やまもといちろう氏による涙の経営相談

社員を切ってください、雑巾は絞ってください

私の父も事業者でした

私個人の事例を聞いてください。私の父も事業者でした。電飾事業をやっておりましたが、景気の低迷もありまして、主力工場を産業廃棄物処理の業界に転換、中間処理事業者として再出発しました。しかし、素人が産廃に参入したところで経営が好転するはずもなく、まもなく経営危機に陥りました。

その前にも、私個人の資産をかなり投じるなどして父の事業の再建を手伝っていましたが、いつまでも経営が好転しない状況であると判断して、あるとき、一人の社員を残して、全員解雇を言い渡しました。中には、私が子供のころから親しく接してくれていた技術者や、母親のように良くしてくれていたおばさん経理社員もいました。

それまでは、金融機関にリスケジュールを申し入れたり、取引先の支払い条件を厳しくするなどの対応と、貴方の二年間同様、売れる保有不動産の処分で資金繰りをつけていたわけです。幸いにして、私個人は資金はあるんですが、親父の会社は年間二億近い赤字を出しているんです。これがいつまでも続くというのは、さすがにあり得ないだろうと思いまして、決断しました。

ただし、決断するまでには、一年かかりました。30年以上親父を支えてくれていた社員を放り投げるのもどうかと、それも、親父が見切るならともかく、倅である私が切るのはどうなんだと思って、判断を先延ばしにしてきたんですね。その間、経営は一切、好転しませんでした。もうね、まったく良くないまんまなんです。

当たり前なんですよ。親父の仕事は、私のできる仕事じゃありませんから。私は、投資であり、コンテンツの開発が本業です。そっち方面ならば、何でもできる自信も経験もある。でも、産業廃棄物業界というのは特異です。そりゃもちろん頑張って勉強しました。付け焼刃ですが、埼玉県の環境事務所と渡り合えるだけの知識を蓄えて、社員と一緒になって事業に取り組んでました。

でもやっぱり、産廃は産廃で甘いものじゃありません。長い年月をかけて、出来上がってきた業界で、ちょっとやそっとの手入れでは経営は良くならないのです。4年頑張りましたが、赤字が続いていました。貴方と同じような状況です。で、泣きながら社員を解雇する決断をしました。もう会社にお金はありません、と。

 

絶対返ってこない性質のお金

ところがですね。私にはお金があるんですよ。社員からすると、会社にお金がないならば、山本家から払ってもらおうと。そうなるわけです。赤字のまま二億円ぐらい毎年払ってきて、もうこれ以上払うのもどうかと思って泣く泣く切る社員から、労働審判を起こされるわけですね。法的整理をしないのであれば、退職金を払え、とこうなるわけです。もちろん、退職金を支払うのは経営陣の優先すべき義務ですから、労働審判後に会社の資産を整理しながら資金繰りを内側でつけ、何とか支払いました。

ただ、会社にお金がなくなった理由がありました。事業では母親同然に信頼していた、経理社員のおばちゃんが、自分や幹部の退職金分は会社の資産を差し押さえていたんですよ。親父は「裏切られた」と怒っていましたが、でも世の中そんなもんです。信頼して任せている社員も、明日は会社がなくなると思ったら生活を防衛するために、信頼して貰えている権限を使って何でもするものなのです。

私個人としても、親父の会社の不始末で累計で六億円以上キャッシュを突っ込んで、絶対返ってこない性質のお金であることは分かっていますから、是が非でも個人資産を親父の会社の建て直しでは入れないと決心していましたので、労働審判も弁護士に相談せず、全三回の労働審判の審尋を、すべて私一人で対応しました。東京地裁、通いましたとも。ほんの数週間前は、にこやかに経営再建の話をしていた幹部社員と向き合って、しかも彼らが法テラスに頼んだのか、微妙な感じの弁護士を連れていたので、いろいろ交渉をして、退職金の分割支払いなど支払い方法や金額について合意をして、親父の会社は倒産を逃れました。

いまでは、親父の会社の再建を託すということで、産業廃棄物業界に長い経営者を招聘して経営を立て直し、相応の利益が出るようにはなりました。負債の一掃にはもっと長い時間がかかると思いますが、銀行取引も正常化され、私も無事、取締役から退任して、六億円以上突っ込んだ私の個人資産については、月十万円ずつ返済してもらっています。

また、解雇した残りの一人の社員は、私の会社でいまなお営業の幹部をして、日銭を稼いでくれています。私が息子を会社に連れていったときは、一時間ほど面倒を見てくれていましたが、ああ彼は親父と私と私の息子の三世代を見ているのだなあと思いまして。

そのぐらい、経営というのは人の心の部分と、数字から考えなければならない非情の部分の割り切りをつけねば成り立たないのです。仮に資産が別であったとしても、会社の経営がうまくいかないと平常心が失われます。

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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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