やまもといちろうメルマガ「人間迷路」より

グアム台風直撃で取り残された日本人に対して政府に何ができるのかという話


 旧聞となりつつありますが、猛烈な台風2号に直撃されたグアムで、電源の99%が喪失しグアム国際空港が被害を受けて2週間以上稼働しなくなるという天災がありました。そこに旅行や仕事でグアムを訪問していた日本人がかなりの人数取り残され、少し復旧したインターネットでグアム旅行者が「日本政府は何もしてくれない」的なことを書き、いつものヘルジャパンな感じで書き込みした人が叩かれておりました。被災した被害者なのにね。

 で、個人的に思うのは、たとえ旅行であったとしてもこれらの日本人が現地で被災して困っているのだから、政府は邦人の生命や財産を守るために救済に乗り出したり、関係先や諸国を通じて日本人の安全に便宜を図るべきと思うわけです。私の見る限り、岸田文雄さんも内閣官房も外務省もあまりこの面で具体的なコメントはしていなかったように思います。

 あまり安全ではない地域に渡航することのある私からしますと、この手の天災は確かに事前に渡航情報として注意しましょうと表記することはあっても被災した人は分かっていて訪問したのだから自己責任だと言われがちです。確かに話の半分はそのような情報にそもそも接していないか、情報を知りつつそれでも渡航を決断した本人に責任があると言われればそうかなと思います。

 ただ、そういう本人の責任論とは別に、生きるか死ぬかの状況になりそうな日本人に対して、その理由はともかく政府は役割としてこれを救う行動をする必要があると思っているんですよ。

 かつて、自分は死んでもいいから現地に行くと仰って、実際現地で拘束されちゃって猛烈にバッシングされた安田純平さんのケースなども想起されますが、そりゃ外務省などからすれば、やめろといったのに行きやがってという心情的なものがあるのは間違いありません。ただ、それでも行って捕まってしまったのであればその開放に政府が手を尽くすのは当然の責務であると同時に、どういう形であれ、現地に一番詳しいのは安田さんのような人なのだから、政府に対する考え方や日の丸がどうのこうのという話とは別に、状況についてきちんと話を聞き、いつなんどき別の何かがあっても判断の材料になるような、または交渉の人脈の手掛かりになるような話を取っておくのもまた必要なことと言えます。

 アルジェリアでのテロで、現地で操業していた日揮とその協力会社の日本人が多数拘束され、殺害されてしまった事件がありましたが、日本は政府としてまったく現地に浸透していないところでも日本企業はそっちに根を張って仕事をしているわけです。そういうテロ事件で拘束されたところへ自衛隊が駆け付け警護するなんてことは不可能ですし、現地で展開するには主権の問題はもちろんあるけれど、本来であれば、不測の事態などは世界各国で起きる可能性があるのだから日本人の安全確保のための情報交換は常に行われているべきであるし、いま以上にそのあたりの問題についてはセンシティブになっておかなければなりません。

 しかも、いわゆる領事業務については外務省自体がやりたがらないので、適当に弁護士業界から傭兵としてそういう問題に関心のある人を連れてきて据えたり、現地で活動している専門商社や日本人居住者を選任して連絡役にしてしまっている場合もあります。うっかりすると、外務省よりも現地で働く商社筋のほうが圧倒的に現地に根付いて情報が取れているケースも少なくありません。

 今回のグアムの件も、在ハガッニャ日本国総領事館ほか政府関連の組織の充足率が低すぎて、おそらくは、目立った被災日本人への支援はむつかしかったのではないかと思います。アメリカ領であるグアムですらそうなのだから、では台湾は、東南アジア諸国での有事があった際は、と思うとちょっと気が遠くなるところだと思いますし、もっと深刻にグアムでの一件はあり方について考えるべきなのではないかなあと思いました。
 

やまもといちろうメールマガジン「人間迷路」

Vol.407 困難事態に遭遇した海外邦人救済のあり方に危惧を覚えつつ、衆院解散や2024年問題、AIブームなどについてあれこれ考える回
2023年5月29日発行号 目次
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【0. 序文1】グアム台風直撃で取り残された日本人に対して政府に何ができるのかという話
【0. 序文2】イマイチ「こだわり」が良く分からない岸田文雄さんが踏み切るかもしれない早期解散
【1. インシデント1】物流業界限界問題と法制度 実務上の制約から見た働き方改革関連法対応の課題
【2. インシデント2】AIは必ずしも正しい答えを出さないという現実を社会は受け入れられるのでしょうか
【3. 迷子問答】迷路で迷っている者同士のQ&A

 
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やまもといちろう
個人投資家、作家。1973年東京都生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。東京大学政策ビジョン研究センター客員研究員を経て、情報法制研究所・事務局次長、上席研究員として、社会調査や統計分析にも従事。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。日経ビジネス、文春オンライン、みんなの介護、こどものミライなど多くの媒体に執筆し「ネットビジネスの終わり(Voice select)」、「情報革命バブルの崩壊 (文春新書)」など著書多数。

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