「ところで監督、来週はいよいよ球界の盟主、巨人戦ですね。オープン戦とはいえ、巨人はユニオンズを相当警戒しているらしいですよ」
ユニオンズ記者会見で連合・古賀会長が「親会社は終身雇用のくせに、年俸制でぶいぶい言わせている球団には負けない」宣言をして以来、読売はグループを挙げてユニオンズをバッシングしていた。オープン戦でも必勝指令が出ているに違いない。
「まあ見ててください。我々の実力がまぐれかどうか、巨人戦で白黒つけましょう!」
その日、宮崎市営球場には1万人の観客が詰めかけた。近年のオープン戦としては異例のことだ。巨人人気に加え、ユニオンズ旋風という追い風のおかげだった。メディアがさんざんボロ球団として叩いてくれたおかげで、良くも悪くも「ユニオンズは恵まれないかわいそうな人たちの集まり」というイメージが完成してしまい、ちょっと頑張っただけでやけに客のレスポンスが良い。別に生活に困っているわけでもないのに、差し入れなどもよく貰える。雑草とか叩き上げという言葉に、とかく日本人は弱い(※5)らしい。
さて、試合自体も集客数に恥じぬ緊迫した展開となった。巨人は先発にドラフト一 位ルーキーの澤山太一を投入。一方のユニオンズは横須賀時代からの数少ない(使える)生え抜き、ベテランの三浦克彦が先発。両者は一歩も譲らず、無失点の投げ合いが続いた。
試合が動いたのは5回。フォアボールが続きノーアウト1、2塁のランナーを背負 った澤山が打席に向かえたのは、ユニオンズ4番の中森だった。大方の予想に反して真っ向勝負を挑んだ初球は、ベテランの一振りであっさりとライトスタンドまで運ばれた。
「おお! さすが中森だ 」大歓声のスタジアムの中、肩を落とす澤山の周囲を勝ち誇るようにゆっくりと走る 中森。
湧きあがるユニオンズベンチに比べ、巨人軍ベンチは静まり返っている。 「原監督、少し早いですが、二番手を出しますか? 澤山はもう限界ですね」
プロ初登板のマウンド上で、澤山の疲労はすでにピークを迎えていた。
「いや、この回だけは澤山にいかせよう。抑えられればそれでよし、打ち込まれても それはそれでいい経験になる。オープン戦とはそういうものさ」
さっそく、澤山は後続の打者にヒットを許してしまった。
「ですが、この状況は新人にはけっこうきついかと......」
「あいつはこの敗戦をバネにして成長できるだけの素材だ。リスクを取らない限り、 成長なんてない(※6)からね。リスクを取ろうとしない組織がどうなるかは、彼らユニオンズを見ていれば、そのうちわかるよ」
※5 雑草や叩き上げという言葉に弱い/そのくせ大企業は一流大学出身者が大好きで、学生も親も大手企業志向で、庶民は自民党とケネディ家が大好き、というのが日本人である。
※6 リスクを取らない限り成長なんてない/ノーリスクで成長や利益を上げられるなら、経営者はラクなものだが、現実はそこまで甘くはない。マネジメントにおいて問われるのは、利益や成長のためにどれだけリスクを取ることができるかを判断することであり、リスクを犯さないことに終始する経営者は単なる無能である。
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