小山龍介
@ryu2net

小山龍介のメルマガ『ライフハック・ストリート』より

僕たちは「問題」によって生かされる<後編>

「100年後」を考えている政治家が、日本には見当たらない!

そうすると、アメリカは今後100年どうするか、どうしたいか、ということですよね。明らかに中国はこれからの100年で、東アジアの覇権を取りにこようとしている。それに対して、アメリカが次に打つ手はどの辺にあるんだろうか、と100年分時間軸が広がるわけです。

100年という単位で見ると、本当に中国はやる気満々だからね。中国は、おそらく韓国も日本も、自分の影響下に置きたい。ただ「日本はちょっとアメリカ寄りだし若干手強いけど、韓国ぐらいだったらスッといけるんじゃないか」みたいな思惑で、この騒ぎは起こっているんじゃないでしょうか。

今後の100年を見据えたときに、今がひとつのターニングポイントになっていて、現在の中国のアクションが「東アジア戦略」としての大きなメッセージになっているような気がします。

原尻:ロシアも入ってくるしね。

小山:そうそう。だから、「ロシアを味方につけておくといいんだよ」と。悲しげな目をした秋田犬がロシアに渡っていったけどもね。そういうことが、一連のなかで起きている。

そのなかで、やはり日本はどうしたいか、という主体性が見えない。

もちろん、外務省の外交官たちがある程度は考えている。でも、100年ぐらい先の未来の話になってくると、やっぱり政治家がどういう価値観、世界観で世界を見ていくかということが重要だと思うんだけど、どうも見る限りでは、そういうことを考えている人は……いないよね。

原尻:そうだねえ。「50年とか100年の時間の長さで未来を見据えて何かをやろう」ということを考えているような動きは、ないよね。

小山:ないね。でも僕だったら……と言っても、これは、あくまで素人の考えなので偉そうには言えないんだけど、中国のチベット問題やウイグルの問題は、明らかに大きな問題だと思うわけです。

多くの殺された人がいて、自治を奪われ、主体性を奪われて。やっぱり、チベット問題やウイグルの問題と、尖閣諸島の問題には繋がりがあるように感じる。

今は、日本の外交筋がわざわざチベットの問題について声をあげるタイミングではないかもしれない。政治的な背景があって、異を唱えることはできないかもしれない。

でも、少なくともその問題に対して、日本は「非常に懸念を感じている」というメッセージを送らないといけないと思う。

「尖閣諸島における領土争い」というレベルで対処していくのではなくて「中国の方法論やアプローチに対する懸念を滲み出すようにしながら、問題に対処していく」というのが、いいやり方じゃないでしょうか。

もしも今後100年をかけて中国が東アジアの覇権を取ったときに、彼らの方法論が今のチベットやウイグルに対するものと同じだったら、その世界がいい世界だとは、僕はとても思えない。それは世界全体のことを考えたときに、懸念要素として考えていかないといけない。

だから、ただ「中国に媚を売る」ようなやり方は、非常に嫌だなあと思いますね。小沢さんがやったような。

 

領土問題における「斜めの方法」を考えたい

原尻:僕は今の話を聞いて、方法として「斜め」というキーワードがよぎりました。松岡正剛さんが対話の中で言う「斜めの方法」っていうのをよく聞いていて。

つまり、尖閣の問題にだけフォーカスして直線的、水平的に捉えるんじゃなくて、「斜め」に捉える。それは問題を多角的に捉えることができて、面白い方法になる気がする。もしかしたら韓国との竹島の問題も、「斜め」の方法があるとしたらどういうやり方があるんだろうと考えたときに、面白い方法が出てくるかもしれないよね。

小山:竹島の問題で言えば、実効支配を向こうがしていることを考えると、それを取り戻すには相当な手続きが必要。本当に真剣に取り戻そうと思ったら、それこそ武力収奪しかない。でも、それは戦争になるからもちろんやるべきじゃない。ようやく平和な時代になってきたのに、それはありえない。……でも、今はありうる状況だからね。それは絶対に避けたい。

これをひとつのいいきっかけとして、何かうまい落としどころを見つけて、お互いに結論を見つけ出せればいいんだけどね。お互いの言い分を認め合って、落としどころが見つかるのはいいことだと思う。だから、あくまでこちら側としては「対話を求める姿勢」を見せた方がいい。

親書は書留郵送で返されましたけれども。そういうことを短期的に見たら「失礼だ」という反発感情は湧くと思うんだけど、それでカッカしてる場合じゃなくて、もうちょっと長い目で見ていけるといいなあと思います。

例えば日韓のスワップの問題。資金ショートしたときに、「ちゃんと日本が貸しますよ」と保証している300億ドル相当の枠組がある。オプションとしてそれを維持するのか、しないのか、という問題がある。

もし、それを維持しなかったら、韓国にとってはかなり大きなインパクトがある。

維持をストップさせて「そら見たことか」と言うのか、「いや、ここは維持しましょう」と大人の対応を保つのか? ――もし、100年後の歴史を考えるなら「維持する」道を選んだ方がいい。100年後の世界から見たら、その決断は「相手を思いやった判断」として、非常に評価されるものだと思うんですよ。長い時間をかけてこの問題を解決しようとするなら、その方がプラスになると思う。

原尻:何かうまい、フェアな解決方法ってないのかなあ。竹島ってそんな大きい島じゃないじゃん。人、住めないでしょ?

