津田大介
@tsuda

メルマガ『メディアの現場』vol.46「今週のニュースピックアップ」より

政府の原発ゼロ政策はなぜ骨抜きになったのか

この9月14日、「2030年代に原発をゼロにする」という方針を打ち出した「革新的エネルギー・環境戦略」が発表されました。この戦略の中では、日本にとって悲願だった「もんじゅ」――高速増殖炉の実用化断念も盛り込まれています。仮にもんじゅをなくしたら、日本はどう変わるのか。原子力政策の今を紐解きます。

 

――内閣府のエネルギー・環境会議は9月14日、「2030年代に原発を稼働ゼロにする」という方針を打ち出しました。「革新的エネルギー・環境戦略」という今後のエネルギー・環境政策に関する戦略の中で発表されたものです。

原発に依存しない社会の実現に向け、何を行っていくか――この戦略の中では「先行して行う対策」のひとつとして、高速増殖炉「もんじゅ」[*1] に関する項目が挙がっています。

いわく、「高速増殖炉開発の成果の取りまとめ、廃棄物の減容及び有害度の提言等を目指した研究を行うこととし、(略)成果を確認の上、研究を終了する」[*2] と。少し意味はわかりにくいけれど、要は「高速増殖炉の実用化を断念する」ってことですよね。

高速増殖炉の実現は、日本にとって、長年の悲願だったはずです。しかしそもそも、すでに実際の発電に使われている軽水炉との違いがよくわかりません。高速増殖炉は何がどうすごいのでしょう?

津田:高速増殖炉は「夢の原子炉」なんていう呼ばれ方をすることがありますよね。でも、なぜ「夢」なのか、よくわからない人も多いかもしれません。

電気を発生させる方法には、いくつかあります。風力、火力、原子力――これらの発電方法では、どれも天然資源が必要になりますよね。火力発電なら石油や天然ガス、軽水炉による通常の原子力発電ならウラン、といった具合に。

こうした天然資源は埋蔵量に限りがあるうえ、資源に乏しい日本のような国では、その大半を輸入に頼らなければいけません。

資源を有効活用し、発電を行う方法はないものか――そこで浮上してきたのが「高速増殖炉」です。ウランとプルトニウムの化合物「MOX燃料」を使うこの方式では、発電の過程で核分裂が起き、なんと原料のプルトニウムが増えるんです。しかも、使用済み核燃料に処理を施せば、再び燃料として使える。「ドラえもん」のひみつ道具でいえば「バイバイン」のようなことが起きるわけですね。

こうして燃料をぐるぐる回していけば、理論上は半永久的に電力がまかなえる。日本にしてみれば、まさに「夢の原子炉」ですよね。もんじゅは、この高速増殖炉を開発するために作られたものなんですよ。

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津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

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