津田大介
@tsuda

津田大介のメルマガ『メディアの現場』より

「アジカン」ゴッチと一緒に考える、3.11後の日本

東北、福島第一原発、そして官邸前デモについて

高橋:ここからは、後藤さんと一緒に被災地のこれから、そして原発について考えてみたいと思います。震災以降、後藤さんは何度も被災地を訪れて取材などをしているそうですが、最近はどちらに行かれました?

後藤:岩手県の大船渡市や陸前高田市、住田町などを含む気仙地域で7月に開催された「KESEN ROCK FESTIVAL」[*12] ですね。その機会を利用して、住田町でバイオマスに取り組む若い林業家たちを取材したんです。[*13] 住田町は林業の町で、僕は『THE FUTURE TIMES』創刊時から足を運んでいるんですね。以前、町長の多田欣一さんにもお話を伺ったのですが、[*14] 震災後、住田町は国や県の対応を待たずに地元の木材を使って「応急仮設住宅」[*15] を建て始めたんです。多田町長の発案が震災からわずか4日後で、町議会のメンバー全員に伝えたのが10日後。最終的には町長の「専決」ということで、面倒な手続きをすべてすっ飛ばしたらしく、まさに英断だなぁと感心しました。

津田:僕も先日、東北を取材中に林業にまつわる話を聞きました。震災で甚大な被害を受けた一次産業の中でも、農業はとにかく頑張る、でも漁業がしんどい、と。漁業再建の足かせになっているのが、漁業と、それから林業の担い手が少ないことらしいんですね。なぜ林業が関係あるのかと思いませんか? 実は、林業がしっかり機能する土地では川の上流の淡水が綺麗になり、海に流れ込む水の水質が上がるんです。[*16] そうすると、養殖の牡蠣や帆立が健康に育つ。それにバイオマスもあわせて、個人的には今後の東北を考えるうえで「林業」が一つの鍵になってくるのかなという気はしています。

後藤:住田町では切り出した木材のうち、使えない端材などはかなりの量が山に捨てられます。それが雨に流されて少しずつ集まり、長い年月をかけて積み重なる。豪雨でそれらが一気に流れ出し、林業や農業などに大きな被害をもたらすこともあるらしいんです。[*17] 一昔前は、木材として利用できない切り株や端材はパルプにしていたらしいのですが、輸入品の普及で国際競争に勝てなくなってしまった。チップにすればボイラーなどに使える――バイオマス燃料として活用できるのに、まだそのシステムが整備されていない状況なんです。とにかくそこを打開したいですね。

津田:ほかに東北を回られた中で、特に印象的だったのはどの地域ですか?

後藤:いろいろありますけど、やっぱり福島県の南相馬は特別でしたね。現地の人たちの怒りやとまどいとを耳にすると、かける言葉もないというか……。

津田:よくわかります。僕も2011年の4月に初めて南相馬を訪れました。現地で取材していると、津波被害があった海岸付近以外はまったく変わっていない――震災の爪痕が目に見えないんですよ。これまでと変わらない風景のはずなのに、原発事故の影響で地元の人たちは住めなくなってしまった。彼らと話をしていると、胸がぎゅっと締め付けられるような気がしましたね。実はこの「JAM THE WORLD」でも2011年の10月に福島県へ取材に行ったんです。いわき市の北のほうにある久之浜町というところなんですけど、後藤さんもそこを訪れたことがあるんですよね?

後藤:はい。2011年の9月に、久ノ浜浜風商店街 [*18] という地元の仮設商店街の立ち上げを記念したお祭りがあって。そこで何曲か歌わせていただきました。

高橋:福島に行って現地の状況を知れば知るほど、私たちにどんな支援ができるのかわからなくなってしまいます。ましてや、行ったことのない人はもっとわからないと思うんです。後藤さんはこれから福島のために何をすべきだとお考えですか?

