家電でも車でもなく、玩具に宿るデザイナーのビジョン
宇野 もう少し、デザイナーとしての大西さんの思想について伺って行きたいと思います。そもそも、大西さんはどうしてトランスフォーマーのデザインに関わるに至ったのでしょうか。
大西 一言で言うと「ものづくりを極めたい」と思ったからですね。僕はデザイナーがトータルでプロダクトに関わり、人々の生活に新しいビジョンを提案していくことが理想だと思っています。
僕は父が建築系の仕事をしていた影響で、元々は建物のデザインに興味を持っていて、高校では環境デザインを勉強していたんです。高校2年くらいから徐々にプロダクトのデザインに興味が出てきて美大に進学しようと思ったのですが、家庭の事情などいろいろあって、結果的には工学部に進学して機械工学を勉強しました。大学卒業後は家電メーカーに就職して研究開発部に在籍し、プロダクトの企画とデザインに関わることになったんですが、現在の日本の家電メーカーって、ひとつのプロダクトに数十人から百人くらいが関わっているんですね。僕も途中からは事業部の担当になって、商品化まで関わることはできなかったんです。そういった仕事のあり方を疑問に思って、最初から最後まで自分ひとりで全てできるようになりたいと思いました。
そこで自分でできることの幅を広げるために、改めてデザイン学校に入り直してカーデザインを学んだんです。それで卒業後、某自動車メーカーに内定を貰ったのですが……正直ものすごく悩みましたね。でも自動車も家電と同じで、基本的に複数人で対応するんです。日本の自動車メーカーは特にそうで、「ヘッドランプだけをデザインしました」といったことがよくある。それがどうしても性格的に合わなくて、一部だけではなく全部やれるところに行きたい、と思ってタカラトミーに来たんです。
そうしたらトランスフォーマーの設計を一貫して行うのはもちろん、変形前の自動車のデザインもまるまるやらせてもらったりしていて、まさに狙い通りだなという感じですね(笑)。
宇野 つまり、デザイナーが総合的なビジョンをプロダクトに込めるということが、日本のものづくりの代表であるはずの家電や車ではできない。それができるのが玩具業界ぐらいであるということですよね。
実は僕の身近にいるものづくりに関わっている人たちも、口を揃えて同じように言っているんです。例えば僕の友人に、根津孝太というデザイナーがいます。先日メルマガでレゴをテーマに対談したり、(【特別対談】根津孝太(znug design)×宇野常寛「レゴとは、現実よりもリアルなブロックである」<※記事へリンク>)、僕の対談集「静かなる革命へのブループリント」<※amazonリンク>にも登場していただきました。
根津さんは元々トヨタのカーデザイナーだったんですが、彼は「独立した今の方がトヨタとうまくやれている」とよく言っているんです。トヨタの内部にいたときには、自分の仕事がはっきり決まっていて、横につながっていって仕事をしようとしても、縦割りというシステムに阻まれてしまっていたと。
その根津さんは今、実車のデザインの他に、ミニ四駆を作っているんです。そして大西さんはトランスフォーマーを作っている。このことが日本のものづくりの現状を象徴しているように思えてならないんです。つまり「モノに物語を込めて社会を変える」ということが、玩具業界くらいでしかできない。
大西 僕も端から見れば「なんで自動車メーカーに行かなかったの?」という感じですが、自分の魂とか本能が、玩具業界をチョイスしたんだと思うんですね。
僕は、もっとデザイナー個人がビジョンを出していかなくてはいけないと思うんです。家電だとダイソンの掃除機なんかはすごいですよね。あれほど機能美を湛えた、作家性のあるプロダクトが世界中でたくさん売れている。日本の会社からは絶対に出てこなかったものです。
車でも、海外では外部のデザイナーが企業と対等な関係を結んで、緊張感を持って面白いデザインを出しているんです。日本ではデザイナーの名前はまず出さないですよね
今、タカラトミーの公式ウェブサイトに「トランスフォーマーデザイナーズレビュー」( http://tf.takaratomy.co.jp/toy/event/2014/05/post-41.html )という連載を掲載しているのですが、これは僕が提案したものなんです。
野菜は生産者がわかると安心して購入できますよね。プロダクトでも同じなんじゃないかと思っていて、デザイナーの名前が出ているプロダクトって少なくとも玩具ではトランスフォーマーぐらいではないかと思っています。
※この後、話題は「日本のものづくり思想」へと展開! 続きは宇野常寛さんのメールマガジン「ほぼ日刊惑星開発委員会 2014.7.23 vol.119」をご購読ください!
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