津田大介
@tsuda

津田大介のメルマガ『メディアの現場』より

国民投票サイト「ゼゼヒヒ」は何を変えるのか――津田大介、エンジニア・マサヒコが語るゼゼヒヒの意図

(※この記事は2012年12月30日に配信されたものです)

2012年12月19日、津田大介が代表を務める有限会社ネオローグはインターネット国民投票サイト「ゼゼヒヒ」をオープンしました。ウェブサイトに掲載された2択の質問に答え、その理由を投稿するというシンプルな投票サイト。そのゼゼヒヒを通じて見えてくるものは何か、どんな意図が込められているのか――オープンから1週間を経て津田大介と開発を担当したエンジニア・マサヒコへのインタビューを掲載します。

◎インターネット国民投票「ゼゼヒヒ」
http://zzhh.jp/

 

一言で言えば、「ソーシャルメディア連動の投票&意見表明サービス」

――まずは国民投票サイト「ゼゼヒヒ」のオープン、おめでとうございます。

津田・マサヒコ:ありがとうございます。

津田:いやーようやくオープンできました。夏ごろから作り始めて、なんとか年内に間に合いました。たくさんの方からポジティブな評価をいただいたり、プレスリリースを出してもいないのにITmediaで記事にしてもらったりして、[*1] アクセス数もまあまあ集まってて、[*2] 滑り出しとしてはうまくいきましたね。

マサヒコ:オープンまでの怒涛の日々を経て、ようやくオープンできてホッとしています。ただ、エンジニアとしてはオープン後もまだまだ山場が続いている状態ではありますが……。

 

――ゼゼヒヒを一言で表すとすれば、「ソーシャルメディア連動の投票&意見表明サービス」ということになると思います。ゼゼヒヒのウェブサイトにツイッターでログインし、質問の回答を2択から選び、その理由を書いて投票するというシンプルな作りになっていますね。回答はツイッターのタイムラインのように時系列で表示され、投票結果はリアルタイムに円グラフで表示されます。はじめに伺いたいのは、ゼゼヒヒの基本的なコンセプトです。どうしてこのようなサービスを作ったのでしょうか?

津田:ゼゼヒヒ、これは自分が作ろうと思っている政治メディアの作成プロセスの過程でアイデアが生まれたんですよね。当初のコンセプトは、ソーシャルメディア上で政治家にさまざまな疑問に答えてもらう場所を作るということでした。解散総選挙が迫ってきていたから、政治家にいろいろな疑問に答えてほしかった。ただ、政治家に政策に関するアンケートを行うのは、すでにマスメディアも市民団体がたくさん行なっているんですよね。そんな状況に加えて、選挙前は政治家にとって忙しさのピーク。選挙前のアンケートに答えるのはかなりの負担になっているらしいんですよ。適当に答えてしまうと後から突っ込まれる材料を作りかねないですし。だから、政治家が選挙前にアンケートに答えることで得られるインセンティブって残念ながらあまりないんです。じゃあ、どうすれば政治家に選挙前に回答してもらえるのか。それを考えました。まず、政治家だけじゃなくて一般のソーシャルメディアユーザーが普段から日常的に質問に答えられるようなプラットフォームを作っておいて、いざ選挙が近くなったら政治に関する質問をピックアップして政治家に投げる。もちろん普通は答えてくれないでしょうけど、ゼゼヒヒはソーシャルメディアで広がる意見表明場ですから、意思表明することが多くの有権者の目に留まるような場であると政治家に認識してもらえれば、その質問に答えることが彼らにとっての「プロモーションの場」になる。だから、まずはソーシャルとしての広がりを育ててアクセス数を伸ばし、ITに強い議員の目に留まるようにするというのが戦略ですね。回答はすべてゼゼヒヒのサーバー上に記録されますから、それが自分の意見のデータベースになっている。もし、政治家がいくつかの質問に答えてくれたら、ユーザーの回答とマッチングさせたりみたいなことも簡単にできますよね。選挙前に急いでアンケートをやるんじゃなくて、日常的に政治的な質問にユーザーや、可能なら政治家にも答えてもらうことで自然とマッチングできるようにする。政治家に答えてもらうために「この質問には答えないとまずいな」という空気を作っていかなきゃいけないし、それには日常的な意見表明のシステムが必要だなと思ったんですね。それがゼゼヒヒの基本的なコンセプトです。

 

――意見表明のシステムが存在するだけでなく、それが日常的に使われていなければならないということですね。今お話いただいたようなコンセプトを実現するための具体的なイメージはあったのでしょうか?

