高城剛メルマガ「高城未来研究所「Future Report」」より

柔らかい養殖うなぎが美味しい季節

高城未来研究所【Future Report】Vol.729(6月6日)より

今週は、鹿児島にいます。

日本最大の養殖ウナギの生産地である鹿児島県は、驚くべきことに日本の養殖ウナギ総量の半分近くを育てています。
特に大隅半島(肝属郡大崎町、鹿屋市、志布志市など)には地下水が豊富で水温が安定した養殖池が多数立地し、火山灰土壌を通ったミネラル分の多い地下水と温暖な気候がウナギの成長に適しており、シラスウナギ(ウナギ稚魚)の漁場が近いことも、産地形成に成功した要因です。

実は昭和期までは静岡県浜名湖周辺が最大産地でしたが、地下水枯渇、水温管理の制約、シラスウナギ資源の確保難などもあり、さらに開発が進んで徐々に都市化したことにより、条件の良い九州南部へと養鰻業が南下。この20年、鹿児島が日本最大の養殖ウナギの産地としてその地位を固めました。

ご存知のようにウナギは日本の食文化において特別な位置を占めており、毎年、夏の「土用の丑の日」には、多くの家庭でウナギを食べる長年の習慣が根付いています。この時期に消費されるウナギの需要は年々高まっており、出荷直前の現在は、養鰻業者にとってもっとも忙しいシーズンの到来です。

大隅半島の養殖業者たちは、長年の経験と技術を活かし、他の地域では真似できないような方法でウナギを育てています。
中でも特に注目すべきは、天然の湧水を利用した養殖方法で、この方法によってウナギは自然に近い環境で育ち、食味が格段に向上すると言われています。

こう考えると、TSMC(台湾積体電路製造)の熊本進出を後押しした主要ファクターのひとつなったのも、阿蘇カルデラ由来の地下水が年間6.4億立法メートル以上リチャージされ、火山性シラス層による自然ろ過でシリカ等不純物が少なく、超純水製造コストが低減できたことだったことを考えると、改めて九州南部の水資源の豊かさを実感せざるを得ません。

鹿児島の養鰻業がここまで発展した背景には、こうした恵まれた環境や養殖技術の進歩だけでなく、地域全体での連携や協力があったことも大きな要因です。地元の農家、漁師、さらには行政が一丸となって取り組んできた結果、この20年、養殖技術の進化によりウナギの供給は安定。
以前は、天然のウナギは限られた地域でしか獲れず、捕獲量も少なかったために非常に高価でしたが、養殖技術が発展することで、夏需要に応じた供給が可能となり、より多くの家庭でウナギが食べられるようになって、ウナギがより身近な存在となったのです。

実は、日本の養殖ウナギの半分近くを占める鹿児島県の養鰻に従事する人たちは、数百人程度しかいません。
この人たちが、現在日本人が1年間食している3億匹のウナギの国産1億匹の40%以上を支えていると考えると、とても感慨深いものがあります。

また、養殖業の発展には、水資源を中心に環境への配慮も重要です。
昨今、地球温暖化や海洋資源の枯渇など、環境問題が深刻化する中で、持続可能な養殖方法が求められています。
鹿児島の養殖業者たちは、静岡県を反面教師として環境に優しい技術を導入し、限られた資源を効率的に活用する方法を模索しています。
例えば、養殖池の徹底した水質管理や、飼料の選定、さらには排水の処理方法にまでこだわりを持って取り組んでいます。

その一方で、養殖業における課題も依然として存在します。
養殖ウナギに対する消費者の信頼を確保するためには、品質の維持とともに、消費者に対して透明性のある情報提供が求められます。
養殖ウナギがどのように育てられ、どのような環境で生産されているのかを正確に伝えることは、消費者が安心して購入できるための重要な要素です。
また、近年では「天然もの」と「養殖もの」の違いに関して議論がされることも多々ありますが、特に夏季は養殖ウナギも品質の面では十分に優れていることも多く、結果的に鹿児島産の養殖ウナギは、その品質の高さから多くの消費者に支持されています。

さらに、今後の技術革新にも期待が寄せられています。例えば、AIを活用したさらなる水質管理や、IoT技術を用いた養殖管理システムなどが、今後さらに進化することで、養殖業の効率化とともに品質の向上が図られることが予想されます。これらの新技術は、味や業界全体の生産性を高めるだけでなく、環境への負担を軽減する効果も期待されているのです。

また、今後は国内市場だけでなく、和牛同様、海外への輸出にも力を入れていく必要もあります。
特に、アジア市場におけるウナギの需要は非常に高く、「鹿児島産うなぎ」が海外市場でも評価されることは、地域経済にとっても大きなプラスになると考えられており、海外進出にあたっては、輸出先国の規制や文化に配慮しつつ、鹿児島産の魅力を最大限に発信することが求められます。

いま、「走り」と呼ばれる春の土用の丑の日に食す、野生味ある天然物の季節が終わり、柔らかい養殖うなぎが美味しい季節に入りました。

しかし、南日本は暑いですね。
日中30度まで上がりました。
もう夏です!
 

高城未来研究所「Future Report」

Vol.729 6月6日発行

■目次
1. 近況
2. 世界の俯瞰図
3. デュアルライフ、ハイパーノマドのススメ
4. 「病」との対話
5. 大ビジュアルコミュニケーション時代を生き抜く方法
6. Q&Aコーナー
7. 連載のお知らせ

23高城未来研究所は、近未来を読み解く総合研究所です。実際に海外を飛び回って現場を見てまわる僕を中心に、世界情勢や経済だけではなく、移住や海外就職のプロフェッショナルなど、多岐にわたる多くの研究員が、企業と個人を顧客に未来を個別にコンサルティングをしていきます。毎週お届けする「FutureReport」は、この研究所の定期レポートで、今後世界はどのように変わっていくのか、そして、何に気をつけ、何をしなくてはいけないのか、をマスでは発言できない私見と俯瞰的視座をあわせてお届けします。

高城剛
1964年葛飾柴又生まれ。日大芸術学部在学中に「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリ受賞後、メディアを超えて横断的に活動。 著書に『ヤバいぜっ! デジタル日本』(集英社)、『「ひきこもり国家」日本』(宝島社)、『オーガニック革命』(集英社)、『私の名前は高城剛。住所不定、職業不明。』(マガジンハウス)などがある。 自身も数多くのメディアに登場し、NTT、パナソニック、プレイステーション、ヴァージン・アトランティックなどの広告に出演。 総務省情報通信審議会専門委員など公職歴任。 2008年より、拠点を欧州へ移し活動。 現在、コミュニケーション戦略と次世代テクノロジーを専門に、創造産業全般にわたって活躍。ファッションTVシニア・クリエイティブ・ディレクターも務めている。 最新刊は『時代を生きる力』(マガジンハウス)を発売。

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