川端裕人メールマガジン「秘密基地からハッシン!」より

NYの博物館で出会った「カミカゼ・エクスペリエンス」

「神風アタック」に耐えた空母

で、そういった有人宇宙飛行史を見つつ、ガツンとやられたのが、今回の話題のキモとなる展示。

「カミカゼ・エクスペリエンス」というコーナーがあった。

イントレピッドは、第二次世界大戦中、何度も「神風アタック」を受けつつも、沈まずに終戦を迎えた空母だという。

太平洋戦争末期の特攻隊は、日本国内では様々な切り口から語られてきたし、今後も語られるだろう。しかし、それは、「二度とあのような悲劇を繰り返すな」であっても「我が国のために生命を捧げた英雄たち」であっても、内側の理屈だ。

攻撃を受けた側には、当然ながら人命を含む被害と、それに対する応答があるわけで、イントレビットの「カミカゼ・エクスペリエンス」はまさにそこに訴えかけるものだった。アメリカで、基本的にアメリカ人が見ることを前提としているものなので、日本国内の文脈とはまったく違ってくる。

展示のタイトルは、「カミカゼ体験、"暗闇の日、そして、輝きの日"」で、説明書きにはこうある。

「戦火のもとで真の英雄的な行為を、このマルチメディア体験で追体験してほしい。「カミカゼ・"暗闇の日、そして、輝きの日"」は、1944年11月25日、イントレビットが2機の「カミカゼ自殺機(Suicide Planes)に攻撃された時に、あなたを送り込む──」

マルチメディアというのは、たくさん映像、音声、その他の視覚・聴覚効果を使っているからで、ある意味、ちょっと古い言葉のような気もする。(今のありとあらゆるコンテンツはマルチメディアすぎるので、いちいち言わない)。カミカゼ体験とは、日本で同じことを言えば、特攻一員として飛ぶことを指すかもしれないが、ここでは逆に攻撃される側の体験である。

で、そのマルチメディア体験をぼくもしたわけだが、なんとも、まずは居心地が悪かった。

海外にいると、自分が日本人であるという自覚をしばしば強烈に持たざるをえない。これは日本国内で「日本人は──」と議論するのとは異質な部分があって、自分が負っている文化的な背景や歴史的背景を代表するような気分にさせられるし、実際に、そのように取られる。と同時に、ぼくは個人であって、個人の意見も持っている。

この展示は、日本を声高に批判するものではなかった(むしろ、洋上で攻撃を受けるということを、淡々と描いていた。しかし、「カミカゼ自殺機(Suicide Planes)」のリアルな映像は衝撃的で、それは、ぼくだけでなく、多くの観覧者にとっても同様だったろう。)

そして、ぼくが感じた最大のことは、「カミカゼって、猛烈に怖かったのだ」ということだ。

考えても見てほしい、飛行機が飛んできたと思ったら、中に乗っている人が死ぬことを前提に突っ込んでくるのである。これは怖い。

「こいつら何をやるか分からない」という恐怖感を植え付けるには充分すぎる。

日本側が敵対国のことを「鬼畜」あつかいして、「人間」カテゴリーからはずそうとしたように、米軍側にとっても日本人は「何をやるか分からないモンスター」で、「人間」カテゴリーからはずしてもよいと感じるひとつの要素になったのではないか。だから、のちに、非人間的な原爆投下が合理化される余地も生まれたのではないか。そんな議論を聞いたことがあるが、この展示で20分そこそこの時間を過ごせば、その説がかなり説得力を持って感じられたのだった。

本当に受け取り方はいろいろだが、ときに「日本の文脈」から離れて、こういうデリケートな問題を眺めてみるといろいろ気づくことがあるものだ。
 
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〈カミカゼ体験〉
 
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〈豊富な動画が使われている〉
 
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〈みんな熱心に見る。やはりこの時の日本の所業はモンスターのように映る。立場が変わればそうなる〉
 
 

