香港の仕入れるミルクに殺到する人々
そこから始まったのが海外産粉ミルクの需要である。一時は日本からも多くの粉ミルクが求められた。しかし、3・11の原発事故以降、急激に日本製品への信頼が低下、さらにそれでも日本への絶大な信頼によって購入が続いていた香港でも、香港政府の衛生署が定めた「ヨウ素含有量」に、日本製品の含有量が足りないことが明らかになってからぐんと需要が落ちた。現在、最大人気はアメリカやオーストラリア、そしてニュージーランドの製品だという。
そこで広東省あたりから陸路で入れる香港に人々がミルクを買いに殺到するようになった。全国に需要があるので、それを商売のネタに――香港でミルクを大量に買い占めて中国国内に持ち込み、ネットで販売しあり、専門に香港からのミルクを買い上げる店に持ち込んで売る人も現れた。さらにはその販売のために人を雇って香港中の店から粉ミルクを買い集め、手数料を払って買い集める「業者」も出現した。
その結果、香港で「粉ミルク不足」が起こる。中国とつながっている鉄道の駅のうち、中国に近ければ近いほどミルクが買い漁られてしまい、住民が近くでミルクを買えないという事情が深刻化した。その「中国に近ければ近いほどの駅」がだんだん市内へと広がり、鉄道沿線の最大ベッドタウン「沙田」でもミルクが手に入らなくなると、香港中が大騒ぎになった。
特に昨年あたりから、香港では中国からやってくる観光客などに対する視点が冷たくなってきている。一つは中国からの観光客が香港のルールを守らない。あるいはその素行が荒かったり、傍若無人すぎて香港住民とのトラブルが続いたせいである。細かいことを上げればきりがないが、列車の中で子供におしっこさせたり、といった親も出現して、香港人の怒りが頂点に達していたことも理由だ。
「市場需要が高まった香港が輸入を増やせばいいだけ」という声も多い。確かに一般的にはそう思うだろうし、逆に言えば貿易のプロたちが雲集する香港でなぜそれが行われないのかが不思議だった。そうして調べてみると、ニュージーランドやオランダなどのヨーロッパでは、ミルク製品の生産量規制があることがわかった。乳牛や牧草地の保護が目的しい。
となると、つまり年間に生産される粉ミルクの量は上限があり、香港で需要が高まったからといって香港にどっと流れこむわけではないことになる。そこが香港が苦慮する理由だった。
一方で中国は国内乳業の保護を理由に、外国からのミルク輸入を制限している。実際にメラミンミルク事件暴露後の2009年前半、粉ミルク輸入量が前年同期比で84%も増大し、政府は慌てて関税を50%に引き上げたとされる。その後、調整が行われたようで、今年初めに粉ミルクへの関税は昨年の10%から5%に引き下げられた。
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