城繁幸
@joshigeyuki

期間限定公開! 新刊『「10年後失業」に備えるためにいま読んでおきたい話』

【第6話】闘志なき者は去れ

「君もこれを読むといい。今言ったこと、全部理解できるようになるから。よし、若手無気力対策として、藤原正彦センセイの講演を頼もう!よし、決まりだ!」

(オープン戦の)快進撃の裏で、ひそかに進む組織腐敗。果たして、スタッフはユニオンズに活力を呼び戻すことができるのか。そして、藤原正彦講演会で若手に闘志は 沸き起こるのか?

 

 

【教訓】〝研修〞ですべてを変えるのは無理

 

筆者は仕事柄「講演や研修で従業員のやる気を高めてほしい」といった依頼を受けることがよくあります。ちょっと大きな会社に行くと、必ず「最低限言われたことしかやらない人間」というのは一定数いて、それなりに対応に苦慮している企業が多いようです。

そんな時、筆者は必ずそうなってしまった原因について質問します。最近で一番多い回答は「ゆとり教育のせいだ」というものですね。確かに小学校〜大学までの教育に帰するのは、経営者はもちろん、新人教育の担当者や管理職にとっても非常に受け入れやすいロジックでしょう。なぜなら、反論も検証もできないし、なにより「じゃあ解決してみろ」と言われることもないからです。

しかし、現に組織に所属するメンバーがやる気を失っているとすれば、その原因はどう考えてもその組織自体にあるものです。組織にどのような問題があるかを検証することなく、外部講師に講演を依頼して問題を解決しようとする姿勢は、組織に問題がある可能性から目をつぶる行為以外の何者でもなく、それ自体、組織の活力低下を象徴しているように思います。

 

東大卒A氏の場合

既に述べたように、それなりの規模の企業であれば、基本的に能力的についていけないような人材を採用することはまずありません。ではなぜやる気の無い人材が現に組織内に存在しているのか。それは、組織内で新たに生み出されているためです。

例えば、モチベーションが100ポイントあるとして、50を切ったらあまりやる気の見られないイエローゾーン、20を切ると最低限言われたことしかやらないレッドゾーンだとしましょう。

ここで、東大卒のA氏をモデルとして想定しましょう。A氏は12月賞与の査定で悪い評価(C評価)を受け、モチベーションは5ポイント下がりまし

た。

 

100-5=95

 

ここまではどこの国でもどんな組織でも普通の話です。絶対的に正しい評価なんてあるわけありませんから。ただし、日本の職能給システムの場合、査定成績が翌春の昇給や昇格にも反映されるのが一般的です。会社によっては定年までずっと基本給の差として残ることもあります。

 

〈例〉

ボーナス:A評価50万円、B評価40万円、C評価30万円 翌春の昇給額:A評価昇給5000円、B評価3000円、C評価500円

昇格基準:昇格直前の4期分の査定成績

 

つまり、A氏のモチベーションは、翌年の昇給や昇格選抜のたびに、いや、下手をすると(その都度、金額の差を思い知らされるわけですから)毎月の給与支給のたびにじりじりとコンマ数ポイントくらいは下がり続けるわけです。

仮に年間5ポイントのモチベーション低下影響が10年間続いたとすると、

 

95-5×10=45

 

10年後にはA氏は立派なイエローゾーン人材となっていることでしょう。

これが、組織内で仕事のできない人 間が生み出されるプロセスです。最先端の研究職技術職などを除く職種では、実は能力の格差なんてたかが知れていて、パフォーマンスに決定的な差をつけるのはモチベーションです。

 

敗者復活リターンマッチの設置が必要

筆者はこれまで、さまざまな「仕事をやろうとしない人間」を見てきました。中には(自分では動かないから)〝マネキン〞と呼ばれていた人間もいます。みな一流と呼ばれる大学を出て、高い評価で採用された人材ばかりです。

間違いのないよう言っておくと、そうした評価制度の歪みや不合理な扱いというのは、世界中どこにいっても存在するということです。完璧で公正な絶対評価などというものは幻想にすぎません。ただ、多くの国では、そうした状況が続けば自発的に転職するという選択肢があるのに対し、労働市場の流動性の低い日本では、そのまま組織内で腐る人材が多いということなのです。

労働市場の流動化は本書のテーマでもありますが、今日明日にすぐ実現するという話でもありません。まずは社内だけでも、何らかの流動化策(=敗者復活リターンマッチ)を講じるべきでしょう。それがトータルで見れば組織全体の活力を底上げする近道だというのが筆者の意見です。

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2014年6月20日発売!

『「10年後失業」に備えるためにいま読んでおきたい話』

城 繁幸 著

 

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ある日、「サラリーマンなんて言われたことやってれば楽勝だろ」が信条の山田明男に、とんでもないミッションが与えられてしまう。史上初の”終身雇用”プロ野球球団「連合ユニオンズ」への出向! 山田が見た終身雇用システムの光と影とは!?

 

――衝撃のストーリーが教えてくれる、すべての働く人のための生き残り術!

 

眼を閉じて、10年後の自分を思い浮かべてみてください。

「責任ある仕事を任され、安定した収入を得ている」そんな自分を明確にイメージすることができますか?

「さすがに失業している……ってことはないだろう」と思ったあなたは、日本の雇用環境についての見通しが少し甘いかもしれません。

人事部門には、「人材は職場環境で作られる」という格言があります。確かに、環境は人を変えます。でも、その環境を変えるのもまた人であり、その人自身の心の持ちようです。

さて、あなたは10年後に仕事で困らないために、今、どんな心構えで、何を準備すればいいのでしょうか。

この本では、「もし日本労働組合総連合会(連合)がプロ野球チームを保有して、全選手を終身雇用にしたら何が起こるのか」を細かくシミュレーションしました。そこには多くの日本人が見落としている「雇用の真実」を見つめるヒントが詰まっています。

「ありえないこと」が普通に起こる激変の「10年後」の世界で力強く生き残る方法、お伝えします。

 

<目次より>

1主体性を持って仕事をする
2嘘と本当を見分ける方法
3年功序列に期待するな
4環境が人を変える
5流動性のない組織に成長はない
6”研修”ですべてを変えるのは無理
7自分の市場価値を高める
8世の中にただ飯はない
9きれい事しか言わない人を信用してはならない
10ローンは組まないほうがいい
11若手に仕事を任せる
12過去の成功体験は捨てる
13「人に優しい会社」などない
14会社の”社会保障”には期待しない
15ブラック企業の心配をする暇があったら勉強しろ
16未来の成功体験はこれから作られる

 

四六判並製1C・248頁
定価 本体1600円+税
ISBN978-4-906790-09-8

amazon.co.jpで購入する

 

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城繁幸
人事コンサルティング「Joe's Labo」代表取締役。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。代表作『若者はなぜ3年で辞めるのか?』『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』等。

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