「スタートレック」由来の名がつけられた
スペースシャトル1号機

そして、このやたら重たい話題を通り抜けてから、スペースシャトル・エンタープライズへ。

エンタープライズは、OV-101、つまり1号機だ。実は、宇宙にはいかず、滑空試験など各種試験に使われた機体である。

エンタープライズといのうは、もちろんスタートレックから来ていて、スタートレック関係の話題も豊富。そもそも、シャトルの1号機がエンタープライズになったのは、トレキアン(スタートレックファン)の熱心な請願があったからだとか。

最初は、アメリカ合衆国憲法発布200年を記念して「コンスティテューション」という名前になるはずだったとか。

2012年にニューヨークに来る時には、ハドソン湾から搬入され、街中がエキサイトしたこともよく分かる。

ひと目見た印象は、やはり宇宙に行っていない機体だから、「きれいすぎる」かんじがするかな、というところ。

耐熱タイルは、つるつるだし、等倍の模型だと言われても納得してしまう。実際には、中身には宇宙に行ったものと同様の機材が詰まっているはずなのだが。
 
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〈シャトルの展示場は甲板の奥に設えられている〉
 
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〈すべてのオービターを横並びで見る〉
 
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〈宇宙にはいかなかった機体なので、タイルもてらっとしている〉
 
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〈ちょっと高いところから〉
 
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〈やっぱりこの部分好き〉
 
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〈エンタープライズの名はスタートレックから来ている〉
 
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〈2012年の搬入を当日の様子を、一般の人のtwitter画像で辿っている〉
 
今のところ、シャトルのオービターを見るのに最良なのは、ロスアンジェルスの科学博物館にあるエンデバーだよなと再確認。あっちは、実際に使われたものというだけでなく、まだ「仮設」なの状態なので、信じられないくらい近くで見られる。なにしろ、肩車された子どもが、手で触れるくらいなのだ。

それでも、やっぱり、「実物」はいいなあ。

イントレピッド博物館は、ちょっと日本人にとってヘヴィな部分もありつつ、思いがけぬことを考えさせられたことも含めて、推奨だ。

入館前と入館後では、評価する力点がまったく変わってしまった。
 
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〈出た後で見方が変わったのはこちらも。なんと、外から見て、マーキュリーカプセルみたいなものが!〉
 
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〈マーキュリーはヘリでの回収だったので、ジェミニの方か? 確信はない〉
 
 

 
(この記事は川端裕人メールマガジン「秘密基地からハッシン!」Vol.026に掲載されています)

 
 
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川端裕人メールマガジン『秘密基地からハッシン!

2016年10月21日Vol.026
<スペースシャトルと「カミカゼ・エクスペリエンス」/動物園コミュニティふたたび/ペンギンの歴史と「ナルニア国」に出合う/ドードー連載・コペンハーゲン編/再読企画・第四章コメント前半>ほか

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目次

01:アマゾンマナティを追いかけて(5)イキトスの野生動物保護センターCREA
02:keep me posted~ニュースの時間/次の取材はこれだ!(未定)
03:宇宙通信:スペースシャトルと「カミカゼ・エクスペリエンス」
04:秘密基地で考える:動物園の新たな役割は「コミュニティ作り」かもしれない・
ふたたび
05:移動式!:ペンギンの歴史と「ナルニア国」に出合う
06:連載・ドードーをめぐる堂々めぐり(26)「コペンハーゲンヘッド」を求めて
07:著書のご案内・予定など
08:特別付録「動物園にできること」を再読する(12)第四章「動物たちの豊かな
暮らし」コメント編前半

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川端裕人
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。普段は小説書き。生き物好きで、宇宙好きで、サイエンス好き。東京大学・教養学科卒業後、日本テレビに勤務して8年で退社。コロンビア大学ジャーナリズムスクールに籍を置いたりしつつ、文筆活動を本格化する。デビュー小説『夏のロケット』(文春文庫)は元祖民間ロケット開発物語として、ノンフィクション『動物園にできること』(文春文庫)は動物園入門書として、今も読まれている。目下、1年の3分の1は、旅の空。主な作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、アニメ化された『銀河のワールドカップ』(集英社文庫)、動物小説集『星と半月の海』(講談社)など。最新刊は、天気を先行きを見る"空の一族"を描いた伝奇的科学ファンタジー『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』(集英社)のシリーズ。

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