なかなかパンチの効いた展開になってきております。
鉄鋼・アルミの関税25%に始まり、自動車も関税かかるぞ、大統領府の人たちが国防関連の情報をSignalに流して大変なことになったぞ、ウクライナの資源割譲で割ととんでもない米露交渉内容が漏れ伝わるなどして、人間も国家も信頼を築くのには長年の忍耐が必要だが信頼が失われるのはほんの一瞬というのを目の当たりにしているところです。
冷静にやっていることを見るならば、トランプ政権の手がけている、打ち出した政策の一つひとつは「まあ、そうなのかな」と思えるものもあり、また、米FTC人事など、トランプワン(前回のトランプさんの大統領任期中)ではできなかった問題について、やり残しを先に潰していくスタイルはいかにもトランプさん流であるとも言えます。
また、トランプさんがいろいろとバンバン打ち出す内容については、一応は、ちゃんと違憲だからできませんとか、それは連邦に権限がなく州政府の同意が必要ですとか、見た目の派手さの割に着地しないものも多いので何とかなっている面もある、という印象です。
対EU外交にしても、NATOからの脱退をいきなり副大統領ヴァンスさんが宣言するのも、さんざんアメリカに防衛面で負担を強いておきながら、肝心のロシアのウクライナ侵攻でまともな地上軍も出さず多くがアメリカの持ち出しになってるじゃねーかお前ら仕事しろと言いたくなる面があるのは理解できます。
目下、ほとんど代理戦争のように血みどろの戦場となっているウクライナに対して、アメリカがゼレンスキーさんを頭越しに米露で外交するよ、しかも交渉の具になっているのは曲がりなりにも主権国家ウクライナの、それも開発の権益に関して、将来的にですらなく、過去の戦争でアメリカが持ち出した分の穴埋めで権益確保させろというのはなかなかしびれるものがあります。
いわば、中堅国以下が、本気になった大国からの侵略戦争に対して抗うことはもはやむつかしいという新秩序に、アメリカ自らが乗り出していっているに等しい状況ですから、これはもう弱肉強食というか実効的な利害関係ですべてを解釈していく以外に方法は無くなっているとも言えます。
裏を返せば、戦後80年談話を出す出さないで国内で揉めるぐらいには平和な日本において、その長年の同盟関係にあったアメリカが何らかの事態が発生したとき本当にやってきてくれるのかという、かなり根幹のところでの信頼が揺らぐのはヤバいぞよ、とも言えます。もちろん、対面のアメリカ人や、アメリカ社会全体で見れば、日本は信頼できる同盟国であると認識してもらえているようですし、日本もアメリカとの唇歯の関係があってこそ東アジアのリージョナルパワーとして西側諸国の一員で役割を果たすことができているのです。
ただ、アメリカ人は信頼できてもトランプさんは信用できるのか、というのは現在外交分野でも情報分野でもホットな話題です。トランプワンのころは、なんだかんだペンスさんがいて、ポンペオさんがいて、マティスさんがいて、ボルトンさんがいて、だんだんいなくなってったけどまだ計算が立った。
ところが、いまのトランプ政権において、ある意味で「こういう価値観を持ち、こういう未来図を目指した政策をやっているのだから、こういう事案があれば、こういう判断がなされるだろう」という読みが効かせられるアプローチは極めて乏しい。せいぜいあるとすると、たぶん関税の仕組みが分かってないからろくなことをしないんだろうなという諦観のところだけではないかと思います。やりたいことが、国富増大のためにアメリカはディールします、利益がハッキリしない国家的事業に関しては取りやめます、それ以外のことは決定しないか、とりあえずそのときの気分で判断しますというのが現状ではないかと。
といって、トランプさん自身はともかく周辺にいる人で、トランプさんへの忠誠心の高さを買われて誠実な人が要職にいるならば、そこをめがけてみんなでぶら下がる感じでしょうか。石破茂さんも含めて、そんなトランプさんを褒めて褒めて、日ごろから愛していると言い、大事なんだ、役に立つんだと言い続けていくしか方法がない。それはもう、トランプ政権というよりはトランプ王朝なのであって、王の前にかしずけ(Kneel before your king)をやらないといけません。
そこまでやっても、実際に朝鮮半島で何かあったとか、台湾海峡がどうだとか、そういう具体的な事件が起きたときに、トランプさんがコスト度外視で参戦してくれるという可能性は考えたくないものがあります。あいまいな台湾論(台湾曖昧論)でもそうでしたが、ひとつの中国原則(中)と、ひとつの中国政策(米)のころから半世紀、いまやトランプ王朝の時代になって、台湾そのものが非常に揺れる展開になっておるわけであります。
もっと言えば、尖閣諸島は日米安保条約5条適用を改めて確認(今年2月)したところで、ウクライナやNATOの事例を見ればトランプさんが損な取り決めは無かったとひっくり返すことだって容易に想像できるわけです。ましてや、ウクライナの独立保障は94年ブダペスト覚書でも分かる通り、ロシアからもアメリカからも実質的に無効の扱いとされ合意も領土も蹂躙されるに至っているのです。
限定された平和を目指すとき、スーパーパワーであるアメリカ様の地域保障があるからこそ軍事的野心を抑え込めていた諸外国も、普遍的な価値観そのものをアメリカがかなぐり捨て、アメリカ単体の国益を追求するようになっていくのであれば、述べた通り中堅国以下は野心を持つ大国に蹂躙されることを止めることはできなくなります。それまでもできていなかったんですから。
そういうやくざ映画のような世界観の中で、それでもまだ正気を保つことのできる国々と手を結び直し、実効性ある安全保障体制を構築しましょうという目線で我が国も外交を組み立てる必要が出てきます。麻生太郎政権から安倍晋三、岸田文雄さんへとつながる自由と繁栄の弧、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)と日米豪印4か国(QUAD)の枠組みにしても、これすなわちアメリカによる戦略的コミットが大前提です。
日本がリージョナルパワーとして中国・極東ロシア・北朝鮮の連合に対抗する前提で安全保障を考えるのならば、当面は韓国と、さらにはASEANとも結んで安全保障体制を築きましょうという割と遠大なことをやっていかなければなりません。そして、ここにいる国々はすべて、非核保有国です。そうであるならば、核保有国だったウクライナがブダペスト覚書で核兵器を奪われた後でプーチンさんのルーシ統一という領土的野心の的となったように、日本も韓国も実効性を持てる程度の核兵器の導入(あるいはシェア)を求められるような同盟の構築がマストになってきてしまいます。
必然的に、そのような環境下でご一緒できる国は当然限られ、再び日英同盟でも目指して外交を重ねていくしか残された方法が無くなってるのって本格的にヤバいとも思っています。アメリカが偉大過ぎて、信頼しきっていたところへ、たかだか三か月ほどトランプさんが暴れただけでこんなに世界の景色が違って見えてくるのかという驚きしかないわけですが。
やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」
Vol.472 先が見えない日米同盟の行く末を案じながら、ヤフーニュースが掲載媒体の整理を派手に始めた件やジブリ風画像が簡単にできてしまう生成AIの問題などを語る回
2025年4月3日発行号 目次
【0. 序文】「ウクライナの次に見捨てられる」恐怖から見る日米同盟の今後
【1. インシデント1】ヤフーニュースが掲載媒体の整理を派手に始めた件
【2. インシデント2】ChatGPTでジブリ風の画像を生成できてしまうカラクリの裏を考える
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A
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