※小寺信良&西田宗千佳メールマガジン「金曜ランチビュッフェ」2015年8月21日 Vol.046 <お盆明け全力発進号>より
筆者の手元に、あるサービスのテストアカウントがきている。そのサービスとは「Netflix」。9月2日から日本でサービスを開始する、世界最大のサブスクリプション型ビデオオンデマンド(SVOD)だ。8月に入り、メディア関係者にはテストアカウントが発行され、一足先に試せるようになったのだが、筆者にもその機会が与えられた。
というわけで、一足先にサービスの概要をご紹介しよう。
ただし、筆者としてはこの段階のレビューとして、2つの前提を設ける。
1 コンテンツの量は評価しない
まあ正直なところ、テストサービス段階でのNetflixのコンテンツ量は、お世辞にも多いと言えない。明らかに「埋まっていない」のが明白だ。だが、スタート段階でどうなるかはわからないし、そもそも、この種のサービス開始当初のコンテンツ量は少ないものだ。その辺はまた後日評価することとしたい。
コンテンツの量を評価しないということは、それに伴うレコメンドも評価できない。まあ、数が少なければ精度がでないのは当たり前。その辺の真価は、本番以降に考えたい。
2 テレビでの視聴画質は評価しない
Netflixはテレビでの視聴を強く押し出しているが、筆者の手元には現状、Netflixが視聴可能なテレビがないし、ゲーム機なども視聴用アプリが公開されていない。そこで、PCとiPad、スマートフォンでの視聴の結果となる。彼らがウリとする「4K視聴」も含まれない。記事中では主にiPad用アプリでの画面をご紹介する。
・iPad版Netflixの画面。VODとしては非常に一般的なものに思える。
一方、子供向けコンテンツだけが集まった「キッズモード」が明確に用意されていて、その辺のわかりやすさ・安心さはある、とも感じた。
・Netflixのキッズモード。一見してコンテンツラインナップが違う。
すでに述べたように、現在はテストサービスなので、コンテンツの量を積極評価することはしない。とはいえ、テスト段階ではかなり寂しい。コンテンツ調達での苦戦が漏れ聞こえてはくるが、ここから頑張って欲しいとは思う。個人的には、現状で関西テレビと製作会社・MMFがタッグで作っている、フジテレビ・火曜10時枠の作品がかなり揃っているところに「ニヤリ」としてしまった。コンテンツ調達の段階で、この辺は意図的に色を出しているのだろうな、と思う。筆者は1ドラマ好きとして、同枠・関テレ・MMFのセットのファンである。サービス開始時にも残っているようなら、視聴を強くお勧めする。
・濃いめのドラマファンならピンとくる、CX火曜10時/関テレ/MMF系ドラマがズラリ。
一方でNetflixらしいのは、オリジナル作品が揃っていることだろう。現段階では海外作品だけが見えるが、ドラマもドキュメンタリーもある。しかもドラマの場合、一気に全話並んでいる。そしてよく見ると、テレビ向け作品と違い、番組1本の長さが微妙に違う。統一する必要がないからだ。「全話一気にネットで配信する」ために作られたものであることが感じられる。
・Netflixオリジナル作品は、基本的に全話一気に公開される。しかも、1話の長さはテレビ番組と違い、微妙に違う。
画質も非常に良い。タブレット上ではもちろん4Kでは見ていないわけだが、他のVODより澄んだ印象がある。特に、筆者が頻繁に視聴するHuluが720pまでの配信であるためか、4K撮影かつ適切な解像度で配信されているNetflixのオリジナルコンテンツについては、かなり画質は良い。
またオリジナル作品では、音声に日本語吹き替えがきちんと用意されている。字幕も同様だ。これはドラマだけでなく、ドキュメンタリーなどでも同様だったので、ちょっと驚いた。
・オリジナルコンテンツの場合、英語音声+字幕はもちろん、日本語吹き替えもある。
ただし、「日本語化」という意味で残念だったのは、Netflixが独自に作ったと思われれる日本語入りジャケット写真(というかサムネイルというか……)の日本語のフォントも含めたデザインが、かなりぞんざいな印象だったことだ。字幕や吹き替えでの配慮に比べるといかにも「お手軽」に過ぎる。きちんと日本語のわかるデザイナーを雇うべきだ。
・どうも、日本語を含むジャケット写真のデザインが怪しい。このままでは日本人は満足しない。
このように、現状のNetflixは「オリジナルコンテンツ推しだが普通のSVOD」に見える。オリジナルコンテンツへの評価がポイントになるだろうか。同社がプロモーション上オリジナルコンテンツを推すのも、そうした統一的な戦略に則ったものであろう。
問題は、テスト段階の今、見えている「拙さ」「荒さ」をどこまで解消できるかだ。むしろみなさんには、この状況と9月2日の正式オープン時のとの違い、さらには、そこから数ヶ月でのコンテンツ追加や改善の状況に注目していただきたい。
そこで、この市場への「本気度」が本当に測れることになるからだ。
小寺・西田の「金曜ランチビュッフェ」
2015年8月21日 Vol.046 <お盆明け全力発進号> 目次
01 論壇【小寺】
個人的自由研究、でっかいトールボーイ型スピーカーを作る
02 余談【西田】
Netflixを「ちょいはやチェック」する
03 対談【小寺・西田】
テイラーメイドイヤホン〈Just ear〉の「なぜ」 (2)
04 過去記事【小寺】
開発者に聞くN・U・D・Eシリーズ最高峰「MDR-EX90SL」
05 ニュースクリップ
06 今週のおたより
07 今週のおしごと
コラムニスト小寺信良と、ジャーナリスト西田宗千佳がお送りする、業界俯瞰型メールマガジン。 家電、ガジェット、通信、放送、映像、オーディオ、IT教育など、2人が興味関心のおもむくまま縦横無尽に駆け巡り、「普通そんなこと知らないよね」という情報をお届けします。毎週金曜日12時丁度にお届け。1週ごとにメインパーソナリティを交代。
ご購読・詳細はこちらから!
筆者:西田宗千佳
フリージャーナリスト。1971年福井県出身。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。取材・解説記事を中心に、主要新聞・ウェブ媒体などに寄稿する他、年数冊のペースで書籍も執筆。テレビ番組の監修なども手がける。
その他の記事
俺たちにとって重要なニュースって、なんなんでしょうね(紀里谷和明) | |
感度の低い人達が求める感動話(本田雅一) | |
中国マネーが押し寄せる観光地の今(高城剛) | |
ガースーVS百合子、非常事態宣言を巡る争い(やまもといちろう) | |
なぜ汚染水問題は深刻化したのか(津田大介) | |
今だからこそ! 「ドローンソン」の可能性(小寺信良) | |
美食にサーフィンに映画と三拍子揃ったサンセバスチャンの「美味しさ」(高城剛) | |
ワタミ的企業との付き合い方(城繁幸) | |
回転寿司が暗示する日本版「インダストリー4.0」の行方(高城剛) | |
脳と味覚の関係(本田雅一) | |
名越先生、ゲームをやりすぎると心に悪影響はありますか?(名越康文) | |
急速な変化を続ける新型コロナウィルスと世界の今後(高城剛) | |
人生における「老後」には意味があるのでしょうか?(石田衣良) | |
縮む地方と「奴隷労働」の実態(やまもといちろう) | |
「分からなさ」が与えてくれる力(北川貴英) |