城繁幸
@joshigeyuki

期間限定公開! 新刊『「10年後失業」に備えるためにいま読んでおきたい話』

【第4話】キャンプイン――静かな戦いの始まり

「午前中の練習に参加しない選手がいるんです」

息せき切ってそう報告してきたのは、今年球団入りしたスタッフの松浦太郎だ。松浦は元実業団の選手だったが、引退してアメリカの大学に留学、スポーツトレーニング理論で修士号をとった努力の人である。スタッフとして、トレーニング面からのチーム力の刷新を期待されている。

「どういうこと?  少なくとも午後のワークアウトはみんな揃っているように見えるけど」

「そうなんですよ、コーチ陣やメディアのくる午後にはいるんです。で、各自バッティングやピッチングをこなすんですけど、午前中の基礎体力作りのメニューをやらない選手がいるんです」

「ああ、そういうの良くないねぇ。僕も嫌いだよ、なんだか上司のいるときだけ残業するサラリーマン(※3)みたいで」

「これが欠席者のリストです。山田さんから監督に報告してください」

「えぇ?  僕が言うの?  そりゃ君達フィールドスタッフの仕事でしょ? 僕の出る幕じゃないよ」

「私からは何度も監督には申しあげてますが、まったく聞いてくれないんです。山田さんだったら、無下に断られないでしょう」

「ふーん。まあいいよ。それにしても、中村、林、秋山......って、ベテラン揃いだなぁ。こりゃ監督も注意しにくいだろうなあ。って、中森!? 彼も午前さぼり組なの!?」

「彼が昼前から球場に来たのは初日の挨拶の時だけですよ」

山田は、日中取材陣の前で中森が見せる姿勢とのギャップに驚いた。

「......ここだけの話ですけど、彼が入ってから、なんというか、全体的に規律が乱れたって気がします」

※3 上司がいるときだけ残業するサラリーマン/残業には本当に忙しくて行われるものと、仕事してるふりを装うために行われるものの二種類ある。上司不在時や金曜日の夜だけ速攻で帰る人間は言うまでも無く後者である。

 

1 2 3 4 5
城繁幸
人事コンサルティング「Joe's Labo」代表取締役。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』等。

その他の記事

「イクメン」が気持ち悪い理由(岩崎夏海)
そう遠くない未来、僕らは“AI”を通してコミュニケーションするようになるだろう(高城剛)
教育としての看取り–グリーフワークの可能性(名越康文)
ゴジラは「映画」だーー本多猪四郎を語るために欠かせなかった7つの課題(切通理作)
「GOEMON」クランクインに至るまでの話(紀里谷和明)
11月の『漆黒と灯火』例会、ゲストは乙武洋匡さん。また当メルマガで乙武洋匡さんとの対談連載が開始されます(やまもといちろう)
これからの時代をサバイブするための「圏外への旅」(高城剛)
長寿国キューバの秘訣は予防医療(高城剛)
沖縄の地名に見る「東西南北」の不思議(高城剛)
中国発・ソーシャルゲーム業界の崩壊と灼熱(やまもといちろう)
実は「スマート」だった携帯電話は、なぜ滅びたのか ーー10年前、初代iPhoneに不感症だった日本市場のその後(本田雅一)
村上春樹から上田秋成、そしてイスラム神秘主義(内田樹&平川克美)
田端信太郎氏の侮辱罪容疑書類送検から考える「株主論評」罵倒芸の今後(やまもといちろう)
ショートショート「木曜日のエスケープ」(石田衣良)
目下好調の世界経済にバブル崩壊のシナリオと対処法はあるのか(やまもといちろう)
城繁幸のメールマガジン
「『サラリーマン・キャリアナビ』★出世と喧嘩の正しい作法」

[料金(税込)] 550円(税込)/ 月
[発行周期] 月2回配信(第2第4金曜日配信予定)

ページのトップへ