高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

資源がない国から徐々にリセッションの足音が聞こえてくる

高城未来研究所【Future Report】Vol.713(2月14日)より

今週は、メルボルンにいます。

久しぶりにメルボルンのカフェシーンを巡ると、各店やたらとベーカリー製品が増えたと感じますが、この背景には「LUNE Croissanterie」の大躍進があると思われます。

「LUNE」の創業者ケイト・リードは、航空宇宙工学を学び、イギリスでF1チームのエンジニア(空気抵抗学)として活躍していましたが、自身の限界を感じた時にパリでクロワッサン作りに魅了され、メルボルンに戻ってベーカリーを開きました。

いまからちょうど十年前、フィッツロイ地区の倉庫で、自作および改造したクロワッサン専用焼き器などを並べた巨大ラボを作り、そこで作られたパンを売る店「LUNE」をスタート。
この店が大評判となり、ニューヨーク・タイムズで「世界一のクロワッサン」と称賛され、世界中から多くの人々が訪れる人気店となりました。

この店の特徴は、大きくふたつ。
オーナー自らテクノロジーに長けた人物であることから、クロワッサン作りを科学的かつ精密に追求した点と、ケイト自ら11番トラムに乗って、いまもCBD地区にある支店と日々往復しながら細かく味をチェックしていること。
これが、革新的な味を落とさない秘訣だと言われています。

この「LUNE」のヒットをきっかけに、南半球のコーヒー・キャピタルと呼ばれるメルボルンのカフェでは、次々と高品質なベーカリー製品が置かれるようになり、オーストラリア経済の底上げもあって、どこのカフェも売り上げを伸ばしています。

しかし、お隣りニュージーランドは不景気に陥り、カフェの閉店が相次ぎ、メルボルンへの移住者も絶えません。
ニュージーランド統計局が発表したデータによりますと、2024年1月から11月までにニュージーランドから出国した人の数は前年から28%も増加し、過去最高を記録しました。
このうち50%以上がニュージーランド国籍を持つ人々であり、経済が低迷しているのが伺えます。
ニュージーランド経済は、近年、物価高と金利高の長期化により内需が落ち込み、特に主要な輸出相手国である中国の景気減速が多大な影響を及ぼしました。
これらの要因が重なって、2024年第3四半期にはリセッションに陥り、失業率も急上昇しています。

一方、オーストラリアは比較的堅調な経済成長を続けており、現在、ニュージーランド人がより良い労働機会や生活環境を求めてオーストラリアへ移住する傾向が強まっています。
オーストラリアは、いまも看護師や教師などの職種で積極的な人材募集を行っており、なかでもメルボルンが移住先として大人気です。 

また、オーストラリア経済が好調で、ニュージーランドが伸び悩んでいる主要因に、資源の違いがあります。
オーストラリアは、鉄鉱石、石炭、天然ガスなどの豊富な鉱物資源を持ち、資源価格が高騰するとオーストラリア経済は好調になりやすいのですが、ニュージーランドの主要産業は農業・酪農(乳製品、羊肉、果物など)であり、鉱物資源はほとんどありません。
しかも、酪農製品輸出の主要市場だった中国経済の低迷だけに限らず、世界的な農産物価格の著しい乱高下や気候変動の影響を受け、先行きがまったく見えません。

こうして移住者が急増し、人口が全オーストラリアで一番増えているメルボルンの物価高と人件費は、年々高まっています。
この結果、主だったカフェもベーカリーも二交代制にできないため、午後3時には閉店してしまい、大変不便だと感じています。
オセアニアの2カ国は、このまま2極化が進むのかもしれませんし、オーストラリアのなかでもあらゆる二極化が進行しているようにも見受けられます。

16時にカフェへ入れない南半球のコーヒーキャピタルの現在。
米国が内需資源に舵を切ったこともあって、資源がない国から徐々にリセッションの足音が聞こえてきていると、移民大国の移民都市で感じる今週です。

ちなみにメルボルンの気温は、今週38度まで上がりました!
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.713 2月14日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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