DVD「甲野善紀 技と術理2014 内観からの展開」評

「分からなさ」が与えてくれる力

「内観」でしか説明できないステージへ

「技と術理2014」における一番の特徴だと思うのが、「内観」という言葉が前面に出て来たことである。これまでの甲野先生の術理においても「内観」は主要なテーマであったはずだ。

だが甲野先生はあえて内観という言葉を避け、一般化した例えを用いて説明してきたような気がする。その姿勢に対して私は、内観という個人的な世界に留まらない、普遍的な原則を見いだそうとする試みなのだと解釈していた。

だが本DVDを観た後は考えが変わった。実は甲野先生の特技とも言える鮮やかな例え話は全て、内観的身体と現実との乖離を補うための作業だったのではないだろうか。そしていよいよその乖離の幅が狭まり、「一致してきた」と言えるレベルになって来たからこそ、「内観」という言葉でしか説明できない動きに至ったのではないだろうか。

こうしたことをあれこれ考えたり自分の身体で試したりすることが、甲野先生の進展を追う醍醐味であると同時に、自らの成長の糧となる。だからこのDVDを観てもし「なにがなんだか分からない」と思ったとしても、気に病む必要はない。それは甲野先生が身を置く世界の一端に触れた証左だと私は思う。

そこでは人間と人間の身体という圧倒的に不可思議な存在に直面し、ほんの少しでも分かろうともがくことで力を得ることができる。そんな「分からない」点と「分からない」点を繋いでベクトルにしていくことで、甲野先生が向き合っている世界が徐々に姿を現すのである。

世に溢れる正しさの押しつけは私たちから力を奪う。その一方で、甲野先生は「分からない」を提供し続けることによって、今を生きる私たちに大きな力を与えてくれているのだ。

 

評者:北川貴英

 

甲野善紀氏最新DVD発売中!
甲野善紀 技と術理2014――内観からの展開

kono_jacket-compressor一つの動きに、二つの自分がいる。
技のすべてに内観が伴って来た……!!
武術研究者・甲野善紀の
新たな技と術理の世界!!
武術研究家・甲野善紀の最新の技と術理を追う人気シリーズ「甲野善紀 技と術理」の最新DVD『甲野善紀 技と術理2014――内観からの展開』。

特設販売サイトでサンプル動画を含めた詳細を参照いただけます!

また現在、前作『甲野善紀 技と術理2013』とのお得なセット販売も行っています! この機会にぜひどうぞ!

1 2

その他の記事

トレンドマイクロ社はどうなってしまったのか?(やまもといちろう)
誰がiPodを殺したのか(西田宗千佳)
「Googleマップ」劣化の背景を考える(西田宗千佳)
空港を見ればわかるその国の正体(高城剛)
終わらない「レオパレス騒動」の着地点はどこにあるのか(やまもといちろう)
なぜ母は、娘を殺した加害者の死刑執行を止めようとしたのか?~ 映画『HER MOTHER 娘を殺した死刑囚との対話』佐藤慶紀監督インタビュー(切通理作)
Yahoo! JAPAN「爆速」の終わり(やまもといちろう)
「奏でる身体」を求めて(白川真理)
週刊金融日記 第284号<ビットコインのおかげで生きたトレーディングの教科書ができました、安倍首相衆院解散か他>(藤沢数希)
経営情報グループ『漆黒と灯火』というサロンらしきものを始めることにしました。(やまもといちろう)
フィンランド国民がベーシック・インカムに肯定的でない本当の理由(高城剛)
夏の帰省に強い味方! かんたん水やりタイマーセット「G216」(小寺信良)
快適な日々を送るために光とどう付き合うか(高城剛)
資本家・事業にとってだけ有利なデジタル革命、シェアリングエコノミー問題(やまもといちろう)
2023年は「人工知能」と「公正取引」の年に(やまもといちろう)

ページのトップへ