茂木健一郎
@kenichiromogi

2012年アメリカ大統領選挙について考えたこと

完全な自由競争はファンタジーである

安全基地が無ければ、人は競争できない

「市場の中で競争しろ」と言われても、世の中にはそれができない人もいるわけです。例えば、基本的な生活基盤がなければ、自由な創意工夫をする余地がありません。脳科学を研究している立場から言っても、「ここなら安全だ」という安全基地がなければ、脳はチャレンジできません。

日本の生活保護制度などはまさにその役割を果たしていますが、社会福祉のセキュリティーベースを用意しておくということは、その社会全体が積極的に挑戦をするために必要なことなのです。

その「安全基地」には、もちろん「誰でも教育を受けることができる」といったことも含まれます。経済的にどれほど恵まれていない家に生まれても、自分自身が努力すれば高い教育を受けることができる。そうした社会システムを作っておくことは、人々にとってチャレンジするために必要な条件なんです。

しかし、アメリカではそういう条件は満たされていません。皆さんよくご存知のように、日本でも少しずつ「格差が拡大してきた」と言われてきています。子供がどのような質の教育を受けられるかが、家庭の経済環境によって左右されている社会になってしまってきている。しかし、アメリカは日本などとは比べ物にならないほど、ひどい状態にある。

この自由競争というのは、僕は、ひとつのイデオロギーだと考えています。

イデオロギーはさまざまな前提のもとに成り立つものです。社会の構成員が、ある程度の安全基地を持って、しかもある程度の教育を受けた上で競争する、ということであれば、「自由競争を重視しましょう」という考え方も分かります。しかし、最初からまともに競争することができないような不平等がある場合には、それはおかしいと言わざるを得ない。そもそも「自由競争」自体が成り立たないと思うのです。

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茂木健一郎
脳科学者。1962年東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文藝評論、美術評論などにも取り組む。2006年1月~2010年3月、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』キャスター。『脳と仮想』(小林秀雄賞)、『今、ここからすべての場所へ』(桑原武夫学芸賞)、『脳とクオリア』、『生きて死ぬ私』など著書多数。

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