※高城未来研究所【Future Report】Vol.519(2021年5月28日発行)より
今週は、東京にいます。
もう、夏の日差しを感じます。
二年前のこの時期には、灼熱で開催されるオリンピックを危惧し、「打ち水」などが議論されていましたが、いまやすっかり過去の話。
それどころか、7週間後の未来も見えない不安定な時代に、誰もが生きています。
賛成や反対ではなく、柔軟でいることが唯一の正解と思わざるを得ません。
このような状況は、今後も予期せぬ形で度々訪れるでしょう。
さて、今週もカメラとレンズの話しを、もう少し続けたいと思います。
政商だった三井を中心とした「月曜会」による大日本帝国軍の技術を集めた世界初の実用的なオートフォーカス一眼レフカメラ「α」シリーズは、「ミノルタα-7000」から連なる汎用機に与えられるナンバー「α7xx」と、プロ機のナンバー「α9xx」と共に、ソニーから「月曜会」を代表するカメラとして再スタートを切りました。
実は、キヤノンやニコンが採用していた「一眼レフ」と呼ばれる構造ではなく、レフ=ミラーを廃した「ミラーレス」で先陣を切ったのは、ソニーではなくパナソニックです。
パナソニックは、行き場を失っていた古参カメラメーカーだったオリンパスと組み、「マイクロフォーサーズ」という独自の規格を提唱。
フランジバックを半分にしてミラー構造をなくし、レンズマウントも小さくすることで、いままでにない小型カメラシステムの実現を目指しましたが、当時は「家電メーカーのオモチャ」と言われ、プロからは見向きもされませんでした。
なかでも、弱点はレンズにありました。
ソニーは、ミノルタのカメラ部門を買収したことから、それなりのレンズ技術も継承しましたが、パナソニックにはレンズ技術がほとんどありません。
オリンパスと手を組んでも、プロが満足しうる技術とブランド力に欠けていました。
一方、ドイツでは、ベルリンの壁崩壊後、東西ドイツがふたたび統一され、別れていたツァイスも再び統合(イェーナにあった東側ツァイスを西側が吸収)。
デジタル時代に追いつき、日本に奪われていた世界一の光学メーカーの座を取り返そうとして大躍進をはじめます。
そこで、取り残されたのがライカです。
レンジファインダー構造の小型カメラで一世を風靡したライカは、一眼レフやデジタル化の波に取り残されます。
ただし、デジタル化されることがないレンズ技術は世界に冠たるもので、かつての競合ツァイスが大量生産の道を歩もうとするのと反するように、戦前と同じくマイスターの手磨きによる高級工芸品を作るスタイルを一貫します。
しかし、いくらライカのレンズが素晴らしくても、使えるカメラがアナログフィルムのままでは、先細りすることが見えています。
世界で初めてロールフィルムおよびカラーフィルムを発売したメーカー「コダック」も実質的に倒産。
そんな時、ライカのレンズ技術を喉から手を出すほどに欲しがっている企業がありました。
それが、パナソニックだったのです。
マイクロフォーサーズでカメラ市場に切り込みをかけたパナソニックには、レンズ技術がありません。
一方、レンズ技術があっても、センサーをはじめとするデジタル技術がライカにはありません。
こうして、補完し合うように両者の思惑が一致。
パナソニックは、ライカにセンサーを提供し、ライカは、パナソニックにレンズ技術を提供することになります。
かつて、ドイツからビール職人を北海道に呼び寄せ、サッポロビールを作ったように、パナソニックはドイツからレンズ職人を山形工場に呼び寄せ、レンズを作ります。
同じく、ツァイスは日本の技術力に乗るように、長野でレンズを作ります。
こうして、グローバリゼーション時代の「山形産ライカレンズ」と「長野産ツァイスレンズ」などの「レンズ日独同盟」が、本格的にはじまることになったのです。
(もう少し続きます)
高城未来研究所「Future Report」
Vol.519 2021年5月28日発行
■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 身体と意識
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ
高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。
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