◇誰が決めるべきなのか
東:難しいですね。この計画については、具体的には国だったり県の計画というかたちになるでしょう。あと、地元の人たちの完全なコンセンサスにこだわっていくと、おそらく時間に負けてしまうところもある。難しい問題ですね。
津田:東さんは、去年中国を取材されていて、四川大地震 [*28] の被害を受けて町ごと移転したところに行かれたんですよね? そのお話をお聞きしてもよろしいですか?
東:2011年の12月に、四川大地震の被災地はいまどうなっているのかを見るため、弊社で取材に行かせていただきました。そのときに驚いたのが、現地では政府のテコ入れで日本よりも意志決定のスピードがはるかに速い。そして大胆です [*29] 。それがいいか悪いかと言ったら、現地の人たちのなかでは反発もあるんですよ。でも、結果としてどうなっているかというと、地震で最も被害を受けた北川という街があるんですが、いまはその北川がまるごと保存されているんですね。街が半分ぐらい水に沈んで、ビルが傾いている状態がそのまま博物館として保存されていて [*30] 、その代わり新北川という街が別のところに作られている [*31] 。
津田:何キロぐらい離れているんですか?
東:南に数十キロだと思います。北川という街は、渓谷をかなり分け入ったところにあるんですが、その谷間から降りてきた平地に新しい町を作った感じです。北川の住民は少数民族だったので、新北川も、建物のデザインとかライフスタイルを積極的に取り入れた新しい街になっています。そこのショッピングモールでは、少数民族のお土産もいっぱい買えるようになっている。
新北川は、四川省の主要都市である成都 [*32] から高速道路で2時間ぐらいのところにあります。僕が行ったのが日曜日ということもあるのでしょうが、成都からかなりの買物客が来ていました。詳しい取材まではできませんでしたが、おそらく震災復興と少数民族観光を組み合わせた復興策がとられている。先ほども言いましたが、中国なので、現地のコンセンサスをおそらくほとんど取っていない。今回の取材でもそれに対する批判は聞きましたし、日本では同じことができませんよね。けれど、隣の国にはそういう例があるということは知っておいたほうがいい。
津田さんは僕より詳しいと思いますが、いま「仮の街」[*33] という議論があります。原発周辺自治体は、今後5年から10年のスパンではもはや回復が難しい。だからほかの土地に仮の住処を作るということですが、やはり日本の対応はちょっと緩やかすぎるのかな、と思うところはあります。
津田:もしかしたら、20キロ圏内の富岡町や、大熊町、双葉町とかの住民たちが生活様式と既存のコミュニティを維持したまま、新しいところに移転するひとつの参考例になるかもしれないということですよね?
東:繰り返し言いますが、日本と中国は政治体制が違うので、中国がいいとは絶対に言えないです。ただ、観光地化を含む大胆な復興策をとっていることは明らかでした。
津田:日が経つにつれて福島への関心が薄れていくなかで、先日の内閣改造で、原発事故担当大臣が細野豪志さんから長浜博行さんに代わりました [*34] 。このあたりの政治の体制について東さんはどういう印象をもたれていますか?
東:そもそも政権交代も近い [*35] でしょうし、みな政治の混乱に振り回されているという気がします。日本は、本腰を入れて復興策に取り組む政治体制をもっていない。
津田:脱原発・縮原発 [*36] など、いろいろなスタンスがあると思うのですが、東さんはいかがですか?
東:脱原発のつもりです。けれど、即時原発ゼロは現実的に不可能だと思うし、廃炉のテクノロジー [*37] も大切です。先ほどの繰り返しになりますが、僕は「原子力に支えられてきた私たちの生活を見たくない、全部忘れたい、だから反原発」という態度が一番いけないと思います。福島について考えることは、日本の未来について考えることで、だから未来への指針として脱原発を位置づけなければならない。それはじつに知的な挑戦のはずです。廃炉の問題にしても、「廃炉」というといかにも後ろ向きな感じがするわけですが、そうではなくて、「廃炉の技術を開発するのが我々の未来を作ることなんだ」という発想じゃないといけない。
津田:廃炉によって雇用を生み出していくということもありますからね。
						
						
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