人間科学研究会』を主催。独自に体系化した構造構成主義は医療や教育、経営など領域横断的に様々なテーマに導入、応用され、200本以上の論文、専門書が公刊されている。京極真、池田清彦とともに『構造構成主義研究』を創刊、編集長を務めた。

ふんばろう東日本支援プロジェクト元代表。2011年、東日本大震災をうけて、独自に体系化した構造構成主義をもとに同プロジェクトを設立、物資支援から重機免許取得といった自立支援まで多数のプロジェクトが、3000人のボランティアにより運営される日本最大級の「総合支援ボランティア組織」に育てあげた。2014年、世界的なデジタルメディアのコンペティションである「Prix Ars Electronica」のコミュニティ部門において、最優秀賞にあたるゴールデン・ニカを日本人として初受賞。同プロジェクトは「ベストチームオブザイヤー2014」も受賞。代表理事を務めるスマートサバイバープロジェクトがGood減災賞受賞。

現在、スマートサバイバープロジェクト(代表理事)、いいチームを作りましょう(共同代表)、日本医療教授システム学会編集委員などを務める。

主な著書としてAmazon総合1位のベストセラーとなった『人を助けるすんごい仕組み』(ダイヤモンド社)、『構造構成主義とは何か』(北大路書房)、『質的研究とは何か』(新曜社)、『研究以前のモンダイ』(医学書院)、『チームの力——構造構成主義による“新”組織論』(筑摩書房)などがある。

2017年1月よりオンラインサロン「エッセンシャル・マネジメント・スクール」主催。
https://yakan-hiko.com/meeting/ems.html

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