現場では、知識を検証しても意味がない
原尻:だから、まず現場なんですよ。リアルに体験してみることが大事じゃない?
僕も、ことあるごとにいろんなところに行ってみたり、娘も一緒に連れて行っていろいろやらせてみたりはしているんだけどね。どこに「内発性」の芽があるかなんて、全然わからない。
僕の場合は、大学のときに、なんかわからないけど、国際協力論をやってNGOとNPOの話が出たときに「これだ!」って思ったんだよね。
とりあえず「行ってみたい」と思ってフィリピンに行った。あとはタイで1か月暮らして現地の人たちと話し合ったり、お酒を飲んだり現場を歩いたりしたんだけど、その経験から、物事の捉え方ガラッと変わった気がする。それはものすごくあるね。
ここで起きている問題を解決するにはかなり時間がかかるんだろうなあと感じつつ、大学の講義で先生が言うことや、教科書に書かれていることには、ものすごく違和感を感じたね。
何でかと言うと、そこでしっかりと自分自身が〈プレーヤー〉=当事者になっていたから。
「住民は実はそういうことを思っていない」とか「ODAのあり方についての政府の人と現地の人の意見は、まったく違う」ということは、実際に現地の人にヒアリングしてフィードバックすると全部わかってくる。
そうすると、たとえ先生と意見が違っても、授業に出るモチベーションがまったく変わってくるんです。とにかく「どうやって解決すればいいのか」が知りたい。
時期は大学2年から3年生にかけてだったんだけど、現場に行って自分の目で見て、教科書も読んで、教科書じゃ足りないから図書館に行って参考書籍を読んで、それでもわからないからゼミの先生のところに聞きに行って……ということをや
っていた。
試験も受けるんだけど、記述の試験では持論を書いて、「教科書で習ったことに対して、自分の考えではここが違う」と先生に反対意見をぶつけていくような姿勢になっていくわけです。「単位を取る」以上の姿勢になっていく。
それは、きっと僕がただ「生きている」という状態から「生きていく」という能動的な姿勢に変われた瞬間だと思う。やっぱり、外に飛び出てみないとわからない部分がすごくある。自分でやってみないとわからないことだらけですよ。だから、まずリアルから、現場から始めようというのは、ひとつ鉄則としてある。
あと、すごく言われた言葉がある。
龍谷大学の社会科学研究所の民際学研究会に出ていた時に、一橋大学で在日外国人の研究をしていた、有名な田中宏先生という方がいらっしゃった。その方もフィールドワークを丹念にされる方なんだけど「絶対に、本を読んでからフィールドに行くな」と言われたんだよね。
つまり、先生が言うには、本を読んでからフィールドに出たら、本の検証しかしなくなってしまう。そんなのは自分の目で見て、確かめたことにはならない。そんなのは読まなくてもいいし、とりあえず感じたことから始めろと。本を読んでおいて、あとから確かにそうだ、と本の読み方が変わることは面白い。でも、それはやってはいけないと思う――ということだったんだよね。
「現場から始める時に、本は読まない」。これが僕の鉄則にさらに加わったんです。
僕は『READING HACKS!』のときに、「現場で本を読んだ方がおもしろいよ」という話を書いたから、それを言ったんだけど、「フィールドワークの意味合いと研究からすると、それは絶対やっちゃいけないことだ」と先生に言われて、自分も振り返って「確かにそうだなあ」って反省した。……まあ、そんな感じです。
ずっと長い時間かかって、わかんないけどやっていかなきゃいけないような問題にのめり込めるような状態に、いろんな人を持っていきたいという想いがある。それは、自分のフィールドに限らない。
その人がそれぞれ興味のあるアンテナがあると思うし、そこに引き連れてずっとやり続けて発見する楽しさとか、やってみてみんなで共有する楽しさとか、あるレベルのモチベーションまで持っていくにはどうしたらいいのかという「道すじ」をどうにかして見つけたいね。
それはどうしたらいいんだろう、とずっと考えています。
「巻き込まれていく」ことが大事
小山:言葉で言うと陳腐だけど、それは本当にケースバイケースだと思う。地域で町おこしをしようとしたときに、「いや、すでにこういうメソッドがあるんです」「こういうソリューションがあるんです」って持っていったら、絶対失敗する。「こうやったら大丈夫です」という方法は、その地域によって違うからね。
個人の成長も同じで、そのひと個人の成長って、その人にしか適用できないものがあるから、実際にその人を見て感じながら考えないといけない。
そういう意味で、古民家をアート作品にするときのアーティストの気持ちとほとんど一緒で、話をするなかで「ああ、こういう人なんだ」「こういうことが心に響くんだ」というのを感じて「じゃあ、こういうことをやるといいかもしれない」と直感的に導き出していく。その人個人の、過去の時間や未来の時間を、開いていく感じ。
例えば高木さんは、本人の資質とか、生きてきたものとか性格も含めて、「インプロをやってみたら面白いんじゃないか」と思った。あとは感覚的に「コーチング」が合ってるような気がした。互いに相互持った関係を重視しながら、相互に影響を受けながらコーチングしていくCTIの「コーアクティブ・コーチング」をやったらいいんじゃないかって思ったんだよね。きっと感じるところがある。何か「巻き込まれていく」ことがあるんじゃないかと。
「巻き込まれる」と言うのがポイントだと思う。渦をつくるときもそうなんだけど、水が動いていったときに巻き込んで動きが大きくなっていくような、「巻き込み型のプロセス」があるなと思う。
僕は、高木さんに体系を示したことは一切ない。「まずはこのレクチャーを受けろ」と(笑)。この渦が回ってきておもしろいと思ったら、次の渦を展開してく、というような即興性のある、体系立てることのできない「即興的プロセス」のなかで成長を促していく方が、いい場合もあると思う。
原尻:教育的観点から言えば、それは重要じゃないの? 「コーアクティブ・コーチング」っていうのはまさにそういうことだよね。
「内発性」で言えば、自分でそれを発見して、そこにのめり込んでくときは、どうなんだろうね。人から何かを言われてヒントをもらって、とりあえずやってみて「なんかおもしろくて巻き込まれていく」というやり方ではなくて、自分で何か湧き出てくる場合。
その点で言うと、小山龍介は「うまいな」「すごいな」って思うわけよ。自分でのめり込んでいくものを、直感でどんどん見つける(笑)。
小山:最近で言うと、能をやってみたりとかね(笑)。
原尻:そうそう! やってるでしょ。インプロから入って能にいくっていうところが……。
小山:インプロから入って能にいくって……かっこいいよね。(笑)
原尻:あははは! そこは、内発的に何かあるのか、それとも直感的なものなのか知りたいんだけど。
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