小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」より

ピコ太郎で考えた「シェアの理解が世代のわかれ目」説

※メールマガジン「小寺・西田の金曜ランチビュッフェ」2016年11月11日 Vol.104 <ポッキーの日記念平常運転号>より


今日ソーシャルメディアの上で、こんな記事が話題になっていた。

・ピコ太郎 関連動画で潤う

この記事が説明しているのは、動画ビジネスにおける「コンテンツID」の活用の現状だ。著作物を認定し、誰がアップロードしたものであろうとも、そのコンテンツの正当な権利者へと価値(この場合には広告から生じる収益の還元)を戻そう、という仕組みであり、2007年にこの仕組みが生まれて以降、動画(特に音楽)のビジネスは大きく変わった。「シェアされること=コンテンツが広まることではあるが、盗まれたコンテンツも同時に広がること」であったものが、「シェアされること=若干ではあってもコンテンツに収益が回ること」に変わっていったからだ。今でもプロモーションが軸であることには変わりないのだが、YouTubeのような場所にコンテンツを出すことが、「販売ではないコンテンツビジネスの形」という認識になり、それに合わせたコンテンツの作り方・出し方が広がってきている。

その辺の変化はまた改めてしっかり解説しようと思うのだが、このような現象から、以下のようなことも考えたのだ。

「ネットでシェアされることで収益が上がる」モデルは、別に「パッケージ化されたものを売って収益を得る」ことの下部構造ではない。だが、「シェアで広がる経済活動」がピンとこない人々もいるようなのだ。

そういう人々は、自分でソーシャルメディアを使っていても、見るだけでシェアすることはほとんどない。シェアすることで認知を広げ、収益につなげるよりも、従来型の広告モデルの方が信頼できて、周知しやすい、と考える。というよりも、シェアによる認知が「コスト(労力と置き換えてもいい)をかけるに値する効果のあるもの」ということがピンとこないようなのである。

ここに世代の断絶がある。

21世紀になって15年が過ぎ、ネットワークのない生活など考えられなくなった。だが、人が暮らす上で重要なことは意外なほど変わっていない。食べるにも何かの欲を満たすにも「流通させて手元に届く」形にしないといけない。いわゆる「商売」だ。コンテンツがオンライン化したといっても、物理的な「モノ」が無価値になっているかというと、そうではない。人の体が変わらない以上、全てがネットの上で完結するようにはならないわけで、「意外と人の生活は変わっていない」という言い方もできるだろう。

だが、自分が興味をもったり、手に入れたいと思う元になる「情報の流通」は大きく変わった。店舗やマスメディア的な広告が主軸かというと、そうでもなくなっているのは、皆さんもよくおわかりかと思う。その過程における「シェア」の価値は非常に高い。

シェアは広告に役立つ「回転の早い口コミ」だった時代を経て、ビジネスのサイクルの中に組み込まれ始めている。冒頭で出てきた「コンテンツID」の話は、その一例だ。ビジネスを考えるにも、何かを自分で楽しむにも、「シェアすることはポジティブな効果がある」「シェアすることがポジティブな効果を生むようにビジネス設計をする」ことが重要になっている。

でも、それがわからない人もいる。これは別に年齢で別れる話ではない。たしかに、若い人ほど肌感覚でそのへんをわかっているが、歳だからわからないとか、若いからわかっている、ということでもないようだ。「デジタルネイティブ」「ネットネイティブ」という言われ方もあるが、どこか自分の中では、「シェアを理解しているか否か」、なんとなくだが、スマートフォン・ソーシャルメディア以降に加速した「シェア型エコノミー」を受け入れられているかそうでないかに、分水嶺があるのではないか、と思うのだ。

いわゆる「オールドメディア」は批判されることが多いが、その根っこにあるのは「シェアに対する理解の不足」なのではないか、と考える。要はピコ太郎を見て、ネタが面白いかどうかと同じように「ああ、そんなにシェアされたんだ」ということの価値を理解できるかどうか、という話だ。「CD売上1位」と「YouTubeでの視聴が4億回突破」ではどちらが上か、をスッと理解できれば、「こちら側」という話でもある。

そういう意味では、シェア回数を指針に入れるビルボードはとてもよく「わかっている」ところで、そうでないオリコンは「まだわかってない」ということなのだろう。

 

小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ

2016年11月11日 Vol.104 <ポッキーの日記念平常運転号> 目次

01 論壇【小寺】
 【永久保存版】ちょこっと昼寝したいときに使えるワザ5選
02 余談【西田】
 ピコ太郎で考えた「シェアの理解が世代のわかれ目」説
03 対談【西田】
 クエリーアイ・水野CEOに聞く「人工知能が本を書く時代」(6)
04 過去記事【小寺】
 本気なの? 総務省がぶち上げるSIMロックフリー化
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと

 
12コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。   ご購読・詳細はこちらから!

その他の記事

カーボンニュートラルをめぐる駆け引きの真相(高城剛)
美食ブームから連想する人間の生態系の急速な変化(高城剛)
玄米食が無理なら肉食という選択(高城剛)
週刊金融日記 第299号【誰も教えてくれなかったWebサービスとアフィリエイトの勝利の方程式、日本も世界も株式市場はロケットスタート他】(藤沢数希)
「国際競争力」のために、何かを切り捨ててよいのか(やまもといちろう)
準備なしに手が付けられる、ScanSnapの新作、「iX1500」(小寺信良)
やまもといちろうのメールマガジン『人間迷路』紹介動画(やまもといちろう)
TPPで日本の著作権法はどう変わる?――保護期間延長、非親告罪化、匂いや音の特許まで(津田大介)
幻冬舎、ユーザベース「NewsPicks」に見切られたでござるの巻(やまもといちろう)
アメリカ・家電売り場から見える家電の今(西田宗千佳)
食品添加物を怖がる前に考えておきたいこと(若林理砂)
正しい正しさの持ち方(岩崎夏海)
セキュリティクリアランス法案、成立すれども波高し(やまもといちろう)
手習いとしてのオンライン・エデュケーションのすすめ(高城剛)
自分の部屋を「iPhone化」する–大掃除の前にヘヤカツ(部屋活)してみよう!(岩崎夏海)

ページのトップへ