やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

ロシアによるウクライナ侵攻とそれによって日本がいまなすべきこと

 いろんなところで論考を掲載していただきましたが、なかなか悩ましいのは同じロシアの隣国として、日本がウクライナの事例から何をどう学び、どう備えるのかという点で日本では完結しないことが多いよということであります。

 WiLLオンラインでは、現在進行形で取り組んでいるディスインフォメーション対策(フェイクニュース問題)についても解説記事を書きましたけれども、そもそもルーシ人という同じルーツを持つロシア、ウクライナとベラルーシの関係から、いわゆる民族的融和という観点から「そもそもが同じ国であるべきなのだ」とか「元の状態に帰るのだ」という古典的なコアステート(核心的領土、核心的権益)論に持ち込もうとする類のディスインフォメーションにコロッと騙される人が多いってことなんですよね。

ウクライナ侵攻で明らかになるディスインフォメーションの脅威

 JBpressやnoteでも指摘したのは意外とまともな知識人が、実はこういう背景があるのだという耳打ちで間違った理屈を一度信じてしまうと、相応の説得力を持って他人に披露してしまい、結果的に、ロシアの安全保障のためにウクライナに攻め込んだのだという文字通りロシアが信じてもらいたかったプロパガンダを書いてしまうことになります。

ロシアや中国が仕掛ける対日情報戦、コロッと引っかかる「B層」をどうするか 既にウクライナ侵攻に飽きている日本人、意味を伝えることなく消費される現実

日本語でも分かりやすい、ロシア発プロパガンダ分かるかなテスト

 一連の記事は、事実の中に嘘が混ざっている典型例であって、ウクライナがモスクワから1,000kmのところにあり、そこがNATOに加盟することでロシアにとって安全保障のリスクがあるのだとするならば(例えば“短距離”核ミサイルなどで)、すでにNATOに加盟しているポーランド北西部や、ラトビアなどは1,000km以内にそもそもあるじゃないかという話に気づかない人は「なるほど、ロシアがウクライナを攻めるには相応の大義名分があるのだな」「ロシアの言い分も聞かなければならない」という両論併記論になってしまいます。

 もちろん、いまどき射程が1,000kmしかないような短距離ミサイルに核兵器を積むなんてことは北朝鮮ぐらいしか考えないし、実効性を考えるならば、もっと防衛戦力のあるNATOの内側にミサイルシステムを配備するのは当然のことです。これを知らないと、プロパガンダにコロッと騙されることになるわけですね。同じように、同じルーシ人というルーツがあるロシアが西側の作った国境で勝手に国家が分断されたというディスインフォメーションも英語圏で一時期ロシアからかなり積極的に流されましたが、同じように民族融和で領土併合を考えた第二次世界大戦前のドイツのズデーテンラント併合なんかと同じであって、それならウクライナよりもロシアのほうがナチ度が高くなってしまいます。

 また、現代ビジネスには同じように近隣国が関係国に攻め込まれるような東アジアの有事に日本が巻き込まれるとしたら、日本はアジアの国々の主体となってこれらの問題に対処していかなければならないよという話を書きました。反響の中に、台湾有事よりも先に沖縄・尖閣諸島がターゲットになったらいきなり当事者になるのではないかというシナリオも提示されておりましたが、仰る通りです。同様に、南シナ海やマラッカ海峡のようにチョークポイントや平和航行が前提となっている地域でシーレーンを切られる恐怖なんてのも並存するので、まずはNEO(非戦闘員退避)をするために日本は何をしなければならないか考える必要があるし、日本の法律だけではなく周辺国の法制や軍備なども視野に入れて計画を立てないとたくさん日本人が死んでしまうよねということは理解するべきだと思うのです。

ウクライナ侵攻からの教訓―これが台湾有事だったら日本は負けている

 ドイツもロシアの脅威で軍拡に転じる一方、日本はエネルギー調達の多角化でロシアの依存をどこまで減らせるのかはこれからの焦点になります。ぶっちゃけ、減らすのは無理だろうとも思います。それは分かっているんだけれども、再生可能エネルギーへのシフトだけでなく、西側諸国でのエネルギー調達政策での協調において、アメリカやオーストラリアとの関係の中で処理しなければならないものも増えてきます。これに対して、我が国がどのような立場で何をするべきかはそろそろ真面目に健闘しなおす必要があるのではないかとも感じます。

日本人がウクライナ問題について当事者意識を持つべき理由とは

 資源輸入国である日本が、ロシアによる地政学的リスクの具現化によって高騰した資源調達価格の前に立ち往生するのは予想されたことです。本来は、これらを中国による禁輸措置が恐ろしいからと経済安全保障という枠組みで考えていたわけなのですが、それ以前の問題として、そもそも金を出しても資源が入ってこない状況に陥ったとき、いま検討している貿易危機管理の座組で事足りるのかを本来は再検証しなければならない時期であろうとも思います。

 このタイミングで、文春記事の冒頭にも書きましたが経済安全保障法制の責任者のひとりであり室長でもある藤井敏彦さんが、さまざまな問題を起こして職を辞さなければならない停職12か月という処分にいたったのは何とも残念なことです。これにあっては、そも公務員における停職12か月は原則として「自分から辞表を出せば懲戒免職にはしない」というラインと一般的には考えられると同時に、今回処分内容でも明らかになったように、無申告で3,400万円ほどの収入を国家公務員として得て退職金と目される約4,000万円から減殺されたこと、また、嫌疑としてはなぜか不十分という扱いになっているものの、傍目には左翼界隈では大変元気にLGBT問題などに取り組んでいた朝日新聞女性記者との親密な関係の中でいま日本が本腰で取り組もうとしている経済安全保障の立法前の枠組みの情報を流してしまっていたのではないかという話もないではありません。事実ならば、政府中枢にある高級官僚が実質的なハニートラップにかかって国家機密をメディアに流し、場合によっては当事者国への情報提供もなされた可能性があるという一級のスパイ事件として扱われかねないリスクもあります。

 ウクライナ侵攻と絡んで、日本がいま東アジアのなかで置かれている情報戦の全容把握とそれへの対処だけでなく、国内もさることながら海外に在住する国民の声明と財産を守るために日本がいかなる形で守るのかというもう少し幅の広い議論と法律、予算、人員の整備はどこかでどうしても必要になるのではないかと思わずにはいられません。

 一足飛びにできることでもありませんので、なるだけ早い段階で、路線を決めてきちんと着地してくれることを期待してやみません。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.363 ロシアによるウクライナ侵攻の件などから、今後日本が直面するであろう有事についての心構えを考える回
2022年3月16日発行号 目次
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【0. 序文】ロシアによるウクライナ侵攻とそれによって日本がいまなすべきこと
【1. インシデント1】案の定、イセ食品が逝くようなので、思い出話でも書く
【2. インシデント2】いま直面しているミステリーについて
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
【4. インシデント3】科学を信じる民主主義者が言論弾圧に抵抗しなければならない理由

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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