津田:最初から明確に頭の中にあったのは「ソーシャルで広まる」ということです。まずはたくさんの人たちに答えてもらわないと意味がないですよね。ソーシャルでもっとも多くの人々が答えているサービスって何だろうと考えたら、「診断メーカー」[*3] が浮かんだんです。そこで「人はなぜ診断メーカーをやるのか?」ということを徹底的に考えたんです。とはいえ、僕自身は診断メーカーのどこが面白いのかまったくわからないんですよ(笑)。だって、あれって入力された文字列に応じて、ランダムに回答結果が出るだけじゃないですか。でも、そこで気づいたのは「人は話題を欲しがっているんだな」ということなんです。日々特別な出来事が起きる日常を送っているような人でないと、ツイッターに書き込みたくなる話題ってあまりありませんよね。それこそご飯何食べたとか、テレビ番組の話題とか現実のニュースについてどう思うかとかそういう話題しかない。でも、診断メーカーを使えば「こんな診断結果が出ちゃったよ!w」ってツイッターに書き込む話題が生まれるし、それをきっかけに誰かから「当たってるじゃんw」というリプライが飛んでくるかもしれない。診断メーカーが持つ「コミュニケーションの起点」としての可能性をゼゼヒヒに生かせないかと思ったんですね。

 

――診断メーカーがどういう結果を出すかは大した問題ではなくて、そこから生み出される話題やコミュニケーションこそが、診断メーカーが使われている理由である、と。

津田:診断メーカーは純粋なエンタメですよね。何も考えないでみんなが楽しめる間口が広いサービス。でも僕は単に楽しいだけではなくて、もうちょっと楽しみつつも勉強になったり、考えるきっかけになるようなものを作りたかったんですね。とはいえ、「特定の政策についてソーシャルメディア連動で議論や意見交換をしましょう!」みたいなサービスを真面目に作ると、一部の真面目でITリテラシーが高い議論好きしか使わなくなる。いくら仕組みがよくてもターゲットが少ないと人が来ないですから、うまくはいかないですよね。ネット上で熟議を実現しようとすれば、関われる人は限られてしまう。僕は根本的にネット上では複雑な議論はできないと思っているし、僕がやりたいのはネット上の熟議ではなくて、気軽にどんどん意見表明をしてもらうことなんです。ソーシャルでできるだけたくさんの人に参加してもらって、意見表明をしてもらう。そうすることで、何かしらの価値が生まれるんじゃないかなと。だから、僕の中でゼゼヒヒは、診断メーカーよりはちょっと真面目だけど、しかめっ面をして議論をするわけでもない。簡単に意見表明して、みんなの意見読んで楽しむというイメージなんです。そこに診断メーカーとは違うある程度のボリュームゾーンがあるんじゃないかと。

 

――サイト名の「ゼゼヒヒ」ですが、これは故事成語の「是々非々」からきているんですよね? どういう意味を込めて「ゼゼヒヒ」と名付けたのですか?

津田:「是々非々」という言葉を辞書で引くと「一定の立場にとらわれず、良いことは良いこと、悪いことは悪いことと、問題を切り分けて物事に対処すること」と書いてますね。もうそのまんまで、僕は常々目的があるのならその目的に向かって、たとえ立場が違ったとしても協力し合っていくべきというのが基本のスタンスなんです。だから「是々非々」や「呉越同舟」という言葉が好きで、今回はそのまんまの名前をつけました。

マサヒコ:「自分の意見と違うものは十把一絡げで全部ダメ」というわけじゃなくて「反対意見の中にも良い部分はあるよね」ということですよね。

津田:そう。これは7月にやった政治メディア立ち上げに向けたブレスト合宿の中で出てきた言葉なんです。「ゼゼヒヒ」は政治メディアとは異なる存在ですが、政治メディアに繋げるために民意を集約して調査する――その助けになりうるということで、政治メディアとは違うサービスとしてやることになったんです。

1 2 3 4
津田大介
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース非常勤講師。一般社団法人インターネットユーザー協会代表理事。J-WAVE『JAM THE WORLD』火曜日ナビゲーター。IT・ネットサービスやネットカルチャー、ネットジャーナリズム、著作権問題、コンテンツビジネス論などを専門分野に執筆活動を行う。ネットニュースメディア「ナタリー」の設立・運営にも携わる。主な著書に『Twitter社会論』(洋泉社)、『未来型サバイバル音楽論』(中央公論新社)など。

その他の記事

YouTubeを始めて分かったチャンネル運営の5つのポイント(岩崎夏海)
「消防団員がうどん食べてたらクレームが来て謝罪」から見る事なかれ倫理観問題(やまもといちろう)
本当に夏解散? 改造先にやって秋解散? なぼんやりした政局(やまもといちろう)
祝復活! 『ハイスコアガール』訴訟和解の一報を受けて(編集のトリーさん)
『我が逃走』は日本版ハードシングス?(家入一真)
身近な人に耳の痛いアドバイスをするときには「世界一愛情深い家政婦」になろう(名越康文)
日本はどれだけどのように移民を受け入れるべきなのか(やまもといちろう)
山岡鉄舟との出会い(甲野善紀)
ゲームにのめりこむ孫が心配です(家入一真)
夏至にまつわる話(高城剛)
乱れてしまった自律神経を整える(高城剛)
平昌オリンピック後に急速に進展する北朝鮮情勢の読み解き方(やまもといちろう)
「リバーブ」という沼とブラックフライデー(高城剛)
シアトルとアマゾンの関係からうかがい知る21世紀のまちづくりのありかた(高城剛)
週刊金融日記 第267号<クラミジア・パズルとビジネスでの統計の使い方他>(藤沢数希)
津田大介のメールマガジン
「メディアの現場」

[料金(税込)] 660円(税込)/ 月
[発行周期] 月1回以上配信(不定期)

ページのトップへ