岩崎夏海
@huckleberry2008

岩崎夏海の競争考(その19)

夕陽的とは何か?(後編)

※「競争考」はメルマガ「ハックルベリーに会いに行く」で連載中です!

岩崎夏海の競争考(その19)夕陽的とは何か?(後編)

 

「正しく怒る」ためには、「正しい正しさ」を知ることが必要だ。では、「正しい正しさ」を知るためにはどうすればいいか? それは、「夕陽」を参考にすることだ。「夕陽がなぜ美しいか」ということを構造的に理解し、それを物差しにすることで、「正しい正しさ」を知ることができる。そこで今回も、前回に引き続き「夕陽がなぜ美しいか」ということを考えていきたい。

 

美しさの秘訣は、「変化が早い」こと

夕陽がなぜ美しいか? それは「変化が早い」からだ。昼と夜の境界だから、あっという間に景色が移り変わっていく。それが、美しさの秘訣となっているのだ。

人は、変化が早いものが好きである。DNAのレベルでそうプログラミングされている。例えば、人は「流れの速い川」が好きである。ほとんど無条件で引き込まれる。台風のときなど、危ないにもかかわらず、濁流となった川に多くの人が見入っている。あるいは、ニュース映像で流れると、誰でも息を止めて見てしまう。

ちなみに「面白い」というのは、「面白い」と感じられるようなものではまだレベルが低い。本当に面白いものは、無条件で引き込まれる。つい見てしまう。だから、「面白い」と思う暇がない。

例えば、街で誰かが喧嘩していると、つい引き込まれてしまう。これなどは、「面白さ」のレベルがとても高いということができよう。その逆に「このコンテンツ面白いなあ」というふうに、面白いと自覚できるようではまだまだなのだ。本なども、本当に面白いものは、それこそ寝る間も惜しんでつい読みふけってしまう。

 

面白さを生み出す魔法

「変化の早いもの」も、これと同じだ。人間は、ついそれに魅入られる。ちなみに、最近YouTubeで「タイムラプス」という、動画をハイスピードで再生する映像が流行っているが、これなどもまさに「変化が早い」のが面白がられている理由だ。変化が早いと、なんでも面白く見られるのである。チャップリンなど昔のコメディ映画も、再生スピードが早くなっていた。すると、通常のスピードよりも面白く見えるのだ。変化を早くするというのは、面白さを生み出す魔法だ。どんなものでも、変化を早くさせるだけでも面白くなるのである。

そこから逆算すると、変化するもの、変化の激しいものは、正しく、美しい――と判断がすることができる。例えば「子供」――それも赤ん坊。赤ん坊は、とても変化が激しい。幼ければ幼いほど、変化のスピードは早くなる。だから、赤ん坊は「正しい」のだ。そしてまた、「美しい」のである。

おそらく、赤ん坊が正しくなかったり美しくなかったりしたら、人類は絶滅しているだろう。なぜかというと、子育てにはさまざまな困難が伴うからだ。人類はそれを、彼らが「正しい」もしくは「美しい」から乗り切っているのである。彼らが誤っていたり醜かったりしたら、とてもではないがそんな苦労をして子供を育てなくなる。彼らが正しかったり美しかったりするから、困難な面については目をつぶっているのだ。

多くの人が、赤ん坊というのは「家族」だから、あるいは自分の「血を分けた存在」だから、無条件で育てると思っている。もちろん、そういう側面もあるだろう。だが、子育てというのは、とても面白い。しかも、自覚できないほど面白いのである。つい自然とのめり込んでしまうのだ。夢中になってしまうのである。だから、子育てというのは「面白さ」のレベルがとても高いということがいえる。その面白さに、人は夢中になるのだ。

1 2
岩崎夏海
1968年生。東京都日野市出身。 東京芸術大学建築科卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』など、主にバラエティ番組の制作に参加。その後AKB48のプロデュースなどにも携わる。 2009年12月、初めての出版作品となる『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』(累計273万部)を著す。近著に自身が代表を務める「部屋を考える会」著「部屋を活かせば人生が変わる」(累計3万部)などがある。

その他の記事

人生初めての感動の瞬間(光嶋裕介)
最近ハゲ関連が熱い、あるいは新潟日報と報道の問題について(やまもといちろう)
なぜ「正義」に歯止めがかからなくなったのか 「友達依存社会」が抱える課題(平川克美×小田嶋隆)
日本が世界に誇るべき観光資源、温泉について(高城剛)
タワマン税制の終わりと俺たちの税務のこれから(やまもといちろう)
主役のいない世界ーーCESの変遷が示すこと(本田雅一)
ヘッドフォンの特性によるメリットとデメリット(高城剛)
仮想通貨(暗号資産)相場は何度でもバブり、何度でも弾ける(やまもといちろう)
作家を目指すあなたへ その1〜「書き出しの一行」が小説作品全体のたたずまいを決定する!(草薙渉)
喜怒哀楽を取り戻す意味(岩崎夏海)
東芝「粉飾」はなぜきちんと「粉飾」と報じられないか(やまもといちろう)
コロワイド買収のかっぱ寿司が無事摘発の件(やまもといちろう)
人はなぜ「モテたい」のか? いかにして集注欲求を昇華させるかが幸福のカギ(名越康文)
地味だが「独自色」が蘇った今年のCEATEC(西田宗千佳)
今週の動画「切込入身」(甲野善紀)
岩崎夏海のメールマガジン
「ハックルベリーに会いに行く」

[料金(税込)] 880円(税込)/ 月
[発行周期] 基本的に平日毎日

ページのトップへ