茂木健一郎
@kenichiromogi

茂木健一郎の「赤毛のアン」で英語づけ(2)

『「赤毛のアン」で英語づけ』(2) 何げないものへの〝感激力〟を育てよう

 

いかがでしょう?

 

アンはマシューと一緒に通ってきた道に、「街道」(avenue)の代わりに「歓喜の白路」(White Way of Delight)という名前をつけます。それから、自分は、ふさわしくない名前があると、いつも新しい名前を考えるのだといい、孤児院にいた女の子に、ひそかに別の名前をつけていたことを話します。このあたりは、ちょっとユーモラスですね。

この場面は、アンの感激力を表しています。地元の人が、ただ「街道」(avenue)と名づけて済ませてしまう場所に、新しい名前をつける。ここには、何げないものにも心を動かし、そこに意味を与えずにいられない人間の根源的な衝動があります。こういう感激力をもつアンだからこそ、この後、見慣れた日常を新鮮な風景に変えて、周囲の人に感化をもたらして行くのです。

その一方で、マシューの、「ちょっとキレイなところだね」と済ませてしまう、実際的なセンスも、この部分の読みどころです。英語圏には、アンのような人よりも、むしろマシューのような人の方が多い。英語圏が実際的なセンスを文化として持っていたからこそ、文明が発展したともいえます。原書に親しむことは、そのような、英語圏の人々の性格のようなものにまで出会い、読み取る機会を与えてくれるのです。

英語を通して、英語以上のものを学ぶ。英語学習は、単なる検定試験の点数稼ぎではない。人間としての幅を広げる、習練の場なのです。

 

この名文!

 

It's the first thing I ever saw that couldn't be improved upon by imagination.
想像力を使ってもそれ以上良くできないものなんて、初めて出会ったわ。

 

 

1 2
茂木健一郎
脳科学者。1962年東京生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。「クオリア」(感覚の持つ質感)をキーワードとして脳と心の関係を研究するとともに、文藝評論、美術評論などにも取り組む。2006年1月~2010年3月、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』キャスター。『脳と仮想』(小林秀雄賞)、『今、ここからすべての場所へ』(桑原武夫学芸賞)、『脳とクオリア』、『生きて死ぬ私』など著書多数。

その他の記事

学歴はあとから効いてくる?ーぼくは反知性主義的な場所で育った(岩崎夏海)
日本が世界に誇るべき観光資源、温泉について(高城剛)
G20直前で思うこと(やまもといちろう)
真の働き方改革、いや、生き方改革は、空間性と移動にこそ鍵がある(高城剛)
なぜ若者に奴隷根性が植えつけられたか?(前編)(岩崎夏海)
揺れる「全人代」が見せるコロナと香港、そして対外投資の是非(やまもといちろう)
2022年夏、私的なベスト・ヘッドフォン(アンプ編)(高城剛)
「お前の履歴は誰のものか」問題と越境データ(やまもといちろう)
野党共闘は上手くいったけど、上手くいったからこそ地獄への入り口に(やまもといちろう)
米大統領選に翻弄されるキューバのいま(高城剛)
「認知症」自動車事故とマスコミ報道(やまもといちろう)
あれ? これって完成されたウエアラブル/IoTじゃね? Parrot Zik 3(小寺信良)
なぜ「正義」に歯止めがかからなくなったのか 「友達依存社会」が抱える課題(平川克美×小田嶋隆)
本来ハロウィーンが意味していた由来を考える(高城剛)
「狭霧の彼方に」特別編 その2(甲野善紀)
茂木健一郎のメールマガジン
「樹下の微睡み」

[料金(税込)] 550円(税込)/ 月
[発行周期] 月2回発行(第1,第3月曜日配信予定) 「英語塾」を原則毎日発行

ページのトップへ