岩崎夏海
@huckleberry2008

岩崎夏海のメールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」より

今後20年のカギを握る「団塊の世代」

※岩崎夏海のメルマガ「ハックルベリーに会いに行く」(2016月6月27日配信号)より

多数決社会では「団塊世代」が強い

イギリスがEUからの離脱を国民投票で決めた。

ぼくは知らなかったのだが、その大きな要因の一つに「団塊の世代(ベビーブーマー)の影響」があるらしい。

イギリスでも、団塊の世代は大きな勢力を誇っている。多数決の世の中では、数の多い方が強いからだ。

それに比べ、数の少ない若者は冷遇されている。イギリスでも、多くの若者がEU離脱に反対し、離脱することを嘆いているという。

こうした問題は、対岸の火事ではない。日本でも、今は若者が苦しめられている。
社会保障のうち、子供のための予算はどんどんと削減されている。幼稚園は地域住民の反対で建たないし、大学も予算が減らされ続けているためランキングは下がるばかりだ。

その代わり、団塊の世代向けの保証はどんどん厚くなっている。それもこれも、団塊の世代が圧倒的に数が多く、多数決において有利だからだ。

「民主主義」という名の多数決社会では、いつだってマジョリティが勝利する。だから、人数の多い世代は圧倒的に優位なのだ。

 

時代ごとの違いを検証することで未来が見えてくる

イギリスでも日本でも、もう20年も経てば、さすがに団塊の世代は数が減るので、この問題が自然解消することは分かっている。しかしながら、若者たちにとってはこれからの20年、我慢しなければならない時代が続くのである。それは、不運としかいいようがない。

人は、生まれた時代に左右される。いい時代に生まれれば幸運だし、悪い時代に生まれれば不運だ。

しかし、そのことをほとんどの人が意識しない。なぜかというと、人間は自分と他人とを比べるとき、たいてい同世代と比べるからだ。違う世代と比べることはまれである。例えば、「親と自分とどちらがいい時代に生まれたか」などとは普通は考えない。

しかしながら、自分が生まれた時代を他の時代と客観的に比較してみることは、色々な本質が見えてくるので非常に重要だ。しかも、その中にさまざまな問題を解決する糸口も見えてくるし、これからの時代がどうなるかということの予測にも役立つ。

そこで今日は、「そもそも団塊の世代とは何だったのか?」ということを考えてみる。

それを理解することで、これからの20年の、団塊の世代とのつきあい方、あるいは社会の営み方が見えてくるだろう。

 

出生率を押し上げたのは「貧しさ」

団塊の世代(ベビーブーマー)とは、第二次大戦直後に生まれた子供たちである。この時代、先進国のほとんどで人口が爆発的に増えた。

そうなった要因の一つに、よく「戦争が終わったこと」が挙げられる。平和になったおかげで人々が安心して子供が産めるようになった——と。

しかしながら、それは必ずしも大きな要因ではない。

実は、時代の平和さと出生数には、ほとんど何の比例関係もない。実際、日本の出生数は戦前、戦中からどんどんと増えていた。

ではなぜ、戦後になってさらに出生数が増えたのか?

その理由の一つに、戦争直後の極度の「貧困」があるだろう。

貧困と出生数とは、強い比例関係にある。人間は、貧乏であればあるほど子供を生む。なぜなら、子供を生むことで貧しさを補おうとするからだ。

第二次大戦後は、世界中が貧しかった。なぜなら、戦争で多くの富を失ったからだ。とりわけ日本は貧しかった。それで、多くの子供が生まれたのだ。

さらに、その後に起きた経済発展も、団塊の世代の数が多いことと大きく関係している。

第二次大戦からしばらくして、世界中に石油が行き渡るようになった。そこでエネルギー革命が起き、人類は一気に豊かになった。そうして、多くの人々を生かしておく余裕ができた。

そのため、これまではたとえ生まれてきても貧しくて生きられなかった子供たちが、生きられるようになった。死ななくなったのだ。

その豊かさに呼応して、医学も長足の進歩を遂げた。おかけで、これまでは病気で死んでいた子供たちも、やっぱり生きられるようになった。

団塊の世代は、そういうふうに貧しさの中に生まれつつも、すぐに豊かさの爆発に直面したため、なかなか死ななかったのである。

 

競争社会を生き抜くタフさと前世代への劣等感

そんな彼らではあるが、けっして苦労がなかったわけではない。

その最も大きなものは、「競争が激しかったこと」だろう。なにしろ人口が多い分、同世代間の競争は熾烈を極めた。

そのため、そこで生き残った多くの団塊の世代が、競争をいとわない逞しさと、「自分は激しい競争を勝ち抜いた」という強い自負心を抱くようになった。

もう一つは、戦争を体験していないために、上の世代に対して負い目を持っていることだ。『戦争を知らない子供たち』という歌に象徴的だが、彼らは、戦争を知らないこと、あるいは長く貧乏を経験していないことに、どこか後ろめたさを感じている。

そういうふうに、団塊の世代は競争を勝ち抜いたという逞しさや強い自負心と同時に、上の世代に対する強いコンプレックスを抱えてもいる。そのため、自分たちが幸運な時代に生きてきたにもかかわらず、その自覚はほとんどない。おかげで、他の世代に比べると、とりわけ「利己的」な傾向が強くなっているのだ。

今の、そして今後20年のうちにイギリスや日本に起こるだろうさまざまな問題は、そうした団塊の世代の利己的な特徴を知らないと、なかなか上手く乗り切っていくことはできないのではないだろうか。

 

岩崎夏海メールマガジン「ハックルベリーに会いに行く」

35『毎朝6時、スマホに2000字の「未来予測」が届きます。』 このメルマガは、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(通称『もしドラ』)作者の岩崎夏海が、長年コンテンツ業界で仕事をする中で培った「価値の読み解き方」を駆使し、混沌とした現代をどうとらえればいいのか?――また未来はどうなるのか?――を書き綴っていく社会評論コラムです。

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岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

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