やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

資本家・事業にとってだけ有利なデジタル革命、シェアリングエコノミー問題


 かねがね思うのですが、技術革新は素晴らしいもので、合理的かつ効率的に時間を使うことができ、働く人にとって福音をもたらすものです。スキマ時間に仕事ができたり、無駄なしがらみの多い組織から離れて働くことでストレスなく暮らすことができる。最高だと思うんですよね。

 ところがですね、実際にいまの経済で起きていることは、デジタル化が進んでいる業界ほど、いわゆる労働分配率が下がり、設備投資やシステム投資に多額の資金が投じられて、働く人たちからすれば手取りがどんどん減っていくうえ、しがらみがない分、会社からの補償も切り離されて、将来収益と言う点ではマイナスになってしまっています。

 そればかりか、広く受けられる公教育以上の研修をこれらの企業は担ってくれることはなく、キャリアアップに繋がる投資を受けることができません。UBERの仕事が素晴らしいからといって、彼らはどうやったらUBERが事業として成り立つのかという原理を教えてくれることはないのです。すでに出来上がった人材をどこかから連れてきて、こういう事業をやるという立て付けで仕上げて終わりで、そういう胴元に近い人だけがシェアリングエコノミーの事業の枢要なところで権利を得て、上場したり、良いサラリーを貰い、そして次の上場候補の企業へと移っていくことになります。

 働き方改革もそうですが、DXが広く国民の生活の質向上になるというのはもっともですし、どんどん進めていったらいいんじゃないかと思う反面、マクドナルドジョブに最適化されたような働き方がいかに効率的になったところで、出前館の自転車を毎日漕いでいる人がプログラミングを覚えたり簿記会計の知識を得るようなジョブローテーションの対象にはなりません。そういう人が会社として正社員に登用されることがあるにせよ、その収益の源泉はシステムでありサーバーにある限りは、そこにリーチできなければその企業の利益の源泉に触れることはできないのです。

 結果として、分業が進み、働き方改革の名の元にデジタル化が進んで効率的な仕事が増えるほどに、胴元になる資本家と、その資本家が事業を組み立てるために雇うエリートの収入だけが上がり、そういう機会に恵まれない人たちはより多数、現場で自転車を漕ぐことになります。

 これは、現代のプロレタリアートだ。そう思うわけです。デジタルによって、階層化された世界。身を立ててやっていくには、誰かの歯車になって下積みをするのがいままでは仕事を覚える近道とされてきました。丁稚奉公をやって仕事の何たるかを知り、いずれ来る独立経営者としての学びを得る機会が、かつての企業文化にはありました。ただ、細分化された仕事を任され、デジタルによって一見最適化されて働きやすいこの社会は、実は分断された限られた情報だけで指揮系統が合理的に組まれ、仕事の全容を理解することなく、若い人たちが消費される世界観、といえばご理解いただけるでしょうか。

 デジタルは働く人たちを豊かにするのではなく、儲けられる人がより多く儲けられるためのツールになってしまっているのだとしたら、これはやはり情報やソフトウェアの面からも何らか歯止めをかけていく必要はあるでしょう。それがより儲かるから投資が集まり、より合理的な方法が編み出されるというのは資本主義の大事なサイクルですが、それは既存の社会が培った文化や教育の仕組みにフリーライドして良いという話にはまあなかなかならないでしょう。

 確かにネットはかつてないほど便利になったし、生活からは手放せないものになりました。私の子どもの頃から比べれば、限りない可能性を私の倅どもに与えてくれているのは間違いありません。しかしながら、その可能性から掴み取れる自立した人生、しっかりとした稼ぎ方は物凄く脆弱な基盤しか存在していないのもまた事実です。学ぶ能力だけでなく、学ぶ環境のなかった地方出身者は漏れなく階層の下の方に行きかねない現実が本当に目の前にあるのだとすると、私たちの社会は何を正義とし、あるべき社会だと考えてデジタルに向き合うべきなのでしょうか。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.Vol.317 デジタル革命やシェアリングエコノミー、巨大プラットフォーマーが孕む問題点を論じつつ、上手く進まないコロナ対策の事後検証を記す回
2020年11月30日発行号 目次
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【0. 序文】資本家・事業にとってだけ有利なデジタル革命、シェアリングエコノミー問題
【1. インシデント1】ネットプラットフォームと国際政治の軋轢の行方
【2. インシデント2】要するにあの辺では何が起きているのか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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