甲野善紀
@shouseikan

「風の先、風の跡――ある武術研究者の日々の気づき」

「狭霧の彼方に」特別編 その3

さいごに

かなり大雑把で長くなってしまいましたが、ここまでが、甲野先生との往復書簡の中で、私が考えてきたことの大枠です。

他にも書かせていただいたこと、その過程で考えたことはもちろんあるのですが、今回は、このような形でまとめさせていただきました。

今は大学を離れ、日本語学校で事務と生活指導の仕事をしております。今は、自分なりに他者と関わる方法を模索しながら、「言語」や「記号」について、もう一度自分の頭で考え直し、自分の言葉を少しずつ作っていこうとしている段階です。哲学であれ、信仰であれ、「言葉」の問題は、避けては通れないものですし、そこでなら、なんとか自分が壊れることなく考え続けることが出来るような気がするからです。さきにも書かせていただきましたが、大学に入る前も、「言語学でならバランスを取れる」と思って勉強を始めました。しかし、当時は「頭でっかち」な判断だったと思います。今は、違います。本や論文を書くか否かに関係なく、言語について考え、言語を解体する工夫をしていくことが、自分が生きていく上で決定的に重要なものだと身に染みて感じるようになりました。

今はまだ「自分の言葉」で語ったり文章を書いたりできる段階ではないのですが、これからも地道に、言語や記号について考え続けていくつもりです。

以上が、これまでの、私の考えです。

もしご縁がございましたら、お会いできますと幸いです。
 
田口慎也 拝
 

田口慎也氏の会見感想文を読んで

甲野善紀

以上、釈徹宗先生に宛てた田口慎也氏の自己紹介文を掲載しましたが、これを読まれた釈先生も、田口氏に会うことを大変楽しみにされていました。そして、今年の5月31日に練心庵で釈先生に田口氏を紹介することが出来ました。

この会見は私が予想していたよりも遥かに深い話がそこで展開しました。この時のことを、私は是非田口氏にまとめて欲しいと思い、そのことを依頼して送られてきたのが、これから掲載する田口氏の感想文です。この感想文は宗教に関して、自らが感じるところを書いた文章としては、今まで私が読んだこの種の文章のなかで最も心を打たれたもので、さまざまな読み方が出来ると思いますが、この感想文を読まれた方は、是非あらためて宗教について考え、また宗教というものと御自身が向き合っていただきたいと思います。

なぜかと言えば、7月6日、オウム真理教の教祖ならびに幹部が死刑になりましたが、この刑の一番の理由となった地下鉄サリン事件が、なぜ起こったかというと、現代では宗教というものと多くの人々が距離をとっているからだと思います。現代において宗教が力を失った理由のひとつは、科学が発展し、人間は自分達の力で今まで謎だったことが次々と解明されてゆくことで、無意識のうちにも宗教を迷信のように見下しているからだと思います。

しかし、科学が発展しても、いや発展すればするほど、生命の存在の謎は深まっています。人はなぜ存在するのか?人はどう生きるべきなのか?この問いは太古の昔から現代に至るまで、基本的に何も変わっていません。

しかし、現代は次第に忍び寄ってくる環境問題に不安を抱えながらも、人々は日々の生活に追われ、最も基本的で大切なことをないがしろにしているように思えます。

もちろん「人はどう生きるべきか?」という壮大な問いかけに対して確かな答えがあるわけはありません。しかし、この基本的で非常に重要な問いかけに答えるべく、人間が代々悩み苦しみながらも受け継いできた「宗教」というものを、あらためて現代の人々にも見つめ直し、考え直していただきたいと思います。

そう思う時、この私が紹介している田口慎也氏の釈徹宗先生に宛てた自己紹介文と、釈先生と会見した後の感想文は、現代人にとって少なからず参考になるところがあると思います。是非心ある方に読んでいただきたいと思います。

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甲野善紀
こうの・よしのり 1949年東京生まれ。武術研究家。武術を通じて「人間にとっての自然」を探求しようと、78年に松聲館道場を起こし、技と術理を研究。99年頃からは武術に限らず、さまざまなスポーツへの応用に成果を得る。介護や楽器演奏、教育などの分野からの関心も高い。著書『剣の精神誌』『古武術からの発想』、共著『身体から革命を起こす』など多数。

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