平川克美×小田嶋隆「復路の哲学」対談 第2回

競争社会が生み出した「ガキとジジイしかいない国」

壊して来たものの中にあった、大切な機能

小田嶋:ただ、ここが面白いところなんですが、そういうご隠居さんの仲裁がきちんと機能するためには、実は日本古来の上下関係や家族関係みたいなものが前提として必要なんですよね。ご隠居さんに権威があるのは、年配だということもあるけど、そもそもある種の「身分制度」みたいなものが前提になっているんです。「偉い人の言うことは聞かなければいけない」ということですね。そういうものがなければ、大人というのはちゃんと機能してくれない。

でも、そういう権威的なシステムって、我々自身がこの何十年かの間に、否定し、嫌い、壊して来たものじゃないですか。少なくとも、家父長制とか、日本古来の上下関係みたいなものって、私が生涯かけて嫌ってきた価値観です。平川さんなんて、一番そういうものをぶっこわしてきた世代ですよね。

187A1563sm平川:おっしゃるとおりです。団塊の世代っていうのは結局、権威という権威を壊してきたわけですから。

小田嶋:そういう意味では、封建制とか身分制度とかジェンダーとか、あらゆる上下関係を解体して、すべての人が対等になる、フラットな社会に近づくなかで失われたもののひとつが、「大人」だということなのかもしれないな、って思うんです。

平川:家父長制とか、封建制とかって、見るからに「悪人面」をしています。だからこそ、僕らもそれをぶっ壊そうとしてきたわけです。一方で、それらが壊された後に現れて来たフラットな社会に立ち現れて来た、「人権」「民主主義」「友愛」みたいな、いまの世界を形作っている論理って、非常にきれいな、「正義面」をしているんですね。

でも、僕の年齢になると、そういう正義面にうさんくささを感じるようになる。実際、そういう「きれいな顔」をしたものが歯止めなく社会全体に広がることで、非常に厄介な問題を引き起こしつつある。「大人がいなくなる」ということに僕が懸念を覚えるのは、そういうことなのかもしれません。

 

第3回は1月13日(火)公開予定です! お楽しみに。

 


平川克美さん新刊『復路の哲学 されど、語るに足る人生

復路の哲学帯2平川克美 著、夜間飛行、2014年11月刊

日本人よ、品性についての話をしようじゃないか。

成熟するとは、若者とはまったく異なる価値観を獲得するということである。政治家、論客、タレント……「大人になれない大人」があふれる日本において、成熟した「人生の復路」を歩むために。日本人必読の一冊! !

<内田樹氏、絶賛! >

ある年齢を過ぎると、男は「自慢話」を語るものと、「遺言」を語るものに分かれる。今の平川君の言葉はどれも後続世代への「遺言」である。噓も衒いもない。

amazonで購入する

 

1 2 3 4 5

その他の記事

職業、占い師?(鏡リュウジ)
PS5の「コストのかけどころ」から見える、この先10年の技術トレンド(本田雅一)
グローバリゼーション時代のレンズ日独同盟(高城剛)
まるで漫才のような“5G最高”と、“5Gイラネ”が交錯した韓国5G事情(本田雅一)
クリエイターとは何度でも「勘違い」できる才能を持った人間のことである(岩崎夏海)
居場所を作れる人の空気術(家入一真)
街にも国家にも栄枯盛衰があると実感する季節(高城剛)
「昔ながらのタクシー」を避けて快適な旅を実現するためのコツ(高城剛)
iPad Proでいろんなものをどうにかする(小寺信良)
「岸田文雄ショック」に見る日本株の黄昏(やまもといちろう)
平成の終わり、そして令和の始まりに寄せて(やまもといちろう)
私的録音録画の新しい議論(小寺信良)
いじめ問題と「個人に最適化された学び」と学年主義(やまもといちろう)
チェルノブイリからフクシマへ――東浩紀が語る「福島第一原発観光地化計画」の意義(津田大介)
ロバート・エルドリッヂの「日本の未来を考える外交ゼミナール」が2017年8月上旬にオープン!(ロバート・エルドリッヂ)

ページのトップへ