内田樹のメルマガ『大人の条件』より

メディアの死、死とメディア(その1/全3回)

自分が言わなくてもいいことを言う

内田:直接的にはメディア批判なんだよね。僕のところには、いろんな人が次々と取材にやってきて、話をしていくんだけれど、みんな思考がうんざりするくらい定型的なんだよ。特に新聞記者が。聞くことも話すことも定型的で。彼らと話をしているうちに、そんなことばかりは話していて悲しくないのかよ、という気になったのね。

今、君が言っていることは、ほかのやつがいくらでも話していることでしょう。そんなこと君が言わなくても誰かが代わりに言ってくれる。でも、「自分が言わなくても誰かが言いそうなことばかりを言う」というのは、非常に危険なことだと思うんだよね。だって、自分が言わなくても誰かが言うはずの言葉なんて、情理を尽くして語る気になれないから。読者をぜひとも説得しようという気になれないから。

同じことを自分よりもっと論理的に語ってくれる人がどこかにいる、自分が示せないエビデンスを示してくれる人が他にいると思うと、人間っていくらでも手を抜くんだよ。「自分の言葉」でなくて、「他の誰かが言ってくれる言葉」は、自分はその一部分だけを言えばいいから。自分がどれほど雑な言い方をしても、攻撃的な言い方をしても、それは世論なわけだから、他の誰かが補正してくれる。

結果的に「パブリックオピニオン」を代表してものを言う人間は、みんなお互いに当てにして、限りなく手を抜くんだよ。「誰でもみんな当然のように言っていること」って、よくよく調べると何の根拠もなかったって、よくあるでしょ。あれ、同じことを言う人間が一定数を超えると、全員が挙証責任を免れてしまうからなんだと思う。自分以外に自分と同じ考えを持っている人間がたくさんいると思うと、人間は思考停止しちゃうんだ。知的緊張がなくなる。メディア世論が暴走するのはそのせいだと思う。

メディアの言語がここまで劣化したのは、誰も「一期一会」だと思ってないからなんだよ。いくらでも「言い直し」のチャンスがあると思っている。自分が話していることは「無限の言い換え」がきくと思ってしゃべると人間の語り口は限りなく雑になって、攻撃的になる。そういうもんだよ。

平川:その話は面白いね。いってみれば、ただ言葉をパラフレーズしているだけだよね。だけれども、「すべての表現はパラフレーズだ」というもう一方の側面がある。そのことと、自分がパラフレーズしているのを自覚できているのか、というのはかなり重要だね。

内田:世論を語ることを自分の義務だ、みたいに思っているんだよね。

平川:そうなのかな。

内田:本当によく感じるんだよ。あれ楽なんだよ、きっと。世論を語るのは。

平川:無自覚なんじゃないの?

内田:ネット上の匿名の発言がそうだよね。あれってさ、自分の意見には何百万人も賛同者がいる、ということを前提にして書いているんだよね。自分の手持ちの材料と、自分の推論能力をもってしかこの人のこの意見を批判できない、と思っていたら、あんな言い方しないもん。このクソバカヤロー、とか言わないよ。

平川:あのブログでは、白川(静)先生の話も書いていたよね。

内田:「思想は富貴から生まれるものではない」。

平川:その言葉はまさに、さきほども話題にした、「もう一回死ねないから死が恐い」ということと同じなのだけど、何を担保にその言葉を語っているか、が重要なわけですよ。世論を担保にしてその言葉を語ると、ジャーナリスティックな言葉になってしまう。それは白川先生の言いたかったことではないよね。だから実は世論というのを担保に語ってはいけないんだよ。自分の生きてきた実感、生の重み、そういったものでしか正しさを担保できない。そういう言葉を紡いでいこうということだね。

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