小山:いやいや、そんなことないよ。……まあ、住むには不便な生活だけどね。

原尻:尖閣諸島には「人が住んでた」という話があるけど。

小山:まあ、永住的なものはね。昔、韓国が「あんなのは爆発した方がいい」と言った話もウェブで見たけど、その程度のものだよね。

原尻:でも、まあここまで一気に日韓関係がぎくしゃくするとは……。ここ数か月だからね。

小山:普通は、こういうことが起こると「計画的にやったんじゃないか」と思うわけだよね。「オリンピックのタイミングを見計らったんじゃない」とか。今回はどこまで計画的なものなのか、よくわからない。「親書を受け取らずに返送する」ということも含めて

こういう問題も、やっぱり空間軸と時間軸を広げることで「足の長い問題」として捉えて考える必要がある。だから僕は「韓国はダメだ。中国はダメだ」ということではない捉え方をしたい。

ただ、韓国は「反日」を主張しているだけなんだけど、中国に関してはチベット、ウイグルにおける大きな問題があるから、そういう問題をどうするのかということを念頭に置きながら対応した方がいいんじゃないかと思う。

原尻:そこは、西洋の人たちも人権の問題も含めて、いろいろ根深い問題があるからね。

小山:中国に関して言えば、たぶん西洋の言う人権みたいな言葉では捉え切れない話なんだよね。もう人権がどうこうというレベルじゃない。チベットでもウイグルでも、人が殺されているわけだから。

そういうことも含めてさっきの話で言うと、直近の問題をサクッと解決する「ライフハック」を取り入れつつも、「足の長い論理」が必要な場合があることを、頭に入れておかないといけない。そうしないと解決が見えてこない。

逆に言えば、「本当はじっくり時間をかけないといけない問題を、サクッと解決しようとして、とんでもない失態を犯す」ということを避けないといけないと思う。

 

「成長する」って結局のところ、どういうことなんだろう

小山:話は変わるけど、そっちは、最近何かないの?

原尻:最近「人が成長するってどういうことなのかな」とずっと考えてるんだよね。まあ自分自身にとっても「子どもの教育」が目の前の課題ということもあるんだけど、「これだ!」という答えが見つからなくて、ずっと考えている。

明治大学の齋藤孝先生が「上達論」の話を書いていたり、いろんな本にヒントがたくさん書かれていたりはするんだけどね。

さっきのボランティアの話にもつながるんだけど、人が成長するときのきっかけに「内発性」の問題が出てくると思うわけ。きっかけというのは、つまり「生きている」という状態が「生きていく」というところにモードチェンジするときの何か、だよね。――それを“発芽”させるには、どうしたらいいんだろう? ということを毎日考えています。

小山:結局、すべては個人のケースバイケースなんだよね。「内発的な」というところを重視すると、紋切型のセオリーではダメなんだと思う。

つまり、知識は体系化できるけど、体験を体系化するのは難しいってことだよね。その人の性格、過去や未来を見て、直感的に「こういう経験がいいんじゃないか、ああいう経験がいいんじゃないか」と考えていくしかない。

原尻:直感は大事なんだよ。

小山:高木さん(インターン)は今、インプロやコーチングをやっているなかで、自分の変化は感じる?

高木:一番に感じるのは「楽しい」ってことですね。インプロにしてもコーチングにしても、本当に自分の知らない世界に飛び込んでいる感じで……。具体的にはよくわからないんですが、自分のなかで何かが少しずつ変わってきているのは、
感じています。

あとは、今までは自分がすでに知っている範囲で「できる」「できない」を判断して物事に取り組んでいた気がします。そのあたりは反省する部分もあります。なので、今はとても新鮮な気持ちを味わっています。これからもインプロやコーチングを続けて、新しい自分を見つけていきたいです。

原尻:とにかく「何かやってみる」というのが大事だよね。

小山:しかも、合格するための試験勉強や資格のための勉強と違って、「結果がわからないこと」をやってみるというのは、すごくいいよね。

原尻:さっきの「長い時間をかけて取り組む」ということにも通じると思うね。試験勉強は本当に短い時間軸のソリューションだけど、長い時間をかけて取り組むときは初めの「直感」も大事だし、実際にやってみて思うことがあって「もっと深くやってみたい」という衝動に駆られるという、そのプロセスが大事なんだよね。

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小山龍介
1975年生まれ。コンセプトクリエーター。株式会社ブルームコンセプト代表取締役。京都大学文学部哲学科美術史卒業後、大手広告代理店勤務を経てサンダーバード国際経営大学院でMBAを取得。商品開発や新規事業立ち上げのコンサルティングを手がけながら、「ライフハック」に基づく講演、セミナーなどを行う。『IDEA HACKS!』『TIME HACKS!』など著書多数。訳書に『ビジネスモデル・ジェネレーション』。2010年から立教大学リーダーシップ研究所客員研究員。

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