「東京五輪エンブレム問題」について
――新国立競技場の改修費騒動が未だに残るなか、続いて東京五輪の公式エンブレムに盗作疑惑が浮上。これはデザイナーの佐野研二郎氏が手掛けたエンブレムとベルギーのリエージュ劇場のロゴが似ているとの指摘を受けている問題だが、両者の言い分は真っ向から対立。このまま解決策は見えてくるのだろうか。
まずエンブレムの話の前に、俺は危険だなと思っていることがあって。それは、みんながあまりにも叩き過ぎ。こうやって何かが起こるとブワーッと「アレもダメ」「コレもダメ」って全部ダメにしていくじゃないですか。見ていてその風潮が恐ろしいですよ。「CASSHERN」のときもそうで、誰かが叩き始めるとそれにどんどん乗っかってくる。その暴力性に気が付かないままやってしまっている。イジメの構造がまさにそうだと思う。
――確かにそうですね。
オリンピックの問題に関しては、政治家やオリンピック組織委員会の対応もグダグダだとは思う。別に彼らを擁護するわけでもないけど、ここまでなにもかも批判的な見方をするようになっちゃうと、何も生み出せない。オリンピックって本来だったら、もっと希望のある話じゃないですか。でも、その希望が失われていくのは、非常に悲しいことだなと思いますよね。
――盗作疑惑に関しては、どのように感じましたか?
別にダサいとか批判するのは良いと思うんです。ただ仮にコピーされていたとしても、それぐらいいいんじゃないっていう寛容性が欲しい。だって、みんな同じモノ作りをやっているわけだから、似ることもあるじゃないですか。俺も映画を作っていて思うけど、どこかで見たシーンとかが影響しちゃうこともあります。結局、人の映画の延長線上でしかないわけで。全くのオリジナル作品なんて誰が作ってるんですか? っていう話ですよ。
――それはどのジャンルにおいても同じことが。
そう。だからいま起こっている音楽なんて、ほとんど誰かのコピーですよ。ビートルズだって、プレスリーがいてから、チャック・ベリーがいたからになる。それを遡っていくと、アフリカの太鼓みたいな話になるし。テクノとかEDMだって、遡っていったら、クラフトワークみたいな話になってくる。じゃあクラフトワークは全部オリジナルなのかっていったら、 クラシックとかに繋がっていったりするわけですよ。そうなると、もうキリがないでしょう。だから、もう少し大らかにいきましょうよとは思いますけどね。
――法廷での争いになると、この問題はさらに長引きそうです。
詳しくは分からないけど、ベルギー人の彼も訴えを起こすことで注目されるじゃないですか。だからもうモノ作りということとは、別のことになっている気がする。 今は、中国がありとあらゆるものをコピーしてるとか言うんだけど、50年代からつい最近までの日本なんて著作権を完全に無視してコピーだらけだったわけですよ。アメリカだって、ずっとヨーロッパをコピーしてきたわけで。
――著作権という概念があるからでしょうか。
だから、俺はもうどこかで著作権を廃止にしないといけない日がくると思う。 誰かのモノ、会社のモノっていうことも分かるんだけど、人類として考えたらみんなに開放するべきじゃないですか。だから著作権はなくして、最初に開発した人がお金ではない尺度で認められるようなことがもっとなされるべきだと思います。今はその認められる対価がお金になっているから、こんなことになるんだけど。それがお金じゃなくて、尊敬の念であったり。そういうことがもっと伝われば良いと思うんです。こないだテスラモーターズのイーロン・マスク氏が電気自動車の特許を開放したんだけど、そうすることで電気自動車が増えて石油依存も減少して人類の為になる。彼はもっと称えられるべきだし、ノーベル賞に値するぐらいのことだと思う。
――著作権による争いは世界中でありますね。
そんなことで延々と争っているわけじゃないですか。そのエネルギーをもっと建設的なことに使えば、ガンも治るし、公害もなくなるし、飢餓や戦争までなくなると思います。自分たちの問題だと思ってることが、全部なくなっちゃう。それでみんな幸せになれるはずなのにそうなれない。今は個人があまりにも不安で、自分を守らないといけないという考え方の1つの現れが著作権なわけです。もちろん頑張ったことに対しての対価は必要だし、それが認めてあげるっていう行為だと思うんです。でも、今はあまりにも人が人を認めたがらない。その風潮に恐ろしさを感じているわけです。何をやっても批判されるなら、お金でいいですっていうことになっちゃうじゃないですか。お金を持つと人は認めてくれるようになるから、さらに加速していく。まさに悪循環ですよ。だから、なるべく人のことは批判せずに大らかな気持ちで物事を見るように心掛ける。そうすれば、自分の人生も変わっていくような気がしますけどね。
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