名越康文
@nakoshiyasufumi

名越康文メールマガジン 生きるための対話(dialogue)より

人間関係は人生の目的ではない <つながり至上社会>の逆説的生き残り戦略「ひとりぼっちの時間(ソロタイム)」

LINEやTwitter、Facebookにインスタグラム……。SNSが広く浸透し、「いつでも、どこでもつながれる」ようになった社会の中で、なんとも言えない孤独感や、生きづらさを抱えている人が増えています。

精神科医の名越康文氏は、2017年6月12日刊行の『Solo Time 「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である』で、そんな<つながり至上社会>の中での生き残り戦略として「ひとりぼっち」で過ごす時間=ソロタイムを提案しています

人はなぜ、つながりに疲れるのか。ひとりぼっちで過ごすソロタイムには、どのような効用があるのでしょうか。

 

ある会社員たちの会話

とある場所の定食屋さんでお昼ご飯を食べていた時のことです。近くのテーブル席で、会社員の四人グループが食事をしながら、談笑していました。三〇代から四〇代ぐらいでしょうか。少し大きなプロジェクトがひと段落したあとらしく、みなさんにこやかに仕事の話をされていました。聞くともなしに聞いていたところ、どうやら、同じプロジェクトに参加していた、その場にいないメンバーの噂話のようでした。

仮に、噂話をされていた人をAさんとしましょう。Aさんはどうやら優秀なんだけど、何かと先走る傾向があるらしい。だからAさんがプレゼン中に空気を乱さないように、お互いが「あうんの呼吸」で、互いに空気を察しながら、協力して牽制した。4人はそんな話で盛り上がっていました。

「あのとき、俺が目線で合図したの、気付いたよな?」
「もちろん。あれで、うまくAのやつに釘を刺せたんだよな」
「そうそう。あれは絶妙だったよ」

そうやって笑いあう四人の会話を聞きながら、私は感心すると同時に、「この国で普通に生きていくのは、大変なことだなあ」と感じたのです。

 

「空気が読めない」と思われたくないから苦しんでいる

互いに「空気」を読みあい、「あうんの呼吸」でやりとりをする。過剰に気配りをすると、かえって「空気を読めないやつ」だと思われてしまうので、ほどほどに、黙るべきところは黙り、口を開くべきときは開く。言葉に出さずに「同意している空気」や「疑問を感じている空気」を出して、相手に「察して」もらう……。

こうやって言葉にしてみると、あまりにも繊細で、高度なコミュニケーションだということがわかります。これほど繊細なバランス感覚を、当たり前のように要求され続けたら、「普通に人生を送る」だけで疲れ果ててしまっても、まったく不思議ではありません。

人間関係のストレスは、都市化の進んだ先進国であればどこでも、多かれ少なかれ、存在するものです。しかし、日本人はとりわけ、「空気が読めない人」や、「TPOをわきまえない人」に対して、厳しい視線を向ける文化風土を持っているといえるでしょう。

それは会社だけではありません。親戚づきあいや、いわゆる「ママ友」同士のコミュニケーションにも、それぞれ独特の、高いコミュニケーションスキルが求められます。コミュニケーションスキルがある程度の水準に達していないと、「当たり前の人間関係」を維持していくことすらできないのが、日本の社会です。

誤解のないようにお断りしておきますが、私は、日本人がこうした高いレベルのコミュニケーション技能を、一つの文化として共有するに至ったことを、素晴らしいことだと考えています。ただ、そうした高いコミュニケーションスキルが「当たり前」のように求められてしまう空気によって、気づかないうちに疲弊している人がたくさんおられることも、一つの現実だと思うんです。

 

人間関係は人生の目的ではない

会社や家族、友人や恋人といったさまざまな人間関係を維持していくこと。実は私たちの人生のエネルギーの多くは、そのことだけに費やされています。

果たして、それでいいんでしょうか?

恋人と喧嘩をしないように、上司を怒らせないように、友人グループから外れないように、日々、多大な労力を費やす。そうやって、人間関係を維持することは、もちろん無意味ではありません。友人や恋人、家族や同僚との人間関係はかけがえのないものです。

しかし、それだけで、あなたの人生の時間を埋め尽くしてしまっても、良いのでしょうか。

私は、こう考えています。

人間関係は大切だけれど、それ自体は人生の目的ではない、と。

「人間関係を大切にする」ことは悪いことではありません。しかし「人間関係が人生のすべて」になることこそが、現代人特有の不幸を生み出している。

これは、精神科医として多くの人と接する中で得られた、ひとつの結論なのです。

 

ひとりぼっちの時間(ソロタイム)を取り戻す

日常の中で、ふと、胸にぽっかりと穴が空いたような虚しさを感じてしまう。そういう人は、仕事や家族、友人といった人間関係によって、知らず知らずのうちに、消耗してしまっている可能性があります。

新刊『ソロタイム ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である』の中で私は、そういう疲弊した現代人のために、「ひとりぼっちの時間」(=ソロタイム)を過ごすという提案をさせていただきました。

日ごろの人間関係からいったん手を離し、静かで落ち着いた、ひとりぼっちの時間を過ごす。たったそれだけのことで、何ともいえないような虚しさが、ふっと楽になった、という人は、少なくありません。

