壊して来たものの中にあった、大切な機能
小田嶋:ただ、ここが面白いところなんですが、そういうご隠居さんの仲裁がきちんと機能するためには、実は日本古来の上下関係や家族関係みたいなものが前提として必要なんですよね。ご隠居さんに権威があるのは、年配だということもあるけど、そもそもある種の「身分制度」みたいなものが前提になっているんです。「偉い人の言うことは聞かなければいけない」ということですね。そういうものがなければ、大人というのはちゃんと機能してくれない。
でも、そういう権威的なシステムって、我々自身がこの何十年かの間に、否定し、嫌い、壊して来たものじゃないですか。少なくとも、家父長制とか、日本古来の上下関係みたいなものって、私が生涯かけて嫌ってきた価値観です。平川さんなんて、一番そういうものをぶっこわしてきた世代ですよね。
平川:おっしゃるとおりです。団塊の世代っていうのは結局、権威という権威を壊してきたわけですから。
小田嶋:そういう意味では、封建制とか身分制度とかジェンダーとか、あらゆる上下関係を解体して、すべての人が対等になる、フラットな社会に近づくなかで失われたもののひとつが、「大人」だということなのかもしれないな、って思うんです。
平川:家父長制とか、封建制とかって、見るからに「悪人面」をしています。だからこそ、僕らもそれをぶっ壊そうとしてきたわけです。一方で、それらが壊された後に現れて来たフラットな社会に立ち現れて来た、「人権」「民主主義」「友愛」みたいな、いまの世界を形作っている論理って、非常にきれいな、「正義面」をしているんですね。
でも、僕の年齢になると、そういう正義面にうさんくささを感じるようになる。実際、そういう「きれいな顔」をしたものが歯止めなく社会全体に広がることで、非常に厄介な問題を引き起こしつつある。「大人がいなくなる」ということに僕が懸念を覚えるのは、そういうことなのかもしれません。
第3回は1月13日(火)公開予定です! お楽しみに。
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日本人よ、品性についての話をしようじゃないか。
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<内田樹氏、絶賛! >
ある年齢を過ぎると、男は「自慢話」を語るものと、「遺言」を語るものに分かれる。今の平川君の言葉はどれも後続世代への「遺言」である。噓も衒いもない。