後藤:そうですね……とにかく外から福島を責めるのはやめてほしいです。現地で暮らしている人に対して「そこには住めない」と言う人がいるじゃないですか。一方、県外に避難した人たちに「どうして逃げた」なんて心ないことを言う人もいる。どちらも大きなお世話で、僕たちがすべきは、福島の人たちの望みを叶えるために何が最善の策なのか、みんなで考えることだと思うんですよね。たとえば「福島に留まりたい」という人に対しては、どうすればリスクやストレスを軽減してあげられるのか考える。また、自主的・強制的に避難されている方には、住み慣れない土地で生活するためケアが必要です。放射能の問題は難しくて、正直なところ僕も何が正解なのかよくわかりません。だから、みんなが疑心暗鬼になるのは理解できるし、立場が違えば考えが違うのも当然です。この問題に「これだ!」という絶対的な答えなんてないと思うので、困っている人の声を一つずつすくい上げていくしかないですよね。

津田:今も福島に留まっている方もいれば、自主的に避難している方もいる。どちらの選択も尊重されるべきだし、双方に対してきちんとケアをしていくのは政府や東電の責任だと思うんです。ありきたりな質問になってしまいますが、3.11以降の政府による福島への対応を見ていて、後藤さんはどんな感情をもっていますか?

後藤:はっきり言って恥ずかしいですよね。歴史に残るほどのシビアアクシデントが起きたのに、未だに政治家たちは政局――要するに主導権争いをしているわけじゃないですか。いくらなんでも見苦しすぎる。

津田:次の総選挙まであと2カ月――そんなことが囁かれ始めて以来、メディアは連日のように選挙に向けてバタバタする政治家たちの行動を報道していますね。僕はそんなメディアの姿勢にも苛立ちを感じていて、「ほかにもっと伝えるべきことがあるだろ」と思ってしまう。「勝手にしてろ」って話ですよ、ほんと。

後藤:確かにおっしゃるとおりです。ただし一方で、そういう状況を育んできたに責任は、われわれ有権者にもあるんですよね。だから、政治家やメディアを一方的に責めるのではなく、これからは僕たちも自分の頭で物事を考え、しかるべき選択をしていかなければならない。実は今日、ツイッターのフォロワーの方から届いたメッセージがあって、「政治家を評価するにあたり『あなたは3.11から今日までどんな行動をしてきたか』と聞いて回ったほうがわかりやすい」と。僕もその意見に同意しますね。

津田:そういうことを聞いて回り、ネットで公開していくのもいいかもしれませんね。

高橋:そんなふうに原発問題やエネルギー政策について考え続ける後藤さんが、今年6月、毎週金曜日に総理官邸前で行われている反原発抗議デモに参加されました。[*19] 参加した理由は何だったのでしょう?

後藤:大飯原発の再稼働に至るプロセスがめちゃくちゃだと思ったことが最大の理由ですね。国際原子力機関(IAEA)は原発の安全性確保のため「五層の防護」という考え方を示しているのですが、大飯原発はそのうち三層目までにしか対応していないんですよ。[*20] 未整備の四層目と五層目は、実際に原発事故が起きてしまった場合の対応――具体的には、事故収束にあたる作業員を収容する免震施設や、格納容器ベントフィルターの整備、避難計画の見直し、安定ヨウ素剤の備蓄などです。これらの基準を満たさないまま再稼働を急ぐなんて、福島第一原発事故の教訓がまるで活かされていないと思わざるを得ません。

津田:さまざまな議論がありましたが、最終的には6月上旬に野田佳彦首相と関係閣僚の判断で再稼働が決まりましたからね。[*21]

後藤:野田首相自身、会見で「政府の安全判断の基準は暫定的なもの」だと認めている。ルールを守らなくても政府の判断で動くのなら、「ルールはありません」と言っているようなものですよね。今回、僕がデモに参加したのは、それに納得がいかなかったからです。今すぐにすべての原発をなくすのは難しいのかもしれない。でも、せめて国民にわかるように説明を――というか、説明以前の問題ですよね。安全を担保しないまま再稼働を始めるなんて、めちゃくちゃだとしか思えません。

津田:そういう重要なことを報じる時も、マスメディアはどうしても政局と絡めて報道してしまうので、国民が問題の本質に気付けないという状況もあると思いますね。だからこそ後藤さんはメディアを作っているし、僕も自分でメディアを作って情報発信している。『THE FUTURE TIMES』を1年以上続けてきて、実際にメディアを運営してみてわかったこと――辛かったことや面白かったこと、醍醐味なんかはありますか?