私自身、病院に勤めていた20代、30代のころ、ときどき、「こんな毎日を過ごしていて、自分の人生に意味があるのだろうか」と、何に対しても意欲が持てなくなってしまうことがありました。そんなとき私はよく、お気に入りの公園を訪れ、一人でぼんやりと時間を過ごすようにしていました。

誰も自分のことを知らない場所を訪れ、一人っきりで静かに、ゆっくりとした時間を過ごす。そうすると不思議と、ふっと気持ちが楽になり、少し前向きな意欲が湧いてきたのです。

精神科救急の激しい勤務を続けていた当時の私は、自分でも気づかないうちに、心と身体をこわばらせていたのだと思います。「ひとりぼっちの時間」は、そうした緊張感から私を解き放ってくれる、貴重な時間だったのです。

具体的に、ソロタイムを過ごすためにどうしたらいいかということは、書籍をご覧いただくとして、皆さんも一度、騙されたと思って、一週間に一度くらい、仕事や友人、恋人や家族など、日ごろの人間関係や役割から切り離された時間を過ごすようにしてみてください。

たとえば、喫茶店に行って、一時間ほど文庫本を読むのでもよいでしょう。近所をふらりと、目的を定めずに歩いてみるのもよいかもしれません。もしスケジュールが許すなら、ふらりと一人で旅行に出かけるのも、ソロタイムの過ごし方のひとつです。

私たちの思考や感情は、周囲の人間関係や環境から、常に強い影響を受けています。普段顔を合わせる人や環境から離れ、いつもと違う環境でひとりぼっちの時間を過ごすということ。

ソロタイムが私たちにもたらしてくれるのは、いつもとは違う思考であり、いつもとは違う感情なのです。

 

Solo Time 「ひとりぼっち」こそが最強の生存戦略である

著者:名越康文
四六版並製、256ページ
ISBN:978-4906790258
定価1600円+税
夜間飛行 2017年6月12日刊

アマゾン→http://amzn.to/2raktov

ヤフーショッピング→http://store.shopping.yahoo.co.jp/yakan-hiko/906790258.html

■内容

他人の言葉や常識に振り回されず、
納得のいく人生を送るために必要な
新時代のライフスタイルの提案!

5000人のカウンセリング経験から得た精神科医の結論!

「会社や家族、友人や恋人といったさまざまな人間関係を維持していくことだけに、人生のエネルギーと時間の大半を注ぎ込んでいる人は少なくありません。しかし、そのことが、現代人の不幸を生み出しています。
人間関係は大切だけれど、それ自体は人生の目的ではないのです」

「日ごろの人間関係からいったん手を離し、静かで落ち着いた、ひとりぼっちの時間を過ごす。たったそれだけのことで、何ともいえないような虚しさが、ふっと楽になった、という人は、少なくありません」
(本書より)

<<<人生を変える、ソロタイム活用法>>>

部屋を片付ける/旅に出る/古典やSFを読む/大きな決断の前には気分転換をする/他人を変えず自分が変わる/仕事や勉強よりも大切なのは「落ち着く」こと/小さな怒りを払っていく/姿勢を整えてしっかり息を吐く/拭き掃除をする/小さいことから習慣を変える/夕飯ヌキのプチ断食をする/家族や友人、同僚に対して毎回「はじめまして」という気持ちで接する/いつもと違うキャラになる/夜中にひとりで散歩をする

<目次>
第1講 あなたは群れの中で生きている
第2講 本当の自分の見つけ方
第3講 自分の心に打ち勝つ
第4講 身体に秘められた知恵と出会う
第5講 人生を変える習慣の力
第6講 もう一度、人と出会う
(目次より)

 

<著者プロフィール>
名越康文(なこしやすふみ)

1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、高野山大学客員教授。
専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:大阪府立精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。
著書に『心がフッと軽くなる「瞬間の心理学」』(角川SSC新書、2010)、『毎日トクしている人の秘密』(PHP、2012)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院、2012)、『驚く力 さえない毎日から抜け出す64のヒント』(夜間飛行、2013)、『『男はつらいよ』の幸福論 寅さんが僕らに教えてくれたこと』(日経BP社、2016)などがある。

夜間飛行よりメールマガジン「生きるための対話」、通信講座「名越式性格分類ゼミ(通信講座版)」配信中。
公式サイト
http://nakoshiyasufumi.net/

名越康文
1960年、奈良県生まれ。精神科医。相愛大学、京都精華大学客員教授。 専門は思春期精神医学、精神療法。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:大阪府立精神医療センター)にて、精神科救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。 著書に『心がフッと軽くなる「瞬間の心理学」』(角川SSC新書、2010)、『毎日トクしている人の秘密』(PHP、2012)、『自分を支える心の技法 対人関係を変える9つのレッスン』(医学書院、2012)、『質問です。』(飛鳥新社、2013)、『驚く力 さえない毎日から抜け出す64のヒント』(夜間飛行、2013)などがある。 名越康文公式サイト「精神科医・名越康文の研究室」 http://nakoshiyasufumi.net/

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