国交省の意志が伝わってきます
津田:設問設定をとっても、集計方法をとっても、かなりアクロバティックなウルトラCを決めてきたという感じですね。
米田:公開されている資料を見ていると、「何が何でも俺たちは高速道路を作るんだ」「毛筋ほどの白があれば『真っ白』と言うんだ」――そういう国交省の意志が伝わってきます。年に数回の委員会では、こういうわかりにくい資料を忙しい先生方に見せ、その場で担当者がもやもやっと説明するわけですよ。それでパーッと取りまとめをすると。
津田:そして、委員会のウェブサイトに上がっているような議事録ができあがるわけですね。
米田:はい。委員会の出席者全員がチェックしてからアップするので、少しタイムラグがあるのですが、これにすべてが載っています。たとえば、不思議なアンケートの集計結果をいきなり出されて、委員はどう反応したか。2012年4月12日に開催された委員会の議事録[*23]を見てください。
津田:二村さんという委員が、まさに結論を言っていますね。「正直申し上げて、こういう結果の出し方というのを今回初めて拝見いたしました。注目の集まっているものを、賛成も反対もすべてまぜた形で集計するというのは、国交省ではよくやられる手法なのでしょうか。正直申し上げて、こういうのは余り世間一般にはみないような気がするのです」[*24] 審議会の委員もやっぱり戸惑ったんですね(笑)。
米田:事務局はそれに対し、こんな言い訳をしています。「我々も集計の仕方についてはかなり悩んだところがあって、今まで、こういった出し方をしている例というのはなかなかないと思っています。(略)確かにご説明の仕方が難しいという指摘が今までもあったところではあるのですが、現時点ではこういう整理の仕方にさせていただいているというところでございます」(笑)。これに続き、審議会の委員長である石田さんは「これ、関心の高さを示しているということを強調し過ぎてもし過ぎることはないですね。賛否ではないということをね」と弁明しています。[*25]
津田:これは苦しい言い訳ですね……(笑)。
米田:このように二村さんをはじめとする委員の方々から本質的なツッコミは入ったものの、基本的には高速道路を作る方向でまいりましょう、という結論ありきで議論が進んでいます。津田さんもよくご存じのとおり、審議会や委員会では、開催前に結論を決めて資料を作ります。サイトに上がっている「対策案の評価について」という資料を見てください。[*26] ここに「中間とりまとめ(案)」として記載されているのが今回の結論です。「対策案としては高速道路の整備(【案(1)】全区間で新たに道路を整備する案また【案(2)】旧清里有料道路を一部区間で有効利用する案)が有効であると考えられる」と。[*27] そもそも、会議前に話し合いの結論を資料にまとめるなんて、本来ならばあってはならないことですけどね。
津田:今回はアンケートの集計方法に対し、委員から疑問が出ているにもかかわらず、結論は揺るがない――。
米田:それで、ちょっとしたガス抜き策を作っているんです。「追加的なコミュニケーション活動内容(案)」という資料にその内容がまとまっています。[*28] 行政関係者や抽選で選んだ住民代表、各団体の代表を招き、第三者のコーディネーターを立てて、公開形式で「コミュニケーション活動」を行う、と。これを受けてこの7月8日、長野県の南牧村中央公民館で意見交換会が開かれることになっています。[*29] まあ、地方でよくやっているシンポジウムですね。どう考えても、高速道路を通す案で決定するでしょう。原発再稼働問題のとき起こったことと非常によく似ていますね。
津田:流れは非常によくわかりました。何だか釈然としませんね。今回だって、ちゃんと使われる道路ができるならいいですよ。でも、使いもしない道路に無駄な税金がかけられてしまうわけでしょう。その背後では消費税増税がしれっと通されているわけですからね。
米田:私は専門が経済学なんです。その観点からすると、中部横断自動車道を通すことで、地元経済がダメになると思います。やっぱり地域GDPを上げようとするなら、人口を増やすのが基本なんですよ。このあたりは地方の過疎化が進む中、人口が少しずつ増えている地域です。まだ住民票は首都圏に置いたまま移していない人が多いけれど、みんながリタイアし始めれば、ダーッと移し始める可能性もあります。
津田:そういう人たちが来ることで、地域経済が活性化していく可能性が高いということですね。
米田:はい。このあたりの魅力は、なんといっても自然の美しさと静けさです。でも、高速道路ができればそれがなくなって、住みたくなくなってしまいますよね。実際、全国的にも高速道路ができたエリアでは、ほとんどが通過地点となってしまって、経済基盤の沈下が進んできています。
津田:なるほど――。この問題は僕も怒りを覚えますね。
米田:でもね、調べる過程でわかってきたんですけど、国交省はこんなのへっちゃらなんですよ。住民がなんと言おうと、ブルドーザーで自然を潰して道路にしちゃう。そんな勢いですよね。日本は、正当な議論が通らない国になってしまっているんですね。これを何とかしなければ、日本はますます堕ちて行ってしまいます。
津田:一度計画として進めて、予算もとって――という案件は、もう止められない。だから途中で制度が変わろうがロジカルに反論されようが、「進める」という結論ありきで報告書がまとめられてしまう。霞ヶ関ではよくみる光景なんでしょうが――。
米田:これはもう、日本の官僚の体質となってしまっていると言っていいでしょう。習い性で自分たちの権益の拡大を謀っているだけではないでしょうか。この道路政策の決定に携わっているほとんどの人は多分、現場を見に来ていないと思うのです。企業経営ではあり得ないことですよ。官僚たちは、今の時代に生きる一人の生身の人間として、自分の頭で考えることをしていない。空恐ろしくなってきます。これは私たちが住む地域だけで起こっている特殊な事例ではありません。日本全国で同じやり方がまかりとおっているんですよ。
津田:おっしゃるとおりですね。そして、この問題は単に道路行政という特定の問題ではなく、日本の国の運営方法を正当なものにしていくための試金石とも言えそうですね。
米田:制度疲労を起こしている日本の官僚制度に、計画段階評価といういい方式が導入されたのですから、これをきちんと機能させることは、とても意義深いと思います。正当な情報収集を行い、それを基に正当な議論を経て、政策を決定していく。これは本当に重要なことです。