後藤:言葉を紙に書きつけることの強さを知りましたね。ダダ漏れでない、編集された言葉はやっぱり強い。

津田:紙媒体をストックな情報だとすると、読者にすぐ言葉を届けられるツイッターなどのソーシャルメディアはフローな情報だとよく言われます。『THE FUTURE TIMES』もまさにそうで、ツイッターで大勢の人の心を動かして紙媒体へと誘導する。「あとは『THE FUTURE TIMES』でじっくり読んでくださいね」といったような、緩急つけた情報発信が肝になっていくんでしょうね。

高橋:今後は『THE FUTURE TIMES』でどんなメッセージを発信していこうとお考えなんですか?

後藤:次の第4号では、福島の現状をトップ記事にもってくる予定です。年内に発行できればと思って作業しているところですね。

津田:いつまで続けるつもりなんでしょう?

後藤:『THE FUTURE TIMES』を始めた時に、ひとまず3年――12号までは出すのを目標にしました。まずはそこまでやってみて、その後のことはその時考えようという感じですね。だから3年は自分の財布と相談しながらやっていきますよ。

高橋:そして「ASIAN KUNG-FU GENERATION」としては、最新アルバム『ランドマーク』[*22] を9月12日にリリースされる予定です。先ほど、このアルバムから1曲選んでほしいとお願いしたら、後藤さんは「大洋航路」[*23] を選ばれました。この曲を選んだ理由はあるのでしょうか?

後藤:ロックンロールって、追い詰められた時の音楽なんですよ。どんなに厳しい状況でも、痩せ我慢をして「大丈夫」だと歌う。この曲ではそのことをストレートに歌っているので、何かしら伝わるものがあればいいな、と。

高橋:なるほど。確かに、何かに絶望している時、私たちはたまたま聴いた音楽に救われることも少なくありません。それでは、ここでそろそろお時間となってしまいました。後藤さん、今日は本当にありがとうございました。

津田:ありがとうございました。

後藤:ありがとうございました。

 

▼後藤 正文(ごとう・まさふみ)
ロックバンド「ASIAN KUNG-FU GENERATION」のヴォーカル&ギター。1996年、大学在学中にバンドを結成し、2002年、インディーズ・レーベルよりミニアルバム『崩壊アンプリファー』をリリース。2003年4月、同作がキューンレコードより再リリースとなり、メジャーデビューを果たす。その後発売されたシングル「君という花」「サイレン」が立て続けにヒット。以来、日本のロックシーンを牽引する存在として多数の楽曲を発表し続けるほか、ライブ活動も精力的に行う。また、2011年7月には、自らが編集長を務めるフリーペーパー『THE FUTURE TIMES』を創刊。「新しい時代のこと、これからの社会のこと。未来を考える新聞」として、さまざまなメッセージを世の中に発信している。

公式ウェブサイト:http://www.sonymusic.co.jp/Music/Info/AKG/
『THE FUTURE TIMES』:http://www.thefuturetimes.jp/
ツイッターID:@gotch_akg

 

《この記事は「津田大介の『メディアの現場』からの抜粋です。ご興味を持たれた方は、ぜひご購読をお願いします。》

 

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[*6] http://www.thefuturetimes.jp/archive/no01/life311_02/

[*7] http://www.saikai-sangyo.com/pellet.htm

[*8] http://hi-standard.jp/

[*9] http://www.thefuturetimes.jp/archive/no03/kenyokoyama/

[*10] http://www.maff.go.jp/j/biomass/

[*11] http://www.thefuturetimes.jp/archive/no03/miyagi/

[*12] http://www.kesenrockfes.com/

[*13] http://www.thefuturetimes.jp/archive/no03/biomass01/

[*14] http://www.thefuturetimes.jp/archive/no01/life311_01/

[*15] http://www.rinya.maff.go.jp/j/kaigai/pdf/sumita.pdf

[*16] http://www.shinrin-ringyou.com/forest_japan/shinrin_kinou.php

[*17] http://neps.nef.or.jp/case_02_sumita.html

[*18] http://hisanohama-shops.com/

[*19] http://www.thefuturetimes.jp/gotoh/2012/06/4511622-iaea53.php

[*20] http://news.mynavi.jp/c_cobs/news/eyenews/2012/06/post-222.html

[*21] http://www.kantei.go.jp/jp/noda/statement/2012/0608.html

[*22] http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B008CQCAZ2/tsudamag-22

アルバム収録曲の『バイシクルレース』と『踵で愛を打ち鳴らせ』のPVがYouTubeの公式チャンネルでフル視聴できる。
http://www.youtube.com/user/akgSMEJ

[*23] http://www.uta-net.com/song/134877/

